第104話 到着。皇国首都アラーシェ

大変お待たせしました。






「関所が見えて来たッスよ!」

「……ドーラちゃんここで降りてください」

「なんでやよ?」

「上空からだとドーラちゃんさんの姿しか見えないッス。そうなると攻撃される可能性があるッス。つまり、用心に越した事はないってことッス」

「わかったやよ」

「あ…いや、でしゃばってすみませんッス…」


 懇切丁寧にルティアの意図を説明しては最後に卑屈な態度に戻った聖槍に少々戸惑いながらルティアは感謝する。


「大変助かりました。聖槍様、ありがとうございます。という訳でドーラちゃんお願いします」

「はーい」


 元気よく返事をしてドーラが地上に降りた。

 その間、ルティアは遠目でも飛行する姿を視認できても可笑しくない。もし聞かれた場合は自分の使い魔として誤魔化す事。

 念のために、昨夜の件が伝わっていて、誘拐された一人としてドーラの特徴が知られている事も懸念して人型に変身せずに入国すると説明した。


「なんかお姉ちゃんの行動あるじ様みたいやよ」

「え?そ、そうですか?」

「うん。ふわふわぁって感じでそう思ったやよ」

「ふわふわ……曖昧?」


 要は何処と無くソリトに似た行動をしたという事だろう。

 すると、ゆらゆらと小さく身体を横に揺らして歩き始めたルティア。


「【癒しの聖女】様嬉そうッスね。顔緩んでるッスよ」

「え?そんな顔してます」

「してるやよ」

「自覚無しッスかぁ。いや、すみませんッス!何でもないッスうちの言葉なんか聞かなくて良いッス」

「いえ、普通に聖槍様のお話聞きますよ」


 ただ聖剣の言う通り、卑屈過ぎると会話が中々出来ないので少しずつでも直していった方が良いかなと、ルティアは内心思った。


「うちなんかの話を聞いてくれるなんて、やっぱり聖女なんスね」

「いえ、全然私は聖女ではありませんよ。嫌悪も憎悪とか抱きますし、面倒くさいとかダルいなぁとか普通に思いますよ」

「いやそれは当たり前ッス聖女も感情ある生き物ッスよ。あ、すみませんッスうちなんかが反論しちゃいましたッス」

「あいつは嫌いだけど、槍さんはなんかめんどくさいやよ」

「ドーラちゃん……」


 今そんな言葉を口にしたら、とルティアが思っていた時には既に遅かった。


「そうッスよね。うちはしゃべらない方が良いんスよ」


 どんよりと沈んでいく聖槍の言葉を聞いてドーラが唸り声を上げた。

 

「うがぁ!だったらどうにか直せばいいやよ!」

「む、無理ッスよぉ」

「無理じゃないやよ!槍さんなら直せるやよ」

「……何でそう思うッスか?」

「槍さんはめんどくさいけど、やさしい…やさしい………槍さんだからやよ!」

「………ありがとうッス。まあ、その、頑張ってみるっスね」


 そう言った聖槍の言葉を聞いて、ルティアは今回のだけは卑ではなく辛い、悲しい感情が含まれていたような気がした。


「あの、何かあったのですか?」

「え?何がッスか?あ、生意気な返答してしまってすみませんッス」


 尋ねると、聖槍はいつもの卑屈な態度に戻ってしまった。

 何かあった事は、聖槍の卑屈の無い、小さくとも前向きな肯定の雰囲気の声で、ルティアは確信を抱いた。





「聖女様ぁ〜!?」

「はい聖女です」


 関所の前に到着したルティア達。

 そこへ、関所の前で槍を突き立てながら立っていた白色の鎧を着た兵士の男に制止の言葉を声を掛けられ、身分証であるタグの提示を求められた。

 ルティアがフードを取ると、その提示を求めた相手がステラミラ皇国の聖女だと知って、兵士の男性は目が飛び出るのではというくらい目を開いた。


「ご無事だったのですね!」

「ご無事、とは」

「一週間くらい前ですかね。中央都市アルスに聖女様が滞在している事を行商人伝に誰かが聞き、自分も聞いたときは心配で。きっと他の皇国の人達もきっと心配してます」

「それは…ありがとうございます」


 ステラミラ皇国は軍事力より国民の生活を第一に政策をしている。だからといって軍事力を疎かにしている訳ではない。他の三国にも劣らない実力はある。

 また、政策によって皇国間で平民と貴族の関係は四国の中で最も良好な仲だろうと思われる。


 それは良いのだが、昨夜の件が届いたのかと少し身構えてしまった事にルティアは目の前の良心的な兵士や皇国の人達に対して申し訳なくなった。


「ところで、昨日の夜から私達が来る前に何か変わった事はありましたか?例えば魔物が多く来たとか」

「いえ、でも聖女様が来る前に遠目ではありますが飛行する魔物を確認しましたね」

「…そうですか」


 やはり見えていた。

 内心で冷々しながら強張った笑顔だったルティアは他にはないか尋ねる。


「いえ、それ以外では特に変化はありませんでしたよ」


 どうやら、シュオンはアルスの冒険者と兵士達と引き返す事が出来たようだ。

 距離がかなりあるとはいえ、スタンピードの影響がないとは限らないと、確認も兼ねて尋ねた事が杞憂で良かった、とルティアは安堵して息を吐いた。


「そういえば、そこのドラゴンも飛べますね」

「ですね。」

「もし、聖女様達だったなら余り高く飛ばないでください。危険ですから」

「はい、分かっています」


 だから、途中で降りたのだ。

 降りておいて本当に良かったと、ルティアは一息吐いた。


「聖女様、どうかされましたか?」

「いえ。それと、半月程前に【天秤の聖女】が皇国に入りませんでしたか?」

「ええ、入国なされましたよ。その日偶々当番に…」

「本当ですか!?それでまだ滞在してますか!?」


 身体を乗り出してルティアは皇国兵士の言葉に被せて尋ねた。


「も、申し訳ありません。自分には分かりかねます」

「……そうですね。とりあえず首都に向かってみます」

「お役に立てず申し訳ございません」

「いえ、入国したという情報を教えてくださっただけで有難いです」

「少し、変わられましたね」

「…そう、ですか?」

「まあ、自分の観点なので」


 それから、ルティアはタグを提示と銀貨一枚を払って入国した。

 徒歩で平原を約十二分程西へ一キロ直進した所にアルテミオンという街がある。

 だが、ルティア達は大きく回りながら南へ一キロ程歩いた辺りで、ドーラに跨がり、北西の方角へ飛んで進んで行く。

 フードを深く被って立ち寄れば問題はないかもしれないが、ドラゴンの使い魔はかなり珍しい。


 今は余り目立つ行動を避けたい。また、万が一フードに隠れた人物がルティアだとバレた後の事を考慮すれば、同じ皇国民とはいえ正体を隠すのは申し訳なくも、仕方のない事だった。

 それに、【天秤の聖女】の情報を得るならばステラミラ皇国首都アラーシェの方が情報が集まっていて手っ取り早いからだ。


 

 首都アラーシェを目指して三時間弱弱、平原を進み、その先の森を抜けた草原で、少し間ドーラの翼を休ませる為に休息と共に軽食を取ることにした。


 ルティアは肩から支給袋を下ろして、中からナイフとパンを二つ、干し肉、リンゴ一個を取り出し、パンを横に半分に切り分け、リンゴの皮をナイフで剥きいて二センチ程に切る。

 周辺から落ち枝木を集めた焚き火でリンゴを軽く焼き、干し肉と一緒にパンに挟みサンドイッチにした。


「どうぞ、ドーラちゃん」

「ありがとーやよルティアお姉ちゃん!いただきますやよ!」

「【癒しの聖女】様も料理できるんスね」

「おいしいんよ!」

「良かったです。私は全然。それにこれは小さい頃にお世話になった神父様が時々施設の皆に作ってくれたちょっとしたデザートなんです。料理は未だに出来ませんが、これだけは出来るように頑張ったんです」

「良い神父様ッスね」

「はい。私達にとって神父様は本当の親の様に思ええるくらい優しい方でした」

「……お姉ちゃん大丈夫?」

「大丈夫ですよ」


 浮かない表情に気付いて声を掛けてくれたドーラに、ルティアは笑顔を向けた。


「すみませんッス。うちの余計な一言で空気が……詫びとして、うちをポッキリ折って欲しいッス!」

「自決行為の卑屈禁止です!」

「……槍さんめんどくさいやよ」

「おぉおうぅ……」

「聖槍様は仕方のない方ですね」

「面目無いッス……」

「ふふ、何か聖槍様の卑屈…少し面白いです」


 聖槍は卑屈過ぎる。

 だが、立て続けにオーバーな発言ばかりを聞いていると、聖槍の事が段々ポンコツにルティアは思えてきた。

 そして、今度はそれが可愛く思え、終いに自分の考えの至り方や卑屈ポンコツな聖槍が面白可笑しくて笑えてきたのだ。


「おもしろいやよ?」

「流れ的にですかね?」

「うぅ……ハズいッス」


 それからルティア達は軽食と片付けを済ませて出発してから一時間後、ステラミラ皇国首都アラーシェに到着した。


「わぁ真っ白やよー!」


 人型に変身したドーラが感想を叫んだ。


 陸に囲まれた海の上に浮かぶ首都アラーシェ。

 真っ白な円柱やアーチ、ドームなどの建築と水路に流れる青い海のコントラストは四国の中で最も美しい都市として広まっている。


「変わらない白さッス」

「そっか、聖槍様はもう何度も訪れてていても可笑しくないんですよね」

「何回行ったか忘れたッスけど、懐かしいと思えるくらい訪れたッス」


 どちらも意味としては同じでは等と言うと聖槍がまた自分を卑下するかもしれない、とルティアは心に留める。


「では、変わった店とか分かったりしますか?」

「勇者が代変わる度に大小変化していますから、逆にわからなくなってるッス」

「そうですかぁ。少し自国の歴史を知れると思ったのですが…あ」

「すみませんッス。うちの記憶力が軟弱だから、いや最軟弱だから、うちの頭の中はクラーケンの体並みッス」


 その時、頭の中に本の絵で見たクラーケンが複数の足を動かしている姿を想像してしまい、ルティアは苦い物を食べた後の様な表情をする。


「うぇ」

「クラーケンってなんよ?」

「ドーラちゃんがいつか会えた時に教えますね」

「ルティアお姉ちゃんの笑顔、ちょっと怖いやよ」

「前から笑顔は怖いです」

「んなわけねぇッス。ハッ!生意気言ってすみませんッス!」


 うん、やっぱり聖槍はポンコツだ、とルティアは早くも再確認しながら城に向かった。

 


 



――

どうも翔丸です。


突然のプチ設定。


皇国の首都モデルは街並みがヴェネチェア、色がサントリーニ島です。


とりあえず、今年の投稿はこれで最後にします。


皆様良いお年を。

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