第65話 教会

 聖水を手に入れるため中央区域にある大きな教会へ足を運んだ。


「【癒しの聖女様】!その怪我どうなされたのですか!?」


 中に入るなりルティアに驚愕の顔が集中する。

 次に親の仇のようにソリトを睨みつけてきた。

 間違ってはいないのでその睨みをソリトは受け入れつつも、視線に気付いていない形を取りながらよく原因が自分だと分かった事に感心した。


「落ち着きなさい」


 教会の奥から司教らしき渋い顔の男性が二人の神父らしき人物と共に現れ、冷静な声でシスターに注意を掛ける。


「お久しぶりですね。【癒しの聖女】様」

「お久しぶりです。教皇様もお変わりないようで」


 教皇が何故中央都市にいるのかソリトは疑問を抱いたが、用を済ませるために話に割り込むことにする。


「話の途中で悪いが、ここに来た用件を済ませたいんだが良いか」

「構いません。それで本日のご用件は?」

「もう分かってると思うが、あんた達の所の聖女様が強力な呪いを受けてしまってな。その呪いを解く為の聖水が欲しい」

「あなたに売る聖水などございません!」


 一人のシスターが怒りを剥き出しにソリトに向かって言った。

 ルティアの命でソリトの情報の開示を禁止にしているとはいえ、やはり裏では歓迎されていないようだ。


「では、お布施をいただきます」

「いくらだ」

「教皇様!」

「ここは教会です。黙りなさい」

「何故です」

「黙りなさいと言ったはずですが」


 教皇が再度注意するとそのシスターは食い下がりながら離れていった。


「それでいくらだ?」

「効果の低い物から銀貨七枚、十四枚、二十一枚……金貨一枚と高い物ほど高価になります」


 教皇の後ろを付いてきていた神父の一人がソリトに説明した。

 先程のシスターの件があるので、吹っ掛けている可能性があると疑惑を持っていると、隣にいたルティアが小声で「全部正当な値段です」と言った。

 他の人間よりまだ信用に足る協力関係としてルティアを認めている為、ソリトは聞き入れることした。


「分かった。ならその金貨一枚の聖水を貰いたい」

「ソリトさん、それは一番強力な聖水です!そんな高価な聖水、受け取れません」

「生きていれば金はいつでも稼げる。それに早く治ってもらった方が俺としても良いからな。ここに来る前、お前が俺の考えを察して理由を言ってたと思うが?」

「そうでした。では、ありがたく頂戴いたします。ありがとうございます」

「それに教会としてもお前に早く治って貰いたいと思ってる筈だ」

「ソリトさん、感謝とは素直に受け取るものです」


 ルティアの言葉使いに小さな違和感を感じながらソリトは教皇に金貨一枚を渡す。

 教皇は先程とは別のシスターに指示して聖水を持ってこさせた。

 念のため、ソリトは【薬剤師】の薬鑑定で品質をチェックする。


 聖水(低級) 品質 悪


「どうやらここの教会は【癒しの聖女】に治って貰いたくないらしい」


 全ての教会は流石に言い過ぎなので、中央都市の教会に絞って教皇を睨みながらソリトは言った。

 言われた言葉をすぐに理解して教皇は顔を顰めた。


「何故品質の悪いものを持ってきたのですか」

「【癒しの聖女】様には一番強力なものをあとで持ってくるつもりで…」

「聖女様は神に選ばれしお方。その聖女様が認めた者をあなたの私情な正義感を満たすために貶めることは神と聖女様を冒涜していることと同義。悔い改めなさい」

「ですが!……申し訳ございません」


 最後まで抗議しようとした直後、自分ではなくルティアを見たシスターにソリトは何かが引っ掛かった。


「我が教徒達が無礼を働いてしまいすみません」

「最終的に金額に見合う聖水が貰えるなら別に文句はないさ」

「感謝致します」


 その後、今度は教皇自ら聖水を持ってきた。念のためソリトは再度チェックした。


 呪詛払いの聖水 品質 高品質 呪いに対して強い効果を発揮する。


「大丈夫みたいだな」


 ソリトは教皇から聖水を受け取った後、密かに【薬剤師】の追加効果の品質向上で高品質から最高品質に向上させておいた。

 これで呪いが解けるのも時間の問題だろう。


「これでお姉ちゃん元気になるんよ?」

「すぐとは行かないが近い内に治るだろうな」


 ぴょんぴょん跳ねるドーラを余所にソリトは教皇に話し掛ける。


「感謝する。あと、あのシスター達の教育はしっかりしておけ」

「はい。一信仰者として見過ごせるものでは御座いませんで念入りにいたします」

「なら良い。聖女、お前も報告しないといけないことがあるだろ」


 小さく頷いた後、ルティアは教皇に村で起きていた出来事の発端が【嵐の勇者】達であること、それが原因で魔王四将の封印が解かれ村人は生き霊として操られていた事など、呪いの件に関してソリトが原因であることを省く事以外は事細かに説明していった。


「この件は私がアポリア王国とクレセント王国に報告します。良くお勤めを果たされました」

「ありがとうございます。お願いいたします」

「神と聖女の加護に感謝を」


 最後の言葉が自分に向けて言われたようで少し恩着せがましい言い分なような気がしたソリトだが、それでも教皇のような公平さを持った人間がもう少しいれば国もマシになるのじゃないかと考えながら教会を後にした。


「そういえば聖女。お前さっきいつもと話し方が違ったよな」

「あ、当たり前です!聖女とはいえ、教会の最高位の方がいたんですから」

「当然です。聖女といえど、教会の最高位であらせられる教皇様の前です。とかじゃないのか?」

「そんなに変でした?」


 困ったような表情でルティアが尋ねる。

 別に変というわけではない。社交的な口調に変えたこと以外は普段と何ら変わらない様にソリトは思えた。ただ、


「お前は普段から確りした口調だし、無理して変えるより素の方が距離感が近いから良いと思っただけだ」

「本当ですか!?」

「ああ、ただ付き纏う事はしない方が良い」

「ですから放っておけないです!何かが台無しですよ!」


 飽きても良いはずなのに毎度の事ながら一つ一つにツッコミを入れるルティアを余所にソリトは御者台に乗り、ドーラにアランの防具店に行く前に観光区域に寄って薬草などを買い出す事を伝えて引かせる。


 その間、ソリトが無視した際の言葉をルティアが言ったのは語るまでもない。





――――

崇拝恐ろ……。

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