第79話 汝の名は

お待たせしました!


前話の補足。倒されていた魔族の三人のうち二人は一人はカブトムシ、一人はハエです。

もう一つ。それに合わせて少しだけ加筆修正をしました。






「それで私は何をすれば?」

「聖女には俺が時間を稼いでいる間に契約、のような事をしてもらう」

「契約?のようなも?誰とですか?」

「私と」

「師匠と!?ど、どどういうことですか!?」


 これでは話が進まないと、ソリトは驚愕と動揺の声を上げるルティアを無視して話を続けようとした。その時、三つ首地竜が自身を拘束していた二つの魔法の檻を破壊した。


「話は聖剣から聞いておけ。ドーラは聖女の護衛を続けろ」

「りょーかいなんよー!」


 ソリトは三つ首地竜へ向き駆け出し、地竜と戦闘をし始めた。


 そして、聖剣は戸惑うルティアを落ち着かせて話し始めた。




 時間は、昨夜まで遡る。

 誰もが寝静まったであろう深夜、ソリトはアクセサリー製作の仕上げを行っていた。

 聖剣は人の姿になりベッドの上に座りながら、床に座ってアクセサリーを製作しているソリトをじっと眺めている。


 勇者と出会うまでは剣士を中心に時折補助武器サブウェポンとして所持されたりと様々な人間とその仲間の趣味趣向と人生の歩みは飽きることなく観れたが、勇者には使命の所為か勇者として人を助け、魔王を倒すため、勇者として一心に全うする者や、その間に仲間の一人と恋仲となったり、息抜きで女遊びをする者が少数ながらいたが、特に注目するような大きな変化も無かった為、人の姿を頻繁に出して関係を持とうと思う勇者もまた少数だった。


 ソリトはその中でも勇者として全うする部類に該当していた。加えて恋仲の人間と多くの人間に好感を

 出会って間もない頃は出来る事も様々、それでいて努力家で、最初は好感的な存在だったが、今では今までの勇者の中で最も尽くしたいと思う存在となっていた。


「聖剣、聞いて良いか」


 そんなソリトが突然、作業の手を止め、聖剣に話し掛けてきた。


「マスターが聞きたいなら何でも」


 聖剣はソリトの言葉に迷いなく頷いた。


「本当にお前ら聖武具の所有者は勇者じゃないといけないのか?」


 マスターであるソリトと出会ったのは魔王討伐へ旅立つ一年前。まだソリトが王都で訓練を行っていた頃。

 それから今に至るまで四年。大抵の事は理解できるようになった。だが、今の言葉は理解出来なかった。

 ソリトは意味の無い事を聞くような人ではない事は理解している。理解しているからこそ、理解出来なかった言葉に酷い焦燥感が湧き上がった。


 マスターに尽くし、従い、マスターと共に戦う。他にも理由があるのだが、ともかくそれが聖剣の決めた方針。唯に、聖剣は、尋ねられれば答え、話してくれる言葉は一言一句記憶する事を心掛けて、理解できる様に勤める。

 ソリトが裏切られてから、一転して力を付けていく。置いていかれてからも小さな繋がりから流動する魔力からも強くなっていっていた。お陰で離れていても人の姿を取れ、合流することが出来た。

 だが、もし、聖剣が考えている通り、ソリトは必要としなくなったのなら……。


「悪い、今のは言い方が悪かった。考えてるような事は無いから安心しろ」


 その言葉を聞いて、聖剣の心の中の焦燥感は嘘だったように消え去り、嬉しさに満たされた。


 それでも、ソリトの言葉を理解できずに、捨てられてしまうという考えを過らせてしまった事があんな裏切り者達と同列に思うなど考えなくとも、酷似した考えをしてしまった事は、聖剣にとっては堪らなく悔しかった。


 〝剣が所有者を疑うことなどあってはならない〟のだから、と。


「感謝と謝罪。それとマスター、さっきの言葉の意図を教えて欲しい」

「そうだな。さっきの質問は最初に意図を話すべきだった」


 そして、ソリトはどういう意図で尋ねたのか話し始めた。


「スキルを獲得していく過程の中で、俺はスキルの事を考えるようになった。神が与えるスキルは多種多様。でも、そのどれもが努力すれば差はあれど誰もが出来て可笑しくない」


 ソリトの言う通り、剣術も、魔法も、家庭的なスキルもスキルが無くとも自力で出来るものばかり。魔力操作や気配感知、魔力感知も範囲は狭まるだろうが可能な事だ。それは間違いない


「でも、スキルがなければ出来ないこともある」

「そうだ。だから俺はスキルは生きるものにとっての補助的な役割を持っていると思った。まあこれはスキル効果を見て疑問に思えば誰でも行き当たるものだと思う」


 疑問に思っても、役割があると思うのは多種のスキルを持つマスターだけだと思う、と聖剣が思う間も話は続く。


「スキルはその人間に適応したもの。だが、補助的意味のスキルとは違うスキルがある」

「【勇者】と【聖女】のユニークスキル」


 ソリトが頷き、聖剣の言葉を肯定した。


 ユニークスキルと呼ばれているものの、効果は上位スキルと大差無いと聖剣は感じる事が一度あった。

 だが、他のスキルとは違い、【勇者】と【聖女】のスキルは元々の効果とは別に隠された効果を知り、考えを改めた。

 それは、【勇者】と【聖女】のスキルを持つ者にはレベルの上限が無くなり、ある方法で他の人間のレベル上限を上げる事ができる。そして、その時の人間によってスキル名と効果が異なるというものだった。


 共通の部分はあるもスキルの名が一部異なり、それに伴い効果も異なる何て事は他のスキルには無いものだ。


「共通……マスター、もしかして私達聖武具を聖女も使えると考えてる?」


 ユニークスキル、レベルの無上限、他人のレベル上限向上、スキル名と効果が異なる事と、共通する点が多くある。


「あくまで可能性だ。判断材料が少ないから今は絶対とは言えない。だから、お前に勇者じゃないといけないのかと聞いたんだ」

「それなら言われた言葉に頷ける。確かに最初から【勇者】だけが聖武具を扱えると知ってた訳じゃない。人から人に渡って、そして【勇者】のスキルを持つ人間が聖武具の力を発揮出来ると知った。他は知らない。けど、私はそうだった」

「それで、そこに聖女は?」

「含まれてない……でも何故そんな事を?」

「単純に考えていたら浮かんだ疑問を少しはっきりさせておきたいと思っただけだ」


 そう言って、ソリトはアクセサリーの製作に戻った。


 聖剣もその時はこの話が役に立つとは思いもせずに、ソリトの作業を眺めていた。




 〈マスター、話し終わった〉

 〈分かった〉


 聖剣から報せが来た瞬間、ソリトは三つ首地竜を〝ブラッドプリズン〟で全体を縛り、〝アインス・アイシクルプリズン〟で四本の足首までを凍りつけながら返答し、更に【威圧】を発動した。直後、三つ首地竜の動きが硬直した。つまり、レベル74以下という事。だからといって倒せはしなかっただろう。ただし、連携を取っていれば、命が二つ存在する事に気付け、倒せていた可能性はある。

 また尻拭いをしている様だとソリトは思った。

 ともかく、【威圧】で得た一分間の猶予を無駄にしないため、ソリトは【瞬足】で敏捷を強化して一瞬でルティア達の元に戻った。


「聖女、早速だがアイツを倒すための手順を話す。言いたい事は後にしろ」

「……はい」

「はーいやよー」


 アルスの状況が変わっていた場合を考えると、これ以上時間を掛けてられないと一応釘を刺したソリト。少し間の空いた返事や不満の帯びた返事からして、それは正解だったらしい。


「先ず、聖女と聖剣が契約する。時間が惜しい。聖剣、お前からも聖女に干渉しろ」

「ん」

「その間に俺はアイツの相手をする。ドーラは引き続き聖女の護衛だ」

「えードーラも一緒に戦いたい」

「なら、お前は聖女が目標にされないように空から撹乱しろ」

「かくらん?」

「敵の気を引け」

「わかったやよ!」


 少しずつでも色々教えていこうと、決めながらソリトは説明を続ける。


「……【念話】は今も繋げてある。契約が済んだら、聖剣でも聖女でもいい、呼び掛けろ。そのあと、俺がタイミングを見て敵の動きを止める。そこへ同時に俺と聖女が敵のそれぞれの核となる部分を破壊する。お前は頭。俺は胴体の中心だ」


 説明を終えたソリトは、三つ首地竜が硬直しているか確認すると、まだ硬直していた。

 ソリトが質問する事を許可すると、早速ルティアが尋ねた。


「そもそも私は、師匠の力を引き出せるんでしょうか」

「聖武具と繋がりを持つにはその聖武具に認められる事が前提条件だ」

「以前、弟子と戦った時、私は認めた。そして、マスターが弟子に渡した時、それが分かった」


 それを聞いてソリトに聖剣を渡された時の事を思い返していたのかルティアは腑に落ちたらしく「それで」と言った。


「てわけだ。認めたくはないがお前は聖剣に認められてる」

「認めたくはないがってどういう事ですか!?」

「質問は終わりか?」

「無視を……いえ、もう一つ」

「チッ、早くしろ」

「何か辛辣です!!……同時に攻撃をする時、ソリトさんは……」

「アイツの鱗を貫通する当てならある」

「そこで先読みします!?」


 ツッコミは無視して、ソリトはルティアと聖剣に聖武具解放を出来るよう指示を出してから、ソリトは地上から、ドーラは空から三つ首地竜の元へ向かって飛び出す。


「グオオオオオオオオオオ!」


【威圧】の硬直から解放されると、真ん中の首が地魔法の岩柱を間に挟み込んで血の鎖の拘束を破壊し、左右の首が炎で氷の檻を溶かしていく。

 その隙に、自分に気を引かせようと攻撃を仕掛けようとすると、三つ首地竜がそうはさせまいとハンマーの様な尻尾で防ごうと攻撃してくる【予見】が見えた。その後、尻尾の勢いで体を少し回転させ、溶けた氷の檻から脱出して炎を吐いてくるらしい。


 本来なら【火炎無効】で無意味な炎のブレス攻撃を先程まで魔法盾や回避行動で防いでいたが、今回は防がずに受ける事にする。


「来い…」


 何もないところへ手を伸ばしたソリトは聖剣を呼ぶ時と同じ様に一つの聖武具を呼び叫んだ。


「聖槍!」


 その瞬間、聖槍が空中で回転しながらソリトの手元に向かってやって来る。手元に来た瞬間、ソリトもルティア達と同様に聖槍との繋がりを完全なものとするため、もう一度【並列意思】を発動した。

 黒い存在が出てこなかったが警戒をしつつ、聖槍担当となった方の意思は聖槍へ意識を傾けるとへと落ちていった。


 気が付くと、長身な人間の形をした光が目の前にいた。ソリトが初めて聖剣の意思と出会った時も、同じように意識が落ち、目の前に人の形をした光がいた。

 つまり、目の前の光が聖槍の意思という事だ。


「聖槍で良いな?」

「え?え?あれ、今、でも、えええええ~」


 今ソリトの意思は【並列意思】によって二つに増えている。一つは聖槍の目の前にいるソリト。もう一つは三つ首地竜と戦闘を行っている最中のソリト。

 それを戸惑う聖槍に説明すると、落ち着きを取り戻していった。


「取り乱してすみませんッス」


 聖剣と違い、語尾は活発そうで、感情も乗っているのだが、自信無さげな声であった。

 その瞬間、ソリトは聖槍も変わった奴だと理解した。


「聞きたいことがある。ここに来る前、俺に助けを求めたのはお前だな?」

「は、はいッス。すみませんッス」

「…………」


 返答と対応に困ったソリト。その結果、本題に入る事にした。


「謝罪は分かった。俺の呼び声に応じたってことは俺を所有者と認める認識で合ってるな」

「はいッス!……」


 聖槍は自信満々に答えた瞬間、自信無さげな態度になった。

 何とも情緒不安定な聖武具である。それでも聖武具なのには変わりはない。ソリトを所有者と認めることにしたのは所持者に難があるのは分かりきっているので聞く必要もない。

 それでも、所有者に自分を本当に選んだのかソリトは確認のために尋ねた。


「それにしても、聖武具を二つも所有出来るんだな」

「それは、一つの聖武具に一人の勇者というだけで、他の聖武具がまだ誰も所有者と認めてなければ、勇者は複数の聖武具を所有で、出来るッス」

「聖剣は知らなさそうだったが」

「うちは一度だけ経験あって」

「聖女を所有者に出来るかは知ってるか?」

「え?聖女をッスか!?分からないッス、すみませんッス!」

「いや、分からないなら良い」


 聖剣はルティアに触れた瞬間、感触はあると可能性がある事をソリトに言った。ならば、出来る可能性はある。

 そう考えた直後、結果を急がずと聞かなくても分かる事だったと思わず溜息を吐いた。


「すみませんッス」

「は?」

「いや、すみませんッス」


 何故か謝罪されたソリト。ともかく所有者と認めることの確認は取れたのだ。今頃、ルティアと聖剣は契約(のようなもの)を済ませている可能性があると、ソリトはここで話を終わらせ始めることにした。


 手順は単純だ。繋がりとは互いの魔力を同調させながら互いに誓いを立て、そうして繋がれて形成された回路パスの事だ。


「告げる。われが主、我を認め、我を肯定するならば、我に従い、我に委ね、我と共に歩むことへの誓いを立てよ」

「ち、誓うッス!」

「…お前は少しずつでいいから疑心程度にその拗らせた卑屈を直せ!」

「性格こんなんですみませんッス~」


 言ったそばから聖槍は卑屈な言い方で返す。


「続ける」

「はいッス。し、しかして誓いは一方通行に非ず。従うこと叶わずも、我に委ね、汝も我と共に歩むことに誓いを立てるならば、汝を主と認める…ッス~」

「……ち…誓う」


 最後の自信無さげな言葉に異を唱えたいところを堪えていると、ソリトは聖槍とのパスが繋がった事を認識した。


「今より汝を主とするッス!」

「ならば、その真名を答えよ!我が名はソリト。汝の名は!」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る