第83話 一か八か

「そう言えばマスター。弟子、探してた」

「ひ、表面的な貢献者では無いが本当は貢献者なんだから参加しろとか、じゃないか。それに……知ってるなら連れて来れば良い、だろ」


 だが、聖剣が連れてこないのはここに一人でマズ飯、もとい聖剣による効率料理を持って来た時点でルティアが連れて行くかもしれないであろうと考えソリトの意図を汲んでの選択だとソリトは考えた。

 聖剣はソリトの尋ねに頷いた。


「それに聖女に何かあったらドーラが報告に来るだろ。聖女に懐いてるからな」


 主人の権限を譲渡しても良い程に自分よりもドーラはルティアを気にかけている印象をソリトは持っている。


 この状況に乗じてクロンズ達が仕掛ける可能性も考えていないわけではない。ドーラを側に置いているのはそういう考えがあっての事。また、少女の姿であれば怪しまれることなく護衛が出来るという理由。

 だが、それは逆に警戒心を弱めて仕掛けてくる可能性もあるという事でもある。その分人混みに紛れて行うのは目撃される分リスクが高くなるが、流石にそこまで愚か者では無いだろう。

 だが、不甲斐なくも四人の本質をソリトは見抜くことが今まで出来なかった。なので、高確率で無いと言う事はできない。


「そろそろ頃合いだし良いか……聖剣、下に戻るぞ」


 見張りを終了して、ソリトは一応ルティアの様子を見に行くことにした。ドーラには少し離れた所からの監視を命令を出している為、途中で食事に夢中になっているかも可能性もあるだろうと懸念も含めて、ソリトは剣に戻った聖剣を腰に差して、穴の方から降りた。



「お、仮面の英雄くんではないか」


 降りて先ず、教会のある中央区域にソリトが戻ってきた。そこへスーツに着替え直していたカロミオがソリトを発見して向かってきた。


「そういうお前はアルスの英雄であるギルマス様じゃないか」


 周囲にはアルス市民もいるというのに、伝えられた話が嘘だと勘繰られかねない言い方をしたカロミオに対して、ソリトは態とらしく大声で返した。


「はは、すまないすまない。伏せているとは言え、全ての功績者が参加していないのは少し頂けないと思ってね」

「参加するもしないも俺の自由だ。それに表向きの三勇者の連中で事足りる。ところで聖女は何処にいるか知ってるか?〝【癒し】〟の方なんだが」


 参加してるか、していないかなど本来分からない。だが、ルティアが探し回り尋ねていた場合であれば一つ筋が通る。


「【癒しの聖女】様なら十分?程前に北の方へ探しに行かれたよ」

「その時、ゴシックドレスを来た少女は?」

「ドラご……その少女なら食べ物を手に同じ様に北に向かったよ。〝ご飯を求めにね〟」


 どうやらソリトの懸念は懸念のままだったらしく、ドーラは護衛を続けているらしい。


「心配なら最初からこの騒ぎに参加すれば良かったのではないか?」

「俺にも俺の事情があるんだ」

「仮面の英雄様はぁじゅいるんつれれーな…ヒック」


 話の途中で見知らぬ冒険者の男が絡んできた。かなり酔っている様で呂律が回っていない。


「そうだじょ、どうやって魔物のたいぎゅんを倒したよか、詳しくおしえてほしーもろよ」


 そこから徐々に他の冒険者が男女関係なくソリトに話し掛けてきた。


 何故、仮面を被っているのかだの。

 ギルドに加入して自分達のパーティに入らないかという誘いだの。

【癒しの聖女】様の護衛っていう話だから無理と言って退けた女冒険者が、ルティアと隠れた関係なのか等々他にも問われ続けられたソリトは一つ一つに答えるのも面倒なので答えられないと黙秘した。


「こういう事だ」

「成る程。最後まで手間をかけているという事か」

「気持ちは分かるが、お前らが緩みすぎなんだ。魔物が来ても数は少ないかもしれないが、魔族が夜襲に来る可能性だってある。交代制でも外を見張るくらいはしておくべきだと思うが?」

「ごもっともだ」


 カロミオは苦笑いを浮かべて言った。

 今言ったところで、既に遅いのは理解している。だからこそ、ソリトは都市の上で見張りをしていたのだから。しかし、本音ではソリトは見張りをしなくとも問題無いと考えていた。見張っていたのは万が一を考えてだ。


 人数はともかく、魔族が率いていたのだから勇者が来る事は想定されていたはず。そして、魔族達は自身が倒された場合の切り札として地竜デュエビィを待機させていたのだろう。

 その切り札が倒されたと何処かで知った、もしくは遠くに報告役として潜んでいた魔族がいた場合、正体不明の仮面の人間が大群を殲滅し、三勇者とその一行達でも敵わず倒せなかった地竜を二人で討伐した。


「さて問題だ。これを報告された時の魔族側の次の行動は?」


 説明後、ソリトはカロミオに尋ねた。


「付け足すと討伐した一人は本来なら支援に動く聖女だ」

「勇者達よりも圧倒的な力を持つ人間が現れた。脅威と魔王復活の妨げになる」

「そして?」

「昔からの抗争なら聖女が支援に傾くスキルとステータスと魔族側に知られていても可笑しくない。だが、それが今回崩された」

「……だから」

「脅威と判断しても実力が不明の二人を今始末しに掛かるのは危険だと警戒して、攻勢に出ることは不利と判断する」

「そういう事だ」


 不敵な笑みを浮かべて言うソリトを、驚愕の表情で見るカロミオ。


「まぁ魔族は人族や亜人族と似てる奴もいるし、そういう奴等に探りを入れさせてるかもしれない間に、探り返して隙見つけるなり、地盤固めをするなりはそっちでやってくれ」


 成り行きで人間を助けているが、ソリトにはとっては人間がどうなろうとどうでも良いのだ。


「お待ち下さい、仮面の英雄殿」


 話を切り上げて、ルティアを再び探しに行こうとした瞬間、老執事が冒険者の人混みから現れソリトを呼び止める。


「その呼び方、止めてもらえるか」

「申し訳ございません。失礼とは思いますが、名前を存じていませんので、呼ばせていただきました」

「そういう事なら」


 老人執事は美しいお辞儀で謝罪した。ソリトは老人執事の理由に納得して謝罪を受け入れた。


「それで、何か用があって止めたんだよな」

「はい。現在この中央都市アルスの統括をしているラルスタ会頭が話をしたいとの事で声を掛けさせて頂いた所存です」


 この都市の統括ともなれば都市に訪れる商人との脈もかなりの数を持っていることだろう。それを利用すれば【天秤の聖女】について詳細な情報を収集する事も出来るだろう。


 しかし、だからこそ、ここで行くべきなのかソリトは迷う。


 中央都市は多くの人間、主に商人が集まって発展してきた場所なのだ。その都市の会頭という立場である人物が仮面の人間が【調和の勇者】ソリトである情報を知らないわけがない。

 何より、アルス支部のギルドマスターであるカロミオが情報収集して、ソリトの現状を把握出来たのだから尚更だ。


 罠という可能性だってある。

 ソリトと認識していた場合、中立都市とも呼ばれるアルスの会頭ならば面倒事はなるべく避けておきたい所だろう。それを避けるなら、国に引き渡すか、中立の立場として手は出さない選択を取るかが考えられる。


 もしくは、本当に、単純にソリトと話をしたいのかもしれない。


 罠の可能性は拭えない。相手の情報が圧倒的に足りない。

 カロミオの時はギルドへの護衛依頼人と冒険者が一般人に対して起こした不祥事。〝歩く国家権力〟、〝歩く教会〟とも言われる聖女の一人、ルティアが騒ぎに駆け付けたことで、失言は出来ない立場に立たせることが出来た事で、その時の自身の立場を躊躇わず利用できた。


 それを考えれば、今回も都市を一人で護衛し、三勇者とその一行達が倒せなかった地竜を倒した事はかなり大きな手札になるし、十分優位な立場に立てるだろう。

 だが、前回よりも〝まだ足りない〟。いくらギルドが後ろ楯になっているとしても、アルスとの関係を考えると手札としては捨て駒に等しい。


 もう一つ手札なあるにはある。だが、その手札は既に使ってしまっており、その後の事は一人の人物が動いてくるかで決まる。


「ソリトくん。もし、この都市が敵に回る事になっても私は君を全力でサポートしよう」


【思考加速】の世界で考えていると、カロミオが隣に立ち小声でソリトに話し掛けてきた。


「それは後ろ楯が他に出来るからか?」

「それもある。が、今回の戦いで魔王を討伐するなら君の力は必須と改めて感じたからだ。それでなくとも会頭ならば間違った選択はしないと思ったからだよ」

「それはギルドマスターとしての発言で良いか?」

「ああ、ギルドマスターとしての発言と捉えて貰って良い」

「よし、分かった。行こう」


 ソリトは老人執事とカロミオの言葉に同時に返事をした。


「ありがとうございます。では、早速案内をさせていただきたいのですが宜しいですかな?」


 安堵した様な表情で老人執事が尋ねてきた。


 勘違いしてるようだが、ソリトが行くと決意したのは捨て駒に等しかった筈の手札が逆転したからだ。

 勿論それが嘘の可能性もあるが、裏切った際には命は無いとカロミオに告げている。それが何処まで影響力を持っているかはその時になってみないことには断言できないものの、その影響力を強めたのは確実に今回の防衛戦だ。


 これがソリトが既に使った手札。

 一人での防衛の成功。加えて、地竜の討伐。そして、万一として行っていた見張りでの理由説明。

 どれも単純な手札だ。それでもこの中央都市同様にギルドアルス支部のギルドマスターを確固たる味方に付けるには十分な貸しとなっている。それも諸刃の剣となる貸しだ。


 味方となれば大きな力となり、敵にすれば何万の軍勢を敵に回す程の存在となる。単純。だが今回はそれで十分だと判断した。


 そして、カロミオは確りと乗ってくれた。唯にソリトはラルスタ会頭の元へ行くことを応じたのだ。

 ただ、それを誰かに言うつもりも素振りを見せるつもりもソリトは全くない。


「ああ、案内してくれ」


 そうしてソリトはラルスタ会頭のいる場所へと向かって行った。


(はあ〜……相手を味方に付けるって疲れる)


――――

疲れますね。


それをどう書こうか考えるのも疲れます。

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