第78話 防衛戦の厄災

お待たせしました。

その間に、評価、沢山のフォローありがとうございます。




「マスター蹂躙劇場の跡地からしてこの辺りのはず」

「観に来ても参加したくない劇名だな」

「……マスター、左前方」


 聖剣が示した先には焦茶色の装甲のような体、背中からチラリと出た羽、特徴的な一本角を生やしたヘルメットのような顔の人型。その隣には【鷹の目】で見た怒張したような大きな眼と深緑色の装甲体と羽とどちらも蟲に似た姿をした人型の魔族が揃って横たわっていた。


 その少し先には同じく【鷹の目】で確認した筋骨隆々な肉体美に武装を纏わせた牛頭ゴズという魔族が突き立てた斧を握りながら倒れていた。


「空と地上。翻弄されて苦戦した」

「どうでもいい。魔族を倒したらならそれでいい」


 それよりもルティア達は一体何処にいるのか。何処で油を売っているのかと探そうとしたところに、ドガンドガンと振動音と戦闘音がソリトと聖剣のいる更に先から聞こえてきた。


「あっち」

「行くぞ」

「ん」


 そして、ソリトは音の方角へと向かった。




「「「グオオオオオオオオオオオオ!」」」


 頭に響く三つの咆哮に呼応する様に荒野に岩柱が大地を切り裂く様に何度も突き上がり走る。

 そして、大地を切り裂き走る岩柱が人型の影を赤子が物遊びをするかのように岩柱の上で突き上げられ、転がされていた。


「「「ぐああああああああ!」」」


 ソリトが到着と同時に、グラヴィオース、クロンズ、シュオンとその仲間、そしてルティア、ドーラ、カロミオとその仲間達が突き飛ばされ盛大に悲鳴を上げていた一幕だった。


 状況から察するに、敵の放った地魔法の攻撃をまともに受けてしまったといった所だろう。


「あるじ様」


 ボロボロのドーラがソリトを見つけて降りてきた。ルティアを空中で回収したらしく、ルティアを仰向けの状態のまま背に乗せている。

 そのルティアはというと前線に出たらしく、握っている細剣の剣身が折れていた。

 他の者も近くに落ちてきた。


「俺の太陽の拳が」


 と、グラヴィオースが唸る様に呟き、


「ぐっ……化け物が」


 シュオンが。それを聞いて「いやいや、魔物は基本化け物みたいなもんだろ」と、ソリトは言ってやりたかった。

 クロンズに関しては失神していた。二人も呟いたのを最後に失神した。【気配感知】でソリトが感知出来ているので死んではいない。


 地魔法の岩柱が消え去ると、その奥には三つ首の魔物がいた。

 高さ約五メートルの巨体、鈍重な雰囲気の岩の様なゴツゴツした鱗と角、先っぽが丸い巨岩の様な形状の尻尾を生やしている。

 見た目はドーラやドラゴンの亜種のワイバーン、防衛戦の際に飛行していたドレイクに似ている。

 その事からして目の前にいる魔物はドラゴンなのではないかとソリトは思った。しかし、ドーラとは違い背中に翼が無く。

 おそらくはワイバーンやドレイクのような亜種なのかもしれない。

 そして、ソリトが到着した時、魔物はここの勝利者となっていた。


「ツヴァイブ・ヒール」

「ツヴァイブ・ヒール」


 その勝利者を後回しにしてソリトは中級回復魔法を唱えてルティアとドーラの順に傷を癒した。

 ソリトは一旦ルティアを下ろした。少ししてから、ルティアが目を覚ました。


「起きたか」

「……ソリトさん……どうして?」

「お前らがあまりに遅いから防衛が終わって様子を見に来た。そしたらこれだ」

「そうですか……見苦しい所を見られてしまいましたね」


 ルティアの言葉にソリトは嘆息を吐いてから口を開いた。


「馬鹿かお前は。真剣に戦って倒れた奴を見苦しいと思うのは門違いだ。もし見苦しい姿と思って嗤う奴がいたら犬の糞にでも顔を突っ込ませて捨てておけ。犬は頭が良い、少しだけ賢くなるだろ」


 ソリトがそう言うと、ルティアはクスッと笑いを漏らし「そうですね」と、微笑みながら言った。

 冗談だと思ったのだろう。だが、ソリトは冗談だと思われるようなことを本気で言っていた。

 それを何となく察したのか、ルティアは徐々に目を開く。


「もしかして……本気ですか」

「ああ」

「絶対に、無理です」


 ルティアが尋ねてきたことにソリトが答えると、ルティアはバツの悪い表情に変わった顔を手で覆い隠しながらそう言った。


「「「グオオオオオオオオオオ!」」」


 次の瞬間、三つ首魔物の左右の首が炎を吐き、真ん中の首が吼えた瞬間、岩柱が大地を切り裂き走り、左斜め上からハンマーを振るうかの様に尾先が丸い巨岩の様な尻尾を振り下ろし、ソリト達を多方面から仕掛けてきた。


「〝エアリアルシールド〟」


 風の魔法盾で炎を防ぎ、その間に尻尾を左足で左側の首に蹴り返してやると炎が消え、残るは地魔法の攻撃だけとなった。

ソリトは【予見】で襲い掛かってくる岩柱の動きを把握し、更に【思考加速】で回避精度を向上させ、確認しながら回避していく。

 まるで踊っている様な動き。それをソリトはルティアに戦況を尋ねながら行っていた。


「俺が来るまでの情報をなるべく縮めて話せ」

「この…ひぃ!状況でえ!ですか!?」

「都市を守りたいなら早くしろ」

「三つ首だけです!?」

「三つ首だけだ」

「は、はい!まず牛頭ゴズが倒される少し前に笛を吹いた直後、三つ首の地竜が出現。全魔族討伐後、三つ首地竜討伐に掛かるも三勇者と一行は魔族戦闘同様連携を取らず各パーティで戦闘を開始、私とギルマスパーティは連携を試みるも失敗。結果消耗戦になり、その時【日輪の勇者】様が聖武具を解放。三つの首と胴体の二、三割を消滅させましたが、すぐに自己再生して地魔法による攻撃を受けました」


 どうやら三つ首の魔物はソリトの予想通りドラゴンで間違いなかったようだ。

 それよりもスタンピードの状況下で仲間割れ行動、討伐の遅延。呆れるしかないというのがソリトの最初に抱いた感想だった。


 まず、倒すのが遅れる分だけで都市の防衛に全力を尽くしている冒険者や兵士達、近隣の村を防衛する冒険者、そして都市と村に住む人間達に迷惑が掛かる。

 連携を取ってなくとも時間が掛かっているという事は倒す方法の前提が間違っている。

 ただ、探す探さない、見つかる見つからない拘わらずに聖武具解放を行って情報を得たのは曉倖と言える。


 しかし、四つもパーティが存在するのだから、連携を取った方が効率は早いし、別行動をとって各々が違う場所を攻撃してもその部位へのダメージはバラバラでは決定打にはならない、強力な自己再生能力があるなら尚更戦い方を考えるべきだった。失神しているので言っても意味は無いが。それにぽっと出てきた人の言葉を聞くなんてあり得ないと、言うつもりは端からソリトには無かった。


 そもそも、クロンズ達はドラゴンを一度倒している亜種の地竜ではない。混血か純血かは定かではないが正真正銘のドラゴンだった。レベルが低かったというのもあるかもしれないが、それでも鱗が強硬な事くらいは知っている筈。

 試したのかもしれない。試して駄目だったのかもしれない。


 詳細を聞けば分かるかもしれないが、ルティアも戦闘中でそこまで把握はしていないだろう。


 考えている間にも、ソリト達に三つ首地竜の頭突きの怒涛の豪雨が降り注ぐ。それをソリトは【予見】で先読みし、【思考加速】で順を追って回避していく。

 三周回った時、一周に一度だけ三つの首が横一列に揃う瞬間が生まれる瞬間を見つけた。


 《ドーラ、敵の真上で待機しろ》

 《分かったんよ》


 指示を出しながら、ソリトは横一列に揃う直前を狙い横へ回避し、攻撃範囲から外れ、即座に跳躍し、横一列になった顔の右側へ蹴りを繰り出した。


 三つ首地竜は蹴りの威力に蹴り押され、身体の右半分が宙へ浮き残りの二本足で不安定な体勢を立て直そうと踏ん張っている。


「ドーラ、受け取れ!」

「ちょっとソリトさああああああん!」


 ルティアを真上に放り上げて、ソリトは足を浮かせた三つ首地竜へと着地と同時に剥き出しになった腹へ突進する。


「牙狼拳!」


 浮いている右半身の腹へ拳を突き、仰向けになった身体へ狼の拳を叩き込んだ。


「グォアアアアアアアアアア!」

「鉄槌割り!」


 ソリトは更に聖剣を抜き叩き下ろした。その瞬間、腹の底に衝撃音が響き、三つ首地竜の身体がくの時に折れる。衝撃は地面にまで届きひび割れる。苦辛な呻き声を上げたが、鱗に守られているためダメージはそこまで届いていないだろう。だが、それも予想の範囲内。ソリトは【破壊王】と【剛力】の二重スキルを纏った拳を構え、フリーズトータスの硬い甲羅をぶち貫いた一撃を容赦なく振り下ろした。


 ドゴッという鈍い音が響くと共に、腹の鱗が亀裂が入りひび割れた。再生スキルがあるとはいえどこのままでは不味いと感じたのか、三つ首地竜は咆哮を上げ、地魔法の岩柱を自身の真下に放ち、自身を突き上げて無理矢理身体の回転させて元の体勢に戻した。

 ソリトは【空中機動】で一旦退避する。


「〝ブラッドシード・バースト〟!」


 魔法名を唱えた瞬間、三つ首地竜が少し宙へ浮いた。


 ソリトは退避する直前、ベルトに仕込んでいる麻痺針を人差し指の腹に刺して血を付け、ひび割れた鱗の隙間から腹へ刺し、置き土産を残していたのだ。

 範囲も威力も低いものの巨体内部の内臓を幾つか爆散させることは出来たらしく、三つ首地竜は苦悶の声を上げると口から盛大に吐血し、四本脚を大の字に広げて地面に倒れた。

【気配感知】で確認すると気配が消えた。


「あるじ様、こいつまだ生きてるやよ!!」

「チッ、やっぱりか」


 ドーラが空から叫んだ言葉通り、三つ首地竜が顔をソリトの方を向け口から炎を吐いた。


「〝エアリアルシールド〟!」


 直後にソリトは風の魔法盾を出現させて防ぐ。

 命が絶たれれば、スキルは発動しない。しかし、三つ首地竜は、スキルで自己再生した。それもその筈。ソリトは【気配感知】で三つ首地竜に気配が二つあるのを認知していた。ただ大きな気配ゆえに細かな場所が奇しくも掴めなかった。


 そうして、ソリトは気配を探ると同時に地竜の攻撃手段を探っていた。

 最後の魔法攻撃は殺すつもりで体内を爆発させたが、もう一つの気配は消えることなく生き残っていた。つまり範囲内にはいなかったという事。


 その消えた筈の気配も復活していた。

 どういう仕組みかはソリトも判らないが、片方のみ消しても意味はないらしい。生き残った気配と同時に殺らなければ倒せないのかもしれない。

 だが、ソリトは二つ目の気配の場所を発見していた。

 気配が消えたお陰でもう一つの気配が明るみになったのだ。倒せれば良し、見つければ良しだったのだが、その場所は体内とは距離が離れすぎており、同時に倒すのは難しいだろう場所だった。

 しかし、ソリトに手がないわけではない。


「〝ブラッドプリズン〟」


 血の鎖が地竜を拘束する。

 しかし、それもすぐに解かれそうだ。そうはさせまいとソリトは更に魔法を唱える。


「水の精霊よ、我が声を聞き届け、彼の者を氷結の牢獄にて拘束せよ〝アインス・アイシクルプリズン〟」


 スキルによる底上げで中級魔法に相当する範囲の氷が更に地竜の身体を半分覆う。

 上空へ上がり、【並列意思】を発動する。懸念していた黒い存在は出て来ることはなかった。


「廻れ炎よ、原初を体現せし焔よ、天へと昇る太陽となりて、火の精霊よ……」

「ちょっと待ってください!」


 複合魔法を唱えていた時、ドーラの背に乗って上空にいたルティアが、ソリトに制止の声を掛けた。


「何だ?」

「何だか嫌な予感がしたので」


 最近は余り顔を出さなかったルティアの鋭い勘が顔を出したらしい。ソリトが言い繕っても、ルティアには偶に感情が見えるスキルの効果のお陰で誤魔化しは通用しないだろう。


 確かに、ソリトが複合魔法〝クリムゾン・フレア〟を地上に放てば、失神しているカロミオや三勇者達にも被害が及ぶだろう。

 ソリトにとってはどうでも良いことだが、後ろ盾であるカロミオを巻き込むのは宜しくないとも思っている。

 戦闘に多少の犠牲は付き物だ。ゆえにソリトは複合魔法を使う選択をした。

 だが、途中で制止され、一方的な協力は協力ではないと自分で口にしたならこの選択は宜しくないと【並列意思】を使うのを止めた。


「チッ。聖女、止めた責任は取れ」

「は、はい?はい。って何で舌打ちするんですか!」

「だそうだ。それでどうだ聖剣」

「ん。感触はある。でも本当に出来る?」

「こんな時に無視しないでくださいよ!」

「そこはやってみるしかない。聖剣、レイピア」


 聖剣の剣種を細剣へ変え、ルティアに渡す。


「へ?え?なぜ師匠を」

「妥協案として、お前には協力してもらう」

「え?え?ソリトさんが…あのソリトさんがぁ~」


 言ってやりたいことを抑えて、戸惑うルティアを無視し、ソリトはドーラに急いで降下するよう指示を出して地上へ降りた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る