第64話 似た者同士?

「そろそろ出発するぞ」


 教会跡地で膝を突き祈りを捧げている、紫掛かった灰色髪の聖女にソリトは声を掛ける。


「はい。今行きます!」


 ルミノスによって生きた屍とされたクレセント王国南西にある村の人達が最後を迎えた場所に、朝食後にソリト達は墓を作った。

 遺体のただの飾りでしかないのかもしれないが、安らかに眠れるようにという想いは込めたつもりだ。

 作り終えた後、ソリト達も祈りをしてから支度をしていたが、その間もルティアは三十分程ずっと祈りを捧げていた。

 ルティアは立ち上がり、最後に頭を下げて竜車に乗った。



 ソリトは一度中央都市アルスへ戻る事にした。


「何で戻るんよー?」


 ドーラが質問してきた。


「一つはお前の服を新しく作る事、もう一つは聖女の状態を治すためだ」

「ドーラの?」

「そうだ。今のドレスはもう必要ないからな。今度は変身しても破れない服を作って貰わないといけなくなったからな」


 という話していた時、突然魔物が襲い掛かってきた。これに関しては良くあることだろう。

 しかし、村に来る道中は村付近で魔物が襲ってくることは一度も無かった。

 ルミノスを倒した後、村を中心に覆っていた霧がすぐに晴れていったとルティアは話した。

 そのお陰で判明したらしいのだが、あの霧はどうやら高位の結界だったらしい。


 だが、それなら魔物が周囲にいなかったのも、ソリトの持つ【暗殺者】の気配感知や【魔力感知】の感知スキルが上手く働かなかったのも素直に頷ける話だった。

 そして、結界が無くなった事で魔物が少しずつ村の近くにある山や森に戻ってきていた。

 現在は森でその魔物達と戦っている最中だ。


「――ッ!」


 突然、ブラッククロータイガーがソリトに飛び掛かってきた。


「〝ブラッドプリズン〟!」


 しかし、血の鎖が何重にも縛る。

 〝ブラッドプリズン〟。対象一体の動きを束縛する血魔法。

 射程は三メートルと短めだが、【孤高の勇者】の効果で【血魔法師】が一段階上昇している事で射程が六メートルに変わっている。更に魔法を一段階常時上昇させる効果で魔法は実質二段階向上。拘束力も強力になり、ブラッククロータイガーが足掻こうとしているが一切身動きの取れさせない。


 ソリトは魔法を解除すると同時に聖剣が一時的に作った分身の剣でブラッククロータイガーを叩っ斬る。


『ブラッククロータイガー討伐により全能力が上昇します』


 後ろから苗のような植物の魔物達が頭の草を槍のような形にしながら高速回転して突っ込んできた。


「紅蓮剣」


 ソリトは横に回避し思考加速した視界で本体の丸い身体を、炎を纏った剣を回転しながら真横に真っ二つに斬り燃やす。


『シードプラント討伐により全能力が上昇します』


 少し離れた所ではルティアとドーラが以前魔物商が馬車の中で見たハウリングベアーと戦っている。


「聖女、相手の動きをしっかり見て避ける。間を置いて攻撃しない隙があるならカウンターを狙う」

「はい師匠!」


 聖剣は後方でルティアの動きを見て指導している。

 その時、聖剣の方に泡のような透明な実を付けたバブリーツリーが近付いてきた。

 ドーラは聖剣に近付くバブリーツリーを炎で焼き倒す。ドーラが吹いた炎の一部が森の一部に燃え移る。

 ソリトはすぐに水魔法で消火した。


、今は人型になって戦う。場所や状況に応じてドラゴンと人型を使い分ける」

「うがー!だからトカゲとか言わないでやよー!」


 ドーラの呼び方が変わっている。ソリトは【念話】で聞いた理由は少し成長したかららしい。だが、ドーラからしたらどちらも変わらないだろうと、ソリトは思っている。

 仲が良いのか悪いのか分からない位置関係も変わらずだ。


「落ち着いて来ましたね」

「ドーラはもっと戦いたいやよ」


 四十分程度と割りと早く魔物達は森の奥へ逃げていった。


「だったら追いかければ良い。でもマスターを困らせるだけ」

「ドーラは早く強くなりたいんよ!」


 すぐに有言実行に移すのはソリトも良いとは思うが、焦った所で直ぐには強くなれない。そう考えたが、自分が言うのはあまり意味がないとソリトは様子を見ることにする。


「その気持ちは尊重する。でも焦るのはかえって危険。もう一度言う。マスターを困らせるだけ」

「分かったやよ」

「うん。それで良い」

「ドーラちゃん。一緒に頑張りましょ」

「うん!」


 ルティア達はルミノスの一件で一層仲が深まったようだ。話に区切りが付いた所でソリトはルティア達と合流する。


「聖女、体は大丈夫か?」


 呪いの影響で先程の戦闘での動きが鈍かった。

 元はと言えばソリトと同じ【勇者】スキルを持ったクロンズ達パーティが魔王四将ルミノスの封印を解いてしまった所為な訳だが、カースオルタスキルシリーズ【反転顕現/憤呪冰怒】というスキルをソリトが発動した直後気を失い、スキルが自立して戦闘している最中にスキルに飲み込まれそうになるソリトを助けるために自らを犠牲に呪いの炎に巻き込まれ受けてしまった結果だ。


「はい、問題ありません」

「そうか」

「責任持たないとか言ってたのに、心配してくださるんですね。嬉しいです」

「…すまん」

「もう、気にしないでくださいって言いましたよ。ソリトさんも頷きましたよね?」


 微笑むルティアの痣だらけの身体を見ると、互いに気にしないと決めたが、ソリトは罪悪感を覚える。


「ルティアお姉ちゃん大丈夫?」

「大丈夫ですよ。ね?ソリトさん」

「あ、ああ」

「でも無理は禁物」

「勿論です師匠」

「なら良い」


 顔色も良い、戦闘ができるならそこまで重症ではないのかもしれないと自分に言い聞かせるが、一応気には掛けて置くことにしたソリト。


「よし、じゃあドーラの服と聖女を治すために早く中央都市に向かうぞ」

「ドーラの?」

「そうだ。今度は変身しても破れない服だ」

「やったー!」


 ドーラはぴょんぴょんと嬉しそうに跳び跳ねる。

 それから中央都市に急行して竜車を走らせる。


 途中、ルミノスの戦闘の後から自分のは見たが、ステータスが見れないからとドーラのレベルを見ていない事を思い出す。


 ソリト Lv62

 ドーラ Lv30


 ドーラのレベルを見てソリトはもうすぐレベル上限限界になると思った。

 レベルが35に到達するとレベル限界となり成長できなくなる。教会に行けばその限界を上げる事が出来る魔法陣があり、上限を上昇させることが可能らしい。


 だが、勇者と聖女にはその上限がない。唯にソリトはどういう事を行うのか知らない。

 ソリトはドーラがレベル上限を上げる日が少し楽しみになった。




 何度か竜車にルティアが酔い休憩を入れつつソリト達はたった二日で中央都市へと戻ってくることが出来た。


「てわけで、魔綿の虹布で改めて服を作ってくれ」


 ドーラが人型に変身可能になった事を話すとアランは首を横に振った。


「作ってあげたいけど、今は魔綿の虹布が出回ってないのよ」

「何かあったのか?」

「まあよくあることなのよ。魔綿の虹布は渓谷や崖に棲息してるレインボーシルキワームの糸で作られてるの」

「それが調達出来ないのか」

「ええ、レインボーシルキワームは糸で作った巣に魔力を通して棲息地の景色に紛れるから場所が分からなくなるの。でも、夜は睡眠に入って取ることが出来る。ただ、繁殖期になると夜でも必ず一匹は起きてるらしいから出回らなくなるのよ」


 作って貰うにしても他の服よりも高価ということ。取れない時期は更に値が張っているだろう。


「価格は」

「金貨三枚からね」

「うぐ……」


 増血剤で儲けたとはいえ、聖水を買うことを考えると少し心許ない。


「場所は分かるか?」

「ええ」


 アランは店の奥から一枚の地図を持ってきて広げる。


「ここから近い場所はクレセント王国の渓谷だったはずよ」


 クレセント王国北東部にある渓谷をアランが指差す場所を聞いた瞬間ソリトは顔をしかめた。


「ソリトさん。今凄く行きたくないって顔してます」

「当たり前だ」

「理由は聞かないでおくわ。でももし、採ってこれたらサービスしてあげる」

「……その案に乗ろう。あと値下げに関しての証明書を書いてくれ」

「分かったわ」


 先日は運良くこの都市まで戻れたものの。見つかったら色々と面倒なので、ソリトとしては余り行きたくはない。だがドーラに毎回ゴシックドレスを着せるのは手間が掛かる。


「あと私も付いていくわ。目利きが必要でしょ」


【採取師】のような目利きの出来るスキルがあれば大丈夫だが、今回はアランに直接見て貰い採取した方が良いだろう。

 希少ともなれば高値で売り付けれる、と考えたソリトはアランに同行してもらうことにした。


「ちなみに今日でも良いか?」

「ええ、大丈夫よ。今からでも良いし」

「いや、この後教会に寄る予定があるからその後になる」

「そういえばルティアちゃん、服で隠れてるけど酷い怪我してるわね」

「ええ、依頼を受けた先で手強い相手から呪いを貰ってしまいまして」

「そう。呪いを与える敵なんて厄介ね。という事は聖水を貰いに行くの」

「はい」


 ルティアがアランと話ながら、何度か一瞬自分がやったと言うなという視線で睨むのでソリトはただ会話を聞いていた。

 とはいえ、誰もソリトがやったとは想像しないだろう。


「あのソリトさん、聖水は後回しでも」


 ルティアの言葉を無視してソリトは竜車に乗る。


「また無視……」


 竜車に乗ったルティアは真正面に座り、無視するなぁ、と不服そうにソリトを見つめている。


「聖女、マスターと貴女は似てるから諦めるべき」

「いやいや、似てない」

「いやいや、似てません」

「息ピッタリで否定する仕草も同じ」

「「いや偶然だって」」

「笑って誤魔化すも仕草同じ」

「俺は聖女みたいに付き纏わない」

「私はソリトさんみたいに無視しませんよ」

「ふ、そうやって頑固になる所マスター達似てる」

「「………」」


 ソリト達が似てる似てないどうあれ、教会に行く事は変わらない。

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