第77話 俺には責任がある。

「あ、あなたは一体何者ですか?」


 ソリトが魔物を全滅させて門の前まで戻ってくると、開口一番にリーチェが尋ねた。


「教える義務があるのか?聖女だからと何でもかんでも許されると思ったか」

「そんな事、思ってなどおりません」

「なら話は終わりだ。引き続き警戒してろ」

「魔物はあなたが倒されましたよね」


 口調はルティアよりも丁寧な感じが聞いてとれる。が、ルティアと違い【守護の聖女】リーチェは戦いと魔物への危機感がぬるま湯に逆上せ浸かっている程に緩いとソリトは思った。

 おそらく、安全な圏内で生活面で不自由なく生活してきた貴族出身なのだろう。

 でなければ、戦場内で言えるようなセリフではない。

 リーチェは十四歳らしい。幼いながらに戦場へ立つ度胸はソリトも認めても良いとは思っている。だが、二年だ。聖女になって二年。その二年間で何をしていたというのだろうか。


 ルティアのように戦闘の訓練でも騎士団にでも願い出てやっていたのだろうか。それにしては危機感が弱い。その目の前にいる聖女には護衛でも付けるべきだと強く考えた。


「馬鹿か?三勇者一行も【癒しの聖女】一行も戻ってきてない状態だ。隙をついて魔族の一人が攻め込んでくるかもしれない。魔物が新たに予想外の場所からくるかもしれない。そうは考えないのか?」


 十四歳に言うのは酷なのかもしれない。だが、【守護の聖女】として世界を回り人間を守護するのであればどちらか一つは考えておかなければならない。


「それが無理ならあと二年は戦闘への教養を身に付けてから活動するんだな」

「確かに戦闘に関しては素人なのは認めます」

「だったらもっと危機感を持て。身構えていれば…っ!?」


 最後の一言を言う前にソリトは目を開き後ろへ振り返った。


「何だ?」

「あの」

「静かにしろ」

「え?……はい」


 声を掛けてきたリーチェを黙らせて、ソリトは感じ取った魔力へ集中する。遠くて微かにしか感じ取れないが、先程まで大群がいた場所から【魔力感知】が反応を示した。

 しかし、そこに何もいないのは遠くからでも目に見えている。

 おそらくは魔力の余波。高魔力をその更に先で放つ者がいるという事。そして、その方向はルティア達と魔族が戦闘を行っていると思われる場所だ。

 考えられるとすれば、先ず勇者が考えられるが、そんな魔力を持った勇者は一人もいなかった。となれば、魔族の可能性が高い。余波を出すくらいだ。

 もしかすると魔王四将という可能性もある、と【思考加速】の世界で考え事をしていたその時だった。爆発音が響き、火混じりの爆煙が立ち上がった。

 余波の発生源と考えるべきだろう。


「今のは」

「マスター」


 聖剣が剣の状態のままソリトにだけ聞こえる声量で話し掛けてきた。今リーチェは爆発に気を取られている。

 聖剣が小声にした意味を理解してソリトはすぐに【念話】で返答する。


 《何だ?》

 《さっきの感じ私に似てた》

 《聖武具…分かるのか?》

 《マスターを通じて感じ取れた》

 《どの聖武具か分かるか?》

 《謝罪。遠いし余波だったと思うからそこまで分からない》


 すぐに特定感知に切り替えていれば、判明したかもしれないと考えたが、結局の所、感知したのは魔力の余波であり、その余波が続いていたらの話。既に余波は消え去り感知するのは不可能な状態だ。

 しかし、聖武具のものとなると考えられる可能性としては聖武具の解放が最も高い。決着を付けられる所まで追い詰めたか、あるいは……。


「こればかりは帰って来るのを待つしかないな」


 確認しに行くことを選ばず、ソリトは防衛する事を貫きながら待つ選択をした。



「…………遅いな」


 あれから一時間。時間は正午を過ぎ、その間魔物が都市へ攻めて来ることも、ルティア達が帰って来る様子もなかった。

 決着が着いたとした場合、どう考えても遅すぎる。そうでなくとも、一人は怪しいが三人も勇者がいるにしては時間が掛かり過ぎている。ルティアとカロミオ達もおり、ドーラもレベルは低いもののそれ以上のステータスを有している。

 戦力に問題はない筈だ。


「………【守護の聖女】」

「は、はい!」

「さっきの話だが。身構えていれば死神は簡単に鎌を向けることはない」

「突然何を……」

「じゃあ後は任せた」


 そう言ってソリトは治療薬や魔力薬水の入った袋をリーチェに放り渡してから駆け出した。後ろからリーチェの戸惑う声が聞こえたが、無視してルティアとドーラ達のいる最前線へ向かう。


「マスターこれ」

「分かってる」


 ソリトが頼まれたのはあくまでアルスの防衛。最前線へ行くのは契約外であり、自身の言った言葉は裏切らないというポリシーに反する行動だ。


「だが、俺には責任がある」


 冤罪の件が終わった後やルティア自身の道を考えてと言ったところで、結局は自分の都合で選択を変えさせた。ならば、危機に陥っていた時ルティアを助けに行く事が責任を取ることではないかとソリトは考えている。


「それに一方的な協力なんて協力とは言わないからな」

「それがマスターの選択なら私はそれに従う。それにたまには自分のポリシーを緩めても良いと思う」

「フッ…従順過ぎる思考のお前に言われても説得力がないな」

「むっ。それはマスターも同じ」


 等と言い合っていた時救助を求める声がソリトの頭に響いてきた。


 《助けて》


 ルティアの声ではない。そもそもまだスキル効果の範囲外で会話が出来る筈がないのだ。


「この感覚…」


 しかし、ソリトは声から感じた感覚に何処か覚えがあった。その正体を探りながらソリトは聖剣を腰に携えて今回のスタンピードの大本へと向かった。

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