第75話 都市防衛戦
買い揃えて貰った薬を受け取りにアランの店へと足を運ぶと、ドーラの服と聖剣の鞘が防衛戦当日に完成したらしい。
一見デザインに変化は見られないが、問題はそこではない。
「ドーラ元の姿に戻ってみろ」
「はいやよー!」
ドーラは本来の姿に変身した。すると、ドーラの着ていたゴシックドレスが消え、上斜め半分が黒で下が白のスカーフリボンが右角に巻かれていた。
「バランスが悪いような」
ルティアが呟いた感想にアランが「そうねぇ」とソリトの方に視線を移しながら言った。
「ドーラ、人の姿になれ」
「はいよー」
ドーラの全身が卵のような丸い光に包まれ、弾けた瞬間、人の姿へと変身した。
「そのまま大人しくしてろよ」
左側に小さなリボン、真ん中にルビーの宝石が付いた白の黒のチョーカーをドーラの首に付けた。
「あるじ様、これなんよ?」
「お前用のアクセサリーだ」
「ドーラのなん!?わぁーい!あるじ様からのプレゼントやんよー!」
勢いでドーラは元の姿に戻ると、左角に服とは別のスカーフリボンが巻かれており、そちらは上斜めが白で下が黒で、結び目にはルビーがアクセントとなっている。
「かっこ可愛いわ!」
「そいつには防御力上昇(中)を付与してある。そこそこ良い宝石で良かった」
「やっぱり色気ないわね」
「うるさい。聖女にはこれだ」
「私にも!」
ソリトはルティアに翡翠のティアドロップイヤリングを渡す。
すると、ルティアは暫く渡されたイヤリングを見つめ、感極まった声でソリトに言った。
「……ありがとうございます!大切にします」
「それは助かる。小さく加工するのにはかなり力を入れたからな」
「素直じゃないわね」
「俺はいつだって素直だ。付与効果だが、片方は敏捷(中)、もう片方は魔力上昇(中)だ」
「付けてみても?」
「付けないでどうする」
ルティアは常時微笑みを浮かべながらティアドロップイヤリングを両耳に付けた。
「ど、どうですか?」
「そうだな……大人びたな?」
「最後の疑問系を消してください」
「大人びたなぁ??」
「絶対増えましたよね!あとなんで感慨深い感じなってるんですか!?」
「はぁ……良く似合ってる。そうなるように作ったんだしな」
「一言余計です。頑張ります!」
何故かルティアは気合いが入ったらしい。
ソリトは空振りしないことを願った。
「次に聖剣だ」
一度店内へ入り、アランから布の巻かれた聖剣の新しい鞘を受け取り、布を外した。布から顔を出した鞘は蒼く、そこに紫色でラスグラジオという花の装飾画が描かれている。
装飾と色付けはソリトが、それ以外は鞘師でもあるらしいアランが仕上げまでを聖剣の要望で造ったものだ。そこにソリトは少し手を加えて遠くに浮かぶ星の煌めきのように黄色い小さな装飾を散りばめている。
その製造途中、アランに「愛されてるわねぇ」とソリトは言われたが今日までその言葉の意味は分からなかった。
「要望通りに完成してると思うが、どうだ?」
人の姿になり、聖剣は鞘を手に取って「素敵」と呟いた。
顔は変わらず無表情だが、頬がほのかに赤く染まっているのでお気に召しているようだ。
「鞘、変えて欲しい」
「ああ」
剣に戻った聖剣の鞘を新しい物に納め変える。直後、聖剣は再び人の姿になると、聖剣のドレスは星の煌めく夜空のドレスをラスグラジオの紫色の花の装飾がスカートをふわりと包むようなレースとなったデザインに変化していた。
「ん。やっぱり素敵。ありがとうマスター」
クルクルと回りながら聖剣は言った。
道具の整備、薬も揃っている。とはいえ、ソリトは防衛戦に回る為、大半はドーラに運ばせて、ルティアとカロミオのパーティに活用してもらうことになる。
確認を終えた所で、ソリト達は北門の方へと向かった。
「あの……仮面の御方」
「何か?」
「北門を防衛する方々が何処にいらっしゃるかご存知でしょうか?」
カロミオと合流したルティアとドーラは更に北へと三勇者と一行の取り巻き達のいる配置場所へ竜車で向かった後、【守護の聖女】リーチェがソリト以外誰も来ない事に違和感を抱いて尋ねてきた。
「北門の防衛は俺一人でやります」
「都市を滅ぼすおつもりですか!?」
激昂するのも分かる。愚かとしか言いようがないこの光景を見れば、驚愕し、激怒する者が殆どだろう。唯に、今ソリトに対してリーチェは感情を荒ぶらせている。この状況が如何に異常なのかを理解しているからだ。
ソリトも解った上でリーチェの問いに応える。
「守りきる為に一人で受け持つんです。自分の中では【守護の聖女】様はあくまで防衛の保険です。分かったなら門の近くまで下がってください。来ますよ」
小さく揺れる大地、視線の先の奥から横長い小さな影が少しずつ大きくなっていく。リーチェは渋々と後方へ下がっていった。
そんな中でも悠長にソリトは柔軟の運動を行っている。そして、柔軟を済ませたソリトは、昨夜カロミオに頼んで在庫処分となる筈だった銅貨百枚で買い取った槍、十五本を地面に突き刺し、その中で質が最も良い一本を握った。
《聖女、今から道を開いてやる。魔族の所まで辿り着けるかはお前ら次第だ。合図をしたらそこを走れ》
《え?どういう…》
返答を待たずに会話を終わらせ、ソリトは槍を構えた。
「【破壊王】プラス戦闘系スキルをプラスした【投擲術】の一投を受け取れ!」
槍を握る右腕を後ろに引きながら軽く助走を付け【投擲術】を発動させる。直後、【投擲術】スキルの効果の中にある【鷹の目】が発動した。
【鷹の目】の効果範囲一キロ。それを全開で使い、同時に【思考加速】で遅くなった世界で魔族を探していると、ソリトは目を見開いた。
「他の魔物とは姿形が違う。他に同じような奴は…いないな」
ソリトが【鷹の目】と【思考加速】で見つけたのは羽の生えた虫のような装甲の身体を持った人型とブルータルという牛型の魔物に良く似た武装をし、右手に大剣を携えた人型の牛。
人型の虫の方は不明だが、牛の方にはソリトは覚えがあった。旅に出る以前に文献にあった記録を読んだ時に似た者が書かれていた。
ゴズという名の魔族。おそらくそれが武装した牛型魔族の正体だと思われる。
魔族二人がいる場所は北の方角へ約八百メートル。その手前を目標にして、ソリトは槍を放つ為にギリギリまで手を離さずに腕を伸ばす。
「穿て!」
放った瞬間、槍は一瞬でルティア達の背後まで到達した。
直後、ソリトはルティアに前進するよう合図した。
《行け聖女!》
《はい。というかさっき何か》
《さっさと行け!》
《はいー!》
急かして言った瞬間、ルティア達の気配が槍の進んだ方角へ向かっていく。
その間に、
『ヴァイスウルフ討伐により全能力が上昇します』
『ベアウルフ討伐により全能力が上昇します』
『リスピル討伐により全能力が上昇します』
『双頭黒犬討伐により全能力が上昇します』
『リザードマン討伐により全能力が上昇します』
『スノーボマー討伐により全能力が上昇します』
『ベアウルフ討伐により全能力が上昇します』
『フリーズトータス討伐により全能力が上昇します』
『風撃翡熊討伐により全能力が上昇します』
『シードボマー討伐により全能力が上昇します』
『ヴァイスウルフ十体討伐により全能力が上昇します』
『リスピル二十体討伐により全能力が上昇します』
『リザードマン十三体討伐により全能力が上昇します』
『ベアウルフ五体討伐により全能力が上昇します』
『シードボマー二十体討伐により全能力が上昇します』
『スノーボマー十五体討伐により全能力が上昇します』
『リザードマン二十体討伐により全能力が上昇します』
『スキル【水耐性】獲得』
『ベアウルフ十体討伐により全能力が上昇します』
……『Lvアップ。Lv63になりました』
……『スキル【対寒耐性】獲得』
……『スキル【剛力】獲得』
……『スキル【衝撃耐性】獲得』
……『Lvアップ。Lv64になりました』
更にステータス上昇が続いていき、平行して魔物の討伐姿が増え、久々にスキルを獲得していった。
ソリトが槍一本で討伐した数約二百三十体の魔物はルティア達に道を開く次いで。
そして、まだ防衛戦は始まったばかり。本番はここからである。
「さて、俺の糧になって貰おうか」
――――
【水耐性】
水属性の攻撃耐性を付与。(一段階アップ状態)スキル効果により【耐性】から【無効】に変化。
【対寒耐性】
寒さへの耐性を付与。(一段階アップ状態)
スキル効果により【耐性】から【無効】に変化。
【衝撃耐性】
衝撃系の攻撃への耐性を付与。(一段階アップ状態)
スキル効果により【耐性】から【無効】に変化。
―――
どうも翔丸です。
中々に【守護の聖女】に辛辣なソリトでした。
遅れながらスキル獲得の補足をしようと思います。
何故【対寒耐性】?と思う方もいると思います。
これはヴァイス(意味は白)ウルフが関わります。ヴァイスウルフは氷山地帯に棲息します。
ならば当然、寒さに対する耐性を持っている。ということです。
【衝撃耐性】はスノーとシードというボマー。爆弾魔物がいるからです。
スノーは雪だるま、シードはそうですね縮めて◯◯モンのナゾノ植物を想像してもらえば。で、見た目可愛らしい容姿ですが、倒されたり、傷付けたりすると爆発する恐ろしい魔物ちゃんです。
そして、爆弾魔なので任意で爆発することも出来ます。
爆発は衝撃系だと思うので討伐していき【衝撃耐性】獲得ということです。
【剛力】はベアウルフと風撃
以上
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