第102話 深夜の師弟トーク

 最近、フォロー数減ったり、ランキングとかも低くなってるのに、久々に少しの間注目小説に載っていた件。

 基準が不明なので凄く謎です。






 

  空き家に入ったルティア。

 ドーラが寝ている筈と、明かりを付けずに正面奥にある扉を静かに開けて部屋に入る。


 部屋の中は四メートルはありそうな高い天井。

 入って直ぐ右側には、三口コンロ釜がある小さなキッチン。

 奥の左右にはベッドが一つずつ置かれ、ドーラが右側のベッドで小さな寝息を立てて寝ていた。

 聖剣と聖槍は左右のベッドに挟まれる形で壁に立て掛けられている。


「はぁ」


 左側のベッドの前まで着くと、溜息に似た一息を吐いて、ルティアは吸い込まれる様にぽふっとベッドに倒れ込んだ。

 相当体は疲れていたのだ。


「………」


 しかし、意識は中々眠りに入らない。


 その時、ルティアは自分の手が小刻みに震えていることに気付いた。

 爪が食い込む強さで握り拳を作り、目蓋を閉じていく。

 しかし、誰かに軽く押さえられたように、目蓋は閉じてくれない。

 無理矢理、目蓋を閉じた。


「っ……!」


 その瞬間、あの部屋での出来事が、ソリトが倒れ吐血した瞬間が続けて閉じた目蓋の裏に投影された。

 押し寄せる恐怖と不安に、ルティアは布団を巻き込んで体を丸める。


「弟子?どうかした?」


 異変を感じ取ったのか、聖剣がルティアに声を掛けた。


「……師匠、起きてたんですね」


 心配をかけたくないと、ルティアは頑張って明るい声を作って平然を装う。


「張り詰めた空気を感じて起きた。そしたら、弟子がいた」

「あはは、すみません」

「………弟子、もしかして寝るの、怖い?」

「っ!」


 確信を突かれたと、体がビクッと反応した。


「……何で、そう思ったんですか?」

「ただの直感。でも、今の言葉と体の反応、的中か。弟子、話す。少しは楽になる」


 この暗い部屋の中で、ルティアの反応が聖剣には見えていたらしい。

 今更、誤魔化すのも無理と観念して、ルティアは聖剣に聞いてもらうことにした。


「…師匠の言う通り寝るのが、少し怖い…です。目を閉じたらまた襲われるんじゃないかって」

「そう。じゃあこれ以上は聞かない。再度思い出すのは苦」

「……ありがとうございます」

「気にしない。態々思い出す必要無し。今は精神安定優先」

 

 気にかけてくれる言葉に、込み上げてくる様々な感情と共にルティアの喉が少しずつ圧迫し、目頭に熱が加わっていく。


「……よし。弟子、横に寝転ぶ」

「え?」

「早急」

「…はい」


 ルティアは恐る恐る横になる。

 すると、ギシッと軋む音と小さな揺れが何度か続いて、目の前に少女姿の聖剣が四つん這いで、隣にやって来た。…


 聖剣は横になると、小さな二つの手を首に回し、ぎゅっと抱き締め、更にルティアの頭を撫で始めた。


「良く頑張ったし、良く頑張ってる。けど、弟子は頑張り過ぎる。だから今は何も考えずに寝る…怖いと思う。弟子がもう大丈夫って思えるまで、私が守る」


 少女という小さな体。

 抱き締めてくれているその体は、本来の長剣の様に簡単に折れてしまいそうな見た目。


 そんな聖剣の言葉から伝わってくるとても安心感と温もりは小さな体を大きく錯覚させる。


「大事な時に何も出来ずにいた私が言うのも何だけど」


 聖剣が人の姿になるには魔力が必要だった。

 そして、その魔力は契約者であるソリトから供給してもらっていた。

 しかし、ソリトからの供給は困難だった。

 ルティアも所有者ではあるが、あの時の状況では借りられないと聖剣は考えていたのだろう。


 ならば、聖剣は何も出来てないなど無い。

 ルティアとソリトを気遣った行動をしていた。

 状況から考えれば十分だろう。

 

「師匠」

「ん?どうした?」

「何だが自分を卑下する師匠。容姿のせいで、何だか駄目な姉がしっかり者の妹に慰められてるみたいで可愛いです」

「処す」


 無表情のままぷくっと頬を小さく膨らましながら、聖剣は短剣を顕現させた。


「わややや処さないでください!」


 ドーラと聖槍を起こさないよう極力声を小さく押さえてツッコミ返す。


「冗談」

「師匠、冗談言えるんですね」

「やっぱり処す」

「それも」

「……本気」

「間が本気なんですが師匠!』


 それから暫く、精神は落ち着いたものの、眠れないまま聖剣に抱き締められる深夜の時間が過ごしていくルティア。


「……師匠、私が出会う前のソリトさんってどんな人でした?」

「唐突。まだ不安?」


 聖剣の体に顔を埋めたまま、横に顔を振る。


「それは大丈夫です。ただ寝れないので、少し聞いてみたくなって」

「……マスターはマスターのまま。優しくて、努力家で、放っておけない質で、面倒見が良い、後は笑顔が太陽だった。今はそこに無愛想と不器用が追加された」

「ふふ、本当に余り変わらないですね」

「ん。でも、笑顔は消えた」


 聖剣の悲しみの含まれた声。

 安易に言葉を言い繕う事は時に相手を傷付けてしまう。

 聖剣の声は正にそうだと感じて、どう答えて良いか、ルティアは悩む。


「だから、弟子には感謝してる」

「え?」

「不本意かもしれないけど、弟子を弄る時、マスターは微かに笑顔を浮かべる」


 聖剣の言った通り、ルティアとしては弄られてというのは不本意だった。

 けど、それでソリトが笑顔を見せるなら少しは弄られても良いかなとも思った。

 ただ、それを想像した後、ルティアは楽しまれるのを黙ってされる受け入れるのも、それはそれで何だか悔しいから反抗するのは続けていくことにした。


「ふぁ〜」


 少し、眠くなってきたルティア。

 せめて、眠る前に感謝をしたくて欠伸を堪える。


「…師匠、ありがとうございます」

「ん、お互い様。そして弟子は早急に就寝」

「ソリトさん、大丈夫ですよね?」

「断言する。だから寝る」

「おやすみなさい」

「良い夢見ろ」

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