第103話 不安な3

 翌朝。

 目蓋から陽光が微かに射す。

 ひんやりと冷たい空気が肌に触れる。

 あれから、一つの不安も訪れる事なく寝れたらしい事をルティアは実感する。

 上空の島が照らされる。早朝ではないのかもしれない。


 ルティアはゆっくり目を開く。

 すると、そこには長剣に戻った聖剣の柄が見えた。


 地竜戦での契約時、人の姿にはどんな方法で変身しているのか聞いたルティアは、所持者となった者の魔力で変身している事を知った。

 倦怠感がない。維持するにも魔力が常時必要になる。

 おそらく、ルティアが寝た後、直ぐに戻ったのだろう。


「ありがとうございます、師匠。良く眠る事が出来ました」


 聖剣の優しさに、微笑みながら感謝を述べて、ルティアはベッドから起き上がる。


「…皺は……ないですね」


 戦闘用ドレスに皺が出来てしまっていないか確認するルティア。

 着るものが他に無いとはいえ、アランに貰って早々皺を作るのは何だか申し訳なかったのだ。


「さて……」


 と、呟きルティアは隣のベッドで寝ているドーラの元まで行く。

 心地良さそうに寝ている。


「ありゅじしゃま〜ごは〜ん」


 可愛い寝言にクスッ、とルティアは笑いながら、呼び掛けてドーラを起こす。

 揺すってみたが、反応はない。

 ルティアは奥の手を出す事にした。


「……ドーラちゃん、ドーラちゃん……聞こえますか……今ソリトさんにご飯をおねだりしている貴女です」

「んんむ〜」


 ドーラの耳元に顔を近付けて囁き始めると、微かに反応が起きた。

 よし、とルティアは意気込んで続ける。


「……起きてください……ほら、肉汁の溢れる美味しいお肉料理、あま〜いお菓子が貴女を待っています……起きないと、美味しい料理はぜ〜〜んぶ、私が平らげてしまいますよ……」

「……んん〜や〜」


 ドーラは何かを守るように体を丸めて、首を横に振った。

 余程、料理を取られたくないらしい。

 ただ、ドーラは起きる事なく夢の中で料理を守ってしまった。


「む〜、一緒に教会で暮らしてた子はこうしたら起きたんですけど。ドーラちゃん、中々に強敵です」


 しかし、これもドーラの主ソリトの為と、ルティアはドーラを起こそうと奮闘した。


「ふわぁ〜……ルティアお姉ちゃんどうしたんよ〜?」


 奮闘して五分後。ドーラが目を覚ました。


「ごめんなさいドーラちゃん。お願いしたいことがあって」

「ん〜なぁに?」

「皇国に連れていって欲しいんです。案内は勿論します」

「なんでやよ?」

「ソリトさんを助けるためです」


【天秤の聖女】の手掛かりが消える。

 他にも真っ赤に真っ黒に染まった冤罪をソリトに押し付けられる。

 ソリトの回復を待ってそれらを傍観するなど耐えられない。

 数日も待っていられない。

 直ぐに向かいたい衝動が今もルティアの中でくすぶっている。


「じゃあドーラも頑張るんよ」

「ありがとうございます」

「…でも、あるじ様をほっておけないんよ」

「なら、私が湖の所にいれば良い」


 いつ起きて、何処から聞いていたのか、聖剣が提案を出す。


「私は弟子とも契約してる。遠距離でもある程度は位置も分かる筈。だから弟子はトカゲと一緒に地上に戻れば良い」

「うがぁ!トカゲじゃないやよ」

「師匠そろそろドーラちゃんの事名前で呼んであげても…」

「トカゲはトカゲ」

「やっぱりこいつ嫌いやよー!」


 これはこれで仲が良いのかもしれないが、見ている側からすれば、少しくらいはいがみ合いを和らげた会話をする仲でも良いんじゃないか。

 ルティアは困った表情と苦笑いを浮かべながら、その場でバタバタ暴れるドーラと聖剣の口喧嘩を何とか収めた。



「それでは行ってきますね」

「ん、無理なく頑張れ。聖槍、弟子に迷惑かけるな」

「普通逆じゃないッスか?」

「卑屈改善検討するなら考慮」

「……頑張ってみて…みようと思うッス」


 ドーラと聖剣の言い争いが終わった後、聖剣に聖槍を連れていく事をルティアは勧められた。


「いや、絶対に無理ッス。うちなんかが自分を変えるなんてぇ」


 性格はかなり拗らせてしまっているが、性能に関しては一級だから性格を気にしなければ、護衛、護身用として問題ないという事でだ。


「ドーラちゃん、ここに来た時の方向から降りてください」

「りょーかいやよ」


 深夜までの事が嘘だったかのように外を閑散とさせて、南の村の竜族達が家で眠っている。

 ローブで全身を覆い、支給袋を一袋肩に下げルティアはドーラの背中に跨がる。

 そして、ドーラになるべく音を立てないように上昇してもらい、天空島南端へ向かった。


 それから十分後。

 南端に到着し、今度は始めから目を閉じながらドーラにルティアはしがみつき、地上を目指して雲海へ降下して雲を抜ける。


 氷雪地帯上空へ戻ってくると、ステラミラ皇国のある南西に向かうように指示を出してルティア達は進む。


「っ…ドーラちゃん、少しずつ地上に降りていってください」

「まだ何もないんよ?」

「国境の関所、ステラミラ皇国の出入口があるんです。緊急とはいえ無断で通り過ぎるのは駄目ですからね」

「セキショ?」

「何度か長い壁のある場所があったの覚えてますか?」

「うん、あるじ様ごお金払ったら通してくれたんよ」

「そうです。今から同じように通るんです」

「ちゃんとしないといけないなんやね」

「そうですよ。えらいです」


 ルティアがドーラの頭を撫でると、「えへへ」と嬉しそうな腑抜けた声を溢す。


「仲良いッスね」


 聖槍が呟いている時、ルティアは自分が真下に落ちている様な感覚を抱いた。

 否、落ちていた。


「ちゃう、落ちとるぅぅぅぅぅぅぅぅぅ!」

「ついに!ポッキリ逝っちゃうんスねぇぇぇぇ!」


 ほんの数メートル急落下した所でドーラは滞空した。

 ルティアは安堵の息を大きく吐き、聖槍を落とさずしっかり持っている事を確認してまた安堵した。


「ごめんなさいやよ」

「い、いえ…大丈夫です」

「ポッキリ……」


 ドーラの背に乗って飛んでいる間は飛んでいる事を忘れる様な行動はしない方が良いかなと考えながら、ルティアはドーラ達とステラミラ皇国の国境関所へ向かった。


 気を付けながら。







――

どうも翔丸です。

唐突に小さな設定話です。


『魔物商人』と今回とでまだ二回ですけど、ルティアが関西弁を出してると思います。


そんな理由が!という訳でもないんですけどww


『決して』で出たルティアの過去話で、皇国のとある辺境の街でだったかな、ルティアは拾われた事を書いてるんですね。


で、皇国が西側にあるということで、ドーラは口調が訛りに似た感じだし、まあツッコミするから関西弁を出してみても良いかなぁって。


でも、ツッコミで関西弁出すのも、「ああ、ツッコミ役なんだなぁ」って分かりやすいしで。


じゃあ、さらっと関係ない所で辺境として関西弁を出そうかとなりました。


ちなみに、『決して』で何処の関西弁かはわかります。



セリフ出たらまた出してるとでも思ってください。


お付き合いありがとうございます("⌒∇⌒")

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