第63話月光下と日の出の誓い
二十分程でやっと復活したルティアからソリトは先ず自身の状態について尋ねた。
「呪いか」
「はい。それもかなり強力な」
「ルティアお姉ちゃん治るんよ?」
少しして目を覚ましたドーラが心配する。
「それは大丈夫ですよ。聖魔法という魔法がありますから。ただかなり強力なのですぐに治すのは難しいかと」
「俺でもか」
「ん〜一度やってみてもらわないとなんとも」
「それもそうか」
「えっと、やってみます?」
「では、私の後に続けて唱えてください」
一回頷き、ソリトはルティアの後に魔法を唱える。
「「精霊よ、我が声を聞き届け、彼の者の邪を祓え〝カースド・キュア〟」」
ルティアに魔法を掛けると紫色の痣が消えていく。しかし結果は、少し小さくなった程度だった。
ソリトが今積極的なのは呪いを受けた際の経緯で結局話を全て聞いて中で気を失っていた間の事を聞いたからだ。
【反転顕現/憤呪冰怒】。
見てみたがスキル名だけで詳細が表示されなかった。
聞く限りこのスキルはどうやら呪いを与える力があるようだ。しかも、不思議なことに気を失っていながら戦闘が可能。
つまり理性のなかったその時、敵味方の判断など不可能な状態。ルティアや気を失っていたドーラを襲っていても、いや殺していても可笑しくなかった筈だ。
だが、それがきっかけで【狂戦士】というスキルを獲得したのだろう。
カースオルタスキル、呪いと反転のスキル。意識がなくともスキルが自立して動くなど危険なものだ。
使う場合考えて使うべきだろう。
「他に方法は無いのか?」
「他となると聖水ですね。ですが、聖水は魔法の道具版みたいなものですし、効き目があるとしても強力なものでないと」
「そうか」
「はい。なので私が毎日少しずつ治していきます」
「ちなみにその聖水は教会に行けば手に入るのか」
「え、はい。都市くらいの大きな町でなら」
「そうか」
「もしかして……買うつもりですか?」
「ああ」
「やめてください」
反論は聞かないと言わんばかりにルティアがソリトを軽く睨む。
しかし、ルティアは女の子だ。紫の痣が痕になるのは困るのではないだろうか。気遣いではないが、一時は女と付き合いをしていた故にソリトはそう思った。
「断る。けじめは着けると言った筈だ」
「それなら、ソリトさんも罪悪感も責任感も持つのはやめてください。私が止めて受けたものですから自業自得です」
「断る」
「やめてください」
「断る」
と、同じような口論を何度もしていると、突然ルティアが語りだした。
「私は、私はあの時怖かったんです」
膝に掛けている毛布をぎゅっと握り締めてルティアはポツポツと語りだす。
「ソリトさんが消えるそんな気がしたんです」
「は?」
「師匠、聖剣を黒く染めたあの禍々しい力は、ソリトさんの感情を飲み込むように心を覆い始めたのを見て、ソリトさんを消し去って、別の誰かに…変えてしまうんじゃないか…そんな気がしたんです。ですから、こうしてソリトさんを引き戻すことが出来て事のなら本望なんです。ですから呪いなんてへっちゃらなんです」
そう笑ったルティアの笑顔は今度は本物だった。
「分かった。ただし、聖水は買うからな」
「はい。協力者が足手纏いなんて嫌だからですよね」
ルティアがソリトの心を読んだかのように言った。
「お前、本当はいつでも感情読めるだろ」
「違います。ソリトさんが言いそうなことを予想しただけです」
「あっそ」
「そこは最後まで興味持ってください!」
ルティアのツッコミを聞いて問題ないだろうと判断して、ドーラの今の人の姿について聞く事にする。
「ドーラ」
「なんやよ?あるじ様」
その時、ルティアが「無視しないでください!」と言うがソリトは無視してドーラに尋ねる。
「お前のその姿何だ?」
「ルティアお姉ちゃん呼んでるよ?」
「ドーラちゃん」
「あれはこいつ流の気にせず話してくれっていう言葉だ」
「そうなんやね」
「ち・が・い・ま・す!」
「違うって言ってるんよ」
「おい聖女話が進まん。少し黙れ」
「うぅ……さっきまでの優しさはどこに言ったんですか」
涙目になってルティアがソリトに訴える。
「責任を持つのを止めたんだからお前を労う理由はないだろ」
ソリトからしたらそんなの決まっているくらいの単純な理由を告げた瞬間、涙目だったルティアの顔がこの世の終わりのような表情に一変した。
「言わなければ良かったです」
今度は悔しげな表情に変わった。
そのころころ変わる表情にいつもの表情が忙しないルティアだとソリトは思った。
その時、ルティアがニヤッと怪しげな笑みを浮かべた。
「ドーラちゃん聞いてください。ドーラちゃんが気を失っている間、ソリトさんずっと心配してたんですよ」
「ほんとーあるじ様ドーラの事心配してくれたんよ!?」
「知らん」
「あー!あるじ様顔赤くなったんよ、照れてるやよー」
「そうか。今日はお前の尻尾がメイン料理だな」
「わールティアお姉ちゃん怖いんよー。あるじ様が優しいんよ!」
「そうですねー。前はどこかに売るとか言ってましたからねー」
「ねー」
ルティアとドーラの二人が言葉とは真逆にソリトを見ながらニヤニヤしている。
腹が立ったソリトは後で覚えてろと内心で呟く。
「それで、その姿は何だ」
「うん。この姿ね。これがドーラのちゃんとなれる姿なんよ」
要約すると、今までこ精神体と肉体の幽体離脱状態は仮で、真に変化してなれる姿は小さい翼はそのままに鱗、角が生えてはいるものの、人に近い姿になれるようになったらしい。
きっかけはルティアが命の危機的状況だった時だと、危機に陥っていたルティア本人から聞いている。
「ドーラね、あの女の人に弱いって言われたの。それで強くなりたいって思ったの。そのあとルティアお姉ちゃんが危なくなって死んじゃう、助けたいって思ったらこの姿になってたんよ。でもドーラ負けちゃったやよ」
そう言ってドーラは悲しげな表情でソリトとルティアに「ごめんなさいやよ」と謝った。
「大丈夫ですよ。ドーラちゃんが粘らなかったらソリトさんは間に合ってなかったと思います」
「そうだな。良くやった」
「うん!」
ソリトが褒めるとぱあっと表情を明るくして元気良く返事をするドーラ。そのドーラの腹が唐突に鳴る。
「飯にするか」
「そうですね」
「ごはんやよー!」
それからソリトが外でルティア用にミルクリゾットとドーラ用に大鍋一杯と自分用のシチューを作った。
「あるじさまの〜ご〜は〜んはお〜い〜しぃんよぉ♪」
歌いながらドーラはシチューを大食らっていく。
暴食まではいかなくなったが、成竜でも未だに成長するからなのかドーラは大食漢で、毎回食事姿を見るたびに食費が馬鹿にならな、とソリトは少々不安を抱く。
さらに、今回は人型の姿でなので、その小さな身体のどこに入るのか気になった。
だが、その分働いて普通の馬車よりも距離を稼げるので村などに速く到着できる。
食べ終わった後はルティアを休ませるために早めに就寝することにした。
ルティア達が眠りについた事を確認してソリトは竜車から降り外に出る。
「弱いか」
ドーラがルミノスに言われた言葉を聞いてからソリトはその言葉が頭から離れなかった。
自分はまだ弱い。
強さが欲しいと思った。
異様なスキルに負けないためにも、頼ろうと思わなくても良い程の強さが、ドーラを、協力関係が続く間ルティアを、危機的状況に陥らず、目の前で命を落とさせない程の強さが欲しいとソリトは自分に固く誓った。
「あるじ様ー」
ルティアの隣で寝ていたドーラが起き、竜車から降りてソリトに話し掛けてきた。
「何だ?」
「ドーラね。ずっとあるじ様達と同じ姿でごはん食べたいって思ってたんよ」
「なら、精神体になって食べれば良かっただろ」
「触れるけど食べるのは無理なんよ。だからねこの姿になれて今すごく嬉しいんよ」
人型の姿でドーラは満面の笑みを浮かべる。
「でも、今はそれだけじゃないんよ。ドーラ今日負けちゃったんよ。だからドーラ、もっと強くなりたいやよ」
子どもだと思って甘く考えていたソリトだったが、ドーラもドーラで今回の件に悩んでいたようだ。
「ドーラもあるじ様みたいな強さが欲しい。でも、無理やよ。ドーラはあるじ様じゃないから……ドーラは、ドーラだから」
この短時間でそこまで考え付くのかとソリトは驚愕した。
そんなドーラをソリトは応援したくなった。
「お前は強くなる」
「ほんとやよ?」
「ああ、今回は負けたがその敗北をこれから生かして行けば強くなれる。お前も、俺も」
「うん!ドーラがんばるんよ。あるじ様とルティアお姉ちゃんを守れるくらいがんばるんよ」
「ルティアだけで十分だ。あとお前を守るのは飼い主の俺だ」
「えー……じゃああるじ様と一緒に戦えるくらいがんばるんよ」
「そ、そうか」
「うん!」
大切に思っていたと自覚した為か、少し嫌悪感はあったが不思議とソリトは嬉しい気持ちの方を強く抱いていた。
「もう寝ろ。お前も疲れてるんだ」
「はーい」
何故か見れないドーラのステータスとスキルが見られれば、ドーラの強くなりたいという願いを少し後押し出来たかもしれないなと思いながらソリトも竜車に戻って寝ることにした。
それから翌日の陽の昇り始めていた朝。
ソリトは早めに起き、朝食の準備をすることにした。
その時、竜車の方から気配が近づいてくる。
「おはようございます」
「ああ……おはよう」
挨拶を返すと隣に立ちゆっくりルティアは座ると、ポツリと呟く。
「ソリトさん」
「何だ?」
「私、強くなりたいです」
ソリトは瞳だけをルティアに向けて朝食作りを続ける。
真っ直ぐ見つめるルティア瞳が昨日夜のドーラと同じだった。
だからだろ、ソリトは口出ししたくなった。
「先に言っておくが、お前は勇者じゃない。聖女だ。外じゃなく中から救う存在だ。何よりお前は【癒しの聖女】だ。死んだら元も子も無い」
「分かってます。それでも私は後ろから見守るだけはもう嫌なんです。少しでも良いから前で助けたいんです」
「俺が言うのも門違いだが、信じて見守るというのも強さだと思うが」
「だとしても、私は前で少しでも助けられるようになりたいんです」
「前衛もやるってことは後衛の距離じゃいられないぞ」
「危険で難しいのは理解してます」
「なら、お前は強くなれる」
「っ…はい!その為にも師匠には早く起きていただきたいものです」
『それなら大丈夫』
そんな声が聞こえた直後、腰に差している聖剣が形を変えて青いドレスを着た金髪の少女に変わった。
「師匠!」
「呼ばれて飛び出て聖剣だよー」
「なんだそれ」
「マスター気にしたら負け」
自分で振っておいて何を言っているのだろうとソリトは内心思った。
「師匠、昨日…その色々あったんですけど、大丈夫ですか?」
「ん。大丈夫じゃなかったら姿を変えてない」
「そうですね」
「でも、戦闘は無理」
「重症じゃないですか!」
お前も重症なの忘れていないかとソリトも内心で密かにツッコミをいれる。
「安心して。指導することくらいは口で出来る。それより師匠ってなに?」
「今そこですか!?」
「当たり前。鍛えるだけで師匠になったつもりはない」
どうやら、自分の身に起きたことは理解できているようだが、何が起きていたのかは把握していないらしい。
ソリトは後で聖剣に昨日の事を話すことにした。
「でも、悪くないからこれからも師匠と敬い呼ぶ」
「はい、師匠!」
「もっと呼ぶ」
無表情な聖剣の口角が少し緩み上がっている。
色々言っているが聖剣は師匠呼びもルティアも気に入っているようだ。
「とにかく朝食食ったら手伝ってもらうぞ聖女。聖剣もだ」
「ん、構わない」
「私も構いませんけど、一体なにを?」
「墓作り」
そう言うと、ルティアが膝から崩れ、突然顔を隠しながら泣き出した。
それからしばらくルティアは感謝の言葉をソリトに言い続けた。
――――
どうも翔丸です。
今日カクコン6の中間発表、読者選考の結果発表を見ると、発表覧の中に反転勇者が載っていたんです。
皆さんありがとうございます。
ビックリです。
通過するつもりで参加しましたけど実際に中間でも通過するとめちゃくちゃ嬉しいです。
本当にありがとうございます!
最終選考ドキドキ。
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