第80話 破魔双天撃

お待たせしました!





 聖槍担当のソリトの意識が聖槍の中へ落ちていく直前。


 戦闘担当のソリトは聖槍を両手に持ち替え、盾代わりに攻撃を防いだ。直後、聖槍を半回転させて尻尾の下へ潜り込ませ、斬り上げながら上昇し、横回転の回し蹴りで三つ首地竜の顔目掛けて尻尾を蹴飛ばした。

 しかし、二度目ゆえに三つ首地竜の首の一つが咆哮を上げ、【地魔法】の壁を作り出して防御の態勢を取った。


 だが、何かしらの方法で回避することを予想していたソリトは【念話】で予め自分と反対側の地竜の側面に回り込んでおくように指示を出していた。


「〝アインス・パワー〟!」


 ソリトはタイミングを見計らい補助魔法をドーラに掛けた。


「てやぁー!」


 攻撃力が上げた瞬間、ドーラは回転しながら尻尾を振り回し、地竜自身が作り出した壁へ三つの首を衝突させた。

 更にそこへ、ソリトは三つ首地竜の頭の真上へまで【空中機動】で壁を越えて聖槍を頭上に叩き落とし、三つ首地竜をダウンさせた。


「精霊よ、我が声を聞き届け、血の槍を突き立て、数多の墓標を築け〝ツヴァイブ・ブラッドエッジ〟!」


 数多の真紅の槍がダウンする三つ首地竜の真下の地面を貫き、空中に一メートル程突き上げ、その内二本が右前脚と左後脚を貫き、三つ首地竜に叫び声を上げさせた。


 《ドーラ魔法で追撃をかけろ!》

 《はいやよー!》


 ドーラは〝アインス・ウィンドショット〟を唱えて、三つ首地竜に放つ。


「あるじ様見ててやよー!」


 ドーラは体勢を三つ首地竜に向けてその場に滞空しながら大きく開口する。


「〝ブレスサンダー〟!」


 ドーラは雷を纏ったブレスを三つ首地竜に放つ。


「あの首、ドーラの攻撃全然効いてないやよー!」


 唸り声は上げたものの、反応に対して効果が薄かった様で余りダメージは与える事は出来ず、真ん中と右つの首が咆哮を上げ大岩の礫をソリトとドーラに向けて放ち反撃してきた。回避をしながら水魔法、〝ツヴァイブ・アクアブラスト〟を唱えて、ソリトも三つ首地竜の反撃に反撃を掛けた。命中した瞬間、三つ首地竜は巨体を仰け反らせながら悲鳴のような声を上げた。【水魔法】は有効らしい。だが、聖武具解放を行う為に魔力の余力を残しておかなければならない為、何度も魔法行使をすることはできない。攻撃方法を物理中心に三つ首地竜に【空中機動】で空から突進する。

 聖槍担当のソリトがパスを繋げ終えた事を告げながら戻ってきた。そして、役目は終わった所で【並列意思】の行使を止め、戦闘担当のソリトは聖槍担当と統合した直後、入ってきた内容にソリトは顔を顰めた。


「おい聖槍、お前は少しずつでもその拗らせた卑屈を疑心程度でいいから直せ!」

「えええええ!さ、さっきも同じ事……」

「あ゛?」

「わあああ~!了解ッス~!」


 統合して、同じ事を言っているのは分かっているが、大事な事なので反論を許さずに押し通しながら、地上と空中を縦横無尽に駆けながらソリトは、動き回って三つ首地竜を引っ掻き回してのヒット&アウェイで槍撃、拳撃、蹴撃の三攻撃をその間にドーラにはなるべく失神している者達を移動させるように指示を出しながら繰り出していく。


 《ソリトさん!》


 ルティアが【念話】でソリトに呼び掛けた。準備が整ったらしい。


 《遅いぞ》

 《すみません》

 《少し手間取った》


 どういう理由かは聞かず、ソリトは【瞬足】で敏捷性を向上させ、更に【剛力】、【破壊王】を併用した攻撃を鱗の再生を与える隙を与える間もなくめった打ちにしていくと、鱗の再生が追い付けなくなっていき、至るところがひび割れ、三つ首地竜は人間の泣き声のように声を震わせている。


 そろそろトドメを刺すべく、牙狼拳の二連撃でダウンさせ、そこへ【威圧】を掛けて三つ首地竜を硬直して、ルティアに来るように言った瞬間、自分も距離を縮める為に向かう。


 《良いか、同時に解放する。聖剣、聖女には回復魔法の分の魔力を残させる。足りない分は俺から持っていけ》

 《ん。分かった》

 《それだとソリトさんの魔力が……》


 ソリトの魔力が空になることを危惧した言葉をルティアが言った次の瞬間、ソリトはルティア達と合流した。


「精々一回分を賄うだけだ」

「……もう驚かないです」

「それは助かる。行くぞ!」


 ソリトはルティアに呼吸を合わせて、同時に三つ首地竜に向かって駆け出す。イヤリングに付与している敏捷(中)のお陰で余り抑える事なく、ソリトはルティアに速度を合わせることが出来ていた。


「聖剣解放!」

「聖槍解放!」


 聖武具の解放を唱えた瞬間、ソリトの頭の中に突然一つの内容が浮かび上がる。その内容でルティアに視線を移すと、ルティアも同じ内容を知ったのか視線が合う。


「「共鳴解放レゾナリリース!」」

「刺し穿ち、縛れ」


 ソリトは聖剣解放時に顕現するものと同様の白光の槍を三つ首地竜の上と下から顕現させ、地竜の身体を刺し穿ち、拘束した。


 共鳴解放レゾナリリース。聖武具を同時に解放した際に発動出来る共鳴現象による二つの聖武具の技のようだ。


「貫け!」


 ソリトとルティアは空中へ跳躍して、互いに刺突の構えを取る。


「「破魔!双天撃!」」


 同時に振り抜き、聖槍解放によって行使する事が出来る、防御貫通効果を持つ魔力収束攻撃を放つ。

 放たれた二つの極光は、貫かんと敵に襲い掛かっていく。

 この攻撃に貫かれた時、その相手は絶命するだろう。ソリトはそんな予感がした。


「――――――――!」


 極光は三つ首地竜を貫くと、そのまま呑み込んでいき、貫いていく場所から滅ぼしていく。


『地竜デュエビィ討伐により全能力が上昇します』

『地竜デュエビィ討伐により全能力が上昇します』


 それからソリトはスキル効果によって五回のステータス上昇をした。


『スキル【高速再生】獲得』

『スキル【咆哮】獲得』

『スキル【竜殺し】獲得』


【高速再生】

 魔力を消費して受けた傷を五秒毎で回復。(一段階アップ状態)

 魔力を消費して欠損部位を再生可能。十秒毎に一割再生。

 スキル効果により三秒毎に軽減。


【咆哮】

 魔力を消費して【威圧】を広範囲に発動できる。硬直時間二十秒。最大四十メートル。(一段階アップ状態)

 指定発動不可。

 確率で【恐怖】を付与。

 スキル効果により硬直時間を四十秒に増加。


【竜殺し】

 竜種の魔物を対象に特攻を付与。(一段階アップ状態)

 竜種討伐での獲得経験値が倍になる。(一段階アップ状態)

 竜種を倒す度に竜種へのヘイトを付与。一体毎に一分。(一段階アップ状態)

 スキル効果により特攻の威力上昇、獲得経験値を二倍に変化。ヘイトの付与時間が一体毎に二分に上昇。


「はぁっ……はぁっ……」

「今の……凄かったですね」


 ルティアが言う目の前の原因にソリトは顔を向ける。その先には大きなクレーターが生まれ、その中心には後脚から半分しかない尻尾だけの三つ首地竜だった物が僅かに残っていた。ただ、気配は完全に途絶えているので絶命しているのは明確。


「うっ……」


 聖武具解放の二回分に近い量の魔力を一度に一気に消費することになり、流石のソリトも息を切らす。ただそれだけではなく、本来、武技を使う際に消費する精神力もこの技は削るようだ。一瞬だけソリトは目眩を起こし足がふらついた。


 そこへ後ろから支えようと肩に手を添えたルティアだったが、支えられず倒れていった。倒れる直前、「え?」と声を漏らしていたが、ソリトからすれば、精神力を一気に消費したのは賄われていたとはいえ、ルティアも同じなのだから何処かでその結果が訪れても可笑しくないだろうと思った。それでも、一瞬だけ身体を思わず預けてしまったがゆえに、ルティアと共に体勢を崩してしまった。


 触れれば拒絶反応。接触して怪我を負わせる可能性もある。崩れ落ちた場所が悪ければ、女特有の理不尽な制裁が来る可能性がある。もしくは重症を負わせる可能性がある。カロミオ達を治療するために魔力を消費させる事は出来ない。


 どう回避するか考えて、ソリトは上半身を捻り、崩れ落ちたルティアと向かい合う状態になり、地面にドンッ!と両腕を伸ばして叩きつけ、体を支えた。同時に顔の隣に伸びてきた両腕に驚いたルティアの体がビクッと震えた。


「直ぐに退く」


 立ち上がった後、ルティアに手を差し伸べる。


「触っても?」

「仮定ばかりの行動で無茶をさせたからな」

「それは私が止めたからで」

「だとしてもだ」

「……では失礼します」


 ルティアが手を取った瞬間、湧き上がる感覚を堪えながらソリトはルティアを引っ張り上げた。


 ガッ!


 躓かせた音が立つと、ルティアがソリトの方へと倒れ、ガシッと抱き締めた。直後、ルティアから漂う仄かな香りや柔らかな感触など気に止まらなくなるほどの、逆立つ感覚、今にも押し飛ばしてしまいたくなる感覚といった拒絶反応がソリトの全身を満たす。押し飛すのは簡単だが、故意ではなく偶発したものでないので押し飛ばすのは間違っているし、それでは引っ張り上げた意味がなくなってしまう。色々考えながら、ソリトは全身に力を込めて必死に堪えながらゆっくりと、ルティアの肩に手を置いて自分と引き離した。


「……す、すみません!」

「偶然起きたことだ……気にするな」

「そんな引き攣った笑顔で言われても怖いだけなんですが……」

「なら他意がないのは理解しているが殴りたいの謝罪代わりに殴られますというのどっちか選べ」

「それどっちも殴られる選択肢ですよね!」

「表に出す方が怖くない……」

「訳ありません!我慢してくださりありがとうございます!」


 必死に感謝を述べるルティアを見て、ソリトは突き出す気も無かった拳を納めた。そこにカロミオ達を回収し終えたらしく、ドーラがやって来た。


「終わりましたね」

「一応な」

「ドーラ、お腹空いたんよー」

「トカゲは同族の残骸でも食べてればいい」

「食べるんよー」

「少しは躊躇った方が良いッス〜!」

「誰やんよー?」

「すみませんッス!無名なうちの注意なんか気にしないで欲しいッス!」

「とりあえず、後始末するぞ」


 こうして、スタンピードからの都市防衛が終結を迎えた。

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