第30話魔物商人

 注文していた料理が来てそれぞれ支払い食事を取ったソリトとルティアは店を出た。

 

「何を考えてるんですか?」


 中央都市となると、足が必要になる。

 全力で走れば馬車よりも到着する日数は速いだろうが、ソリトとしては万が一を考えて体力はなるべく温存しておきたいところだ。

 歩くと相当日数が掛かる。となると馬車が必要。

 馬車は村に戻ればある。

 しかし、肝心の馬がいない。


「ソリトさん」


 ソリトが考え事をしていると、耳を引っ張るという強行策をしながらルティアが呼び掛けてきた。


「いてて、なんだ?」

「なんだじゃありませんよ。ずっと呼んでたんですよ」

「そうか」

「あの、私達協力関係ですね?」

「一応な」

「いち……それなら先程何を考えていたのか教えてください。情報共有は大事ですから」


 確かにソリトはルティアと協力関係となった。情報共有も大事だ。しかし、考えている事を一つ一つ喋る必要はないはず。必要な事だけで十分だと思うのだが。


「今、必要ないとか思いましたね」

「勝手に見るなよ」


 考えている時の感情まで分かるらしい。それも経験によるものなのだろうし、見たくて見ているわけではないようだが、余り勝手にみないで欲しい。

 そう思いながらソリトが言い返すと、ルティアは小さく笑った。


「今のは私を理解しての返し。そうして少しでも理解しておければ情報を探る際での行動で連携が取り易くなると思うんです」


 その意見には一理ある。

 別に自分のスキルや身長、年齢とか個人的な事を教えてくれと言っているわけではない。

 今考えている事だけでも少し共有しておけば多少の性格や思考パターンが分かり、次の行動材料にもなる。


 例えば、聖女ルティアは相手を納得させようたする時の言葉の選択が上手いこと、といった感じに。

 ソリトの場合、これまで殆ど無視して放っていた。

 しかし協力関係ともなると少しは耳を傾けなければならないだろう。自分で了承したことだ。不審な事がない間は取り止めるなんて事はしない。自分の言葉を裏切らないと、ソリトは以前そう決めたのだから。


「大した事じゃない。中央都市に行くなら万が一を考えて徒歩より馬みたいに他に足がいると考えてただけだ」

「………ここだと難しいかもしれませんね。嫌がらせをしないとは限りませんから」


 仮に何処かに素材を売却に行ったとして、足元を掬ってくる可能性がない訳じゃない。何と言っても、あの聞く耳を持たない国王がいる王都なのだから。


「その時は脅しでも、不評でも広げてやる」


 悪徳な商人なら他はともかく、冒険者に吹っ掛けるような真似を商人がすればただでは済まない。信用第一が大事な人種なのだから。

 下手をすればその結果は客無しに至るだろう。


「冗談と思えれば楽だったかもしれませんね、はぁ」


 ルティアは諦めたような表情になる。

 しかも溜息まで吐く始末である。一体本気の何が悪いというのか。

 それから外に出るために城門に向かった。


「ところでソリトさん食料も調達せずに数日掛けて街に戻るのは厳しいですよ」


 その言葉に対してソリトはニヤリと不敵な笑みをルティアに向けた。嫌な予感しかしないという表情でソリトを見てもルティアの質問は既に遅かった。



「何でまたぁぁぁぁぁぁぁ!」


 王都を出た後、ソリトはルティアを左腕で腰に抱き上げて草原を猛絶な速度で駆け抜けていた。

 予定としてソリトは休息を合間に入れつつでも二日で辿り着きたいと思っている。


「女に触れたくもないのに触れてるんだ、お前も我慢しろ!」

「そんなの我慢します!じゃなくて担ぎ方を変えてください!」


 何とも逞しい変わり文句だ。

 しかしそう言われても、おぶって全身密着などお断り、肩に担ぐのも似た密着度になるかもしれないと考え、これしかないとソリトはルティアの服ごと外套を掴んで軽く前斜め上に放り投げた。


「いやぁぁぁぁぁぁぁぁ!」


 落ちてきたところを横に抱き抱え直した。

 お姫様抱っこというものだ。何でも女の子の夢……らしいが、ソリトはそんなのどうでも良かった。

 両手が塞がってしまうが気配感知があれば大丈夫だろう。


「じゃ、速度一段上げるからな」

「へ?まだ上がっ………」


 ソリトは速力を一段上げて駆け走る。


「ひゃあぁあぁぁ〜!」


 ここまで出したのは初めてなので今ソリトは爽快感で一杯だ。自分がまだ速度を上げることが出来るのも少し疑っていたので余計にだった。

 ルティアもルティアで涙が出る程に楽しんでいるようだ。


「変えてもらわない方が良かったですーーーーーー!」


 空を切る音で聞き取りづらく、ルティアが何を言っているのか分からない。そのまま無視してソリトは走り続けた。


『ウササンを討伐により全能力が上昇します』

『ハウンドドッグを討伐により全能力が上昇します』



 そう言えばただのウササンは反転してからまだだったのを思い出しながら討伐したソリト。

 それからおよそ一日掛かる距離を一時間で到着した。


「私が聞いてたお姫様抱っこより大変恐ろしゅうございました。地面さんは落ち着きますなぁ」


 地に下ろした瞬間、ルティアは丸くなるように三角座りになって縮こまり変わった口調でブツブツ呟き出した。


「怖いなら怖いって言えよ」


 縮こまっていたルティアが涙目で睨み付けながらソリトの方に足早でやって来た。

 近い。密着するかしないかの超至近距離だ。


「言ってました、ずっと言ってたんです!怖い怖いって……なのにソリトさん無視して進むんですもん」

「お、おお…そうだったのか」


 聞こえていなかったとはいえ、流石に今にも泣き出しそうな表情で言われてしまうとソリトも罪悪感を覚える。


「私これが初めてだったのに」

「いやそれは別にどうでもいいな」

「お覚悟ぉ!」


 細剣を抜いて至近距離でルティアは突きを繰り出した。

 ソリトは一瞬驚いたが余裕綽々しゃくしゃくといった感じで横に避ける。

 条件反射に近い感じで返したソリトが悪いのだが、避けろと危険察知がとてつもない程働いているのだ。

 さらにルティアは連続で顔目掛けて凄まじい速度で突きを放つ。

 それをソリトは途中で細剣を掴み受け止める。


「この後、今度はお姫様抱っこでゆっくり行く。それで良いか?」

「…………良いでしょう。それで手打ちにします。ただし絶対、絶対ですよ!」

「分かった分かった。自分で言ったことは裏切らん」


 そう告げるとルティアは少し悩んでから同意すると細剣を鞘に納めた。


「変に無駄に疲れた」

「誰のせいですか」


 予定より早く着いている為、多少ゆっくり向かっても問題ないだろう。

 ソリト達は再度十分程休息を取ることにした。

 その時ルティアが数メートル距離を取っていた。結構怖かったのだと理解したソリト。

 

 十分後、改めてお姫様抱っこしてプルトの街を目指すことになったソリト。ゆっくり行くという条件付きで。しかし歩くともう一日分の距離まで行く予定が崩れる事になる。


「ゆっくりといっても軽く走っていくからそれは理解してくれよ」


 たった今説明した…にもかかわらず本当に?と疑うように、じーっとルティアが目を細めてソリトを見る。


「ソリトさんの軽くが怪しいです」

「俺にも常識はあるわ!」

「その言葉信じますよ」


 その言葉は今の自分には難しい選択だ、とソリトは思いながらルティアの後ろに回り込んで横に抱き抱えて出発する。

 

「大丈夫か」

「はい」

「ならもう少し速くするぞ」

「大丈夫です」


 速度を調整して今日の目標地点を目指してルティアを抱えて走る。

 時間が過ぎていき空も夕暮れ時に変わり暗くなって来た。

 その途中気配感知に反応があった。

 十体以上の魔物が正面からソリト達の方に向かってきている。

 正確には先頭に人の気配が一つあり、それを追っているようだ。


「魔物に人が追われてるな」


 ソリトはルティアに視線を向けると、行くと既に目が語っていた。気配感知で偶然見つけてしまった事だが、やはりそこで、はいさようならというのは後味悪い感じがするのだ。

 ルティアに付き纏われ始めてからこうだ。ただ、この考えが出来ていなければ外道に堕ちていたかもしれない事はソリト自身理解しているつもりだ。

 でなければ、今こうしてルティアと協力関係を結ぼうなどとは思わなかっただろう。


「速度上げるが叫ぶなよ」

「はい!」


 直後、ソリトは地面を強く踏み込み物凄い速度で駆けていく。


 それから走って行くこと二分。正面からソリト達の方に必死に逃げてくる馬車が小さく見え始めてきた。

 逃げる馬車を襲っているのは、ヴォルフ型の魔物とワイバーンのような腕に鳥のような脚で鳥の尾羽とワイバーンの尻尾が合わさったような尾を持つ黒色の魔物だ。


「ベリアルバードですね」


 お姫様抱っこ中のルティアが冷静に呟いく声が聞こえた。

 ベリアルバードはワイバーンに似た姿形で、見た目狂暴そうだがワイバーン程強くはない。全部で六体、ヴォルフ型が六体の計十二体。しかし、それでは数が合わない。

 気配感知で感じる場所と合わせると、残りが馬車の中にあるのが判った。


 どうやら積み荷の中身は魔物らしい。

 魔物達は餌だとでも思って追っているのかもしれない。


「ソリトさん急いでください」


 ソリトは少しイラッとした表情をする。

 別に、急ぐのは構わないのだが、十数分前まで怖がっていた何処かの聖女様の要望に合わせてなるべく揺らすことのないようにして、速度を出しているというのに。


「そんなに早く助けたいか?」

「出来るなら」

「そうか。そんなお前に丁度良い役目がある」


 ソリトは左手をルティアの背中の下に移動させて再び外套と服を鷲掴みする。

 ソリトは前を向いていて表情は見えないが視線だけは感じる。

 そして、何かを察したのか恐る恐るルティアが尋ねてきた。


「あの、ソリトさん、役目とは?服を掴む必要あります?」

「なぁに、ちょっと注目を浴びてくるだけの俺からの優しいご依頼ですよ」

「えっ!?ちょっと嫌な予感しかしませんけど……あの、駄目です持ち上げたら!ああ振りかぶったらいけませんってぇ〜!」


 ルティアが焦りをあらわにしてジタバタもがく。

 だが、レベルと異常な程差があるステータスを持つソリトは簡単に持ち上げた。

 速度と走行する勢いを合わせて地面を抉りながら踏みしめて槍を投擲する要領で投げ飛ばす。


「よし、逝ってらっしゃいませ聖女様ー!」

「行ってのニュアンスが違う気がするのですがああぁぁぁ!」


『スキル【投擲術】獲得』


 この前に投擲したのだから獲得としても良かったのではとソリトは少し疑問に思うところがあるが、もしかしたら放り投げるだけでは駄目だったなのかもしれないと考えた。

 そして結果、最終的に獲得出来たので良しとすることにした。


 抗議の声らしきものを叫び上げながら、物凄い勢いで聖女は空を飛んでいく。

 きっと、馬車を操舵する人も驚いていることだろう。

 だがベリアルバードは格好の獲物が来たとルティアに目標を変えて向かっていく。

 その隙を逃さずソリトは魔法を唱える。格好の獲物が来て格好の良い的が生まれた。


「チェーン・アインス・フレイムボール!」


 ソリトの片手から大きな火の球が複数飛び出してベリアルバードに命中し、そのまま燃やした。

 ここでのチェーンは鎖ではなく連鎖を意味し複数形で扱われる。

 燃やされた三体のベリアルバードが悲痛の叫びを上げながら落ちていく。


『ベリアルバードを討伐により全能力が上昇します』


 飛行型の魔物ということで少々厄介な魔物だが、ここにいるのでは以降のステータス上昇は見込めないだろう。

 残りのベリアルバードを火魔法で断末魔を上げる暇すら与えず倒した。

 その後、聞き慣れてきた悲鳴が本体と共に降ってくる。


「あぁあああ〜!私の扱いが雑過ぎます〜!!」


 と言いつつもしっかり空中で体勢を安定させ落下速度を上げていき一体のヴォルフ型の魔物、〝ファングヴォルフ〟の頭部を貫通させて着地し、回避を行いながら他も倒しに行く。

 落下地点を定めた通りにしっかり魔物の元に落下したのを見届けながら、参戦しなくても問題無さそうだが、ファングヴォルフはまだなのでソリトもそちらに向かって残りのファングヴォルフを討伐した。


『ファングヴォルフを討伐により全能力が上昇します』



「うぅ……ソリトさんのアホ!鬼!人間不信野郎ー!」


 怒りながらぐすんと泣きつつ罵倒するルティア。

 ただ、最後のは罵倒ではなく事実を罵倒風に叫んでいるだけなのだが、ルティアは気付いているのだろうか。

 とりあえず面倒になりそうなのでソリトは無視する。


「お二方様失礼いたします」


 モノクルを付け、整髪された頭の上には女性用ではないかと思われる小さなシルクハット、紳士服を着た長身の男が御者台の方から現れ、ソリト達にお礼を言った。渋い外見と渋く良い声に、無駄に格好良いのにメチャクチャ胡散臭い何処かの公爵か紳士。そんな印象だ。

 当然、警戒するに決まっている。


「そんなに警戒なさらずとも私に対抗するような力はありませんよ。その前に助けて頂き誠にありがとうございます。私はただお礼をしたいだけです、ええ」

「なら、食料を分けてくれ」

「私は魔物商でして、今馬車には最低限の食料しかございません」


 魔物商か。中に魔物がいたのは知っていたため薄々予想していた。成り行きで助けた相手を探るために言ったが、どうやらソリトの予想した通りのようだ。

 そのままソリトは話を合わせる。


「ということは【魔物使い】か」

「その通りでございます」

「あの」


 ルティアが小さく手を上げる。


「どうした?」

「いえ、それなら食肉用の魔物とかいませんか?」

「食肉?」

「あれ?ソリトさん知りませんか?食肉用に魔物を育てる人もいるんですよ。私のいた教会の村にも牧場に食肉用の魔物を育てている方がいました」


 それは完全に初耳だったソリト。

 最近ギルドに肉を売っているから、注文や宿で料理をするときの魔物の肉はギルドで売られているものだと思っていたが、育てている事は知らなかった。


「それでどうですか?」

「馬車にいるのは何分質の良い高値の物でお譲りすることはできません。ですが提供ならできますお安くしますよ」


 もしかすると、馬代わりに使える魔物がいるかもしれない。ただ今は購入できるほど持ち合わせはない。


「気になられますかな?」


 魔物商はソリトに近寄ってきて聞いてきた。


「止まれ近寄るな」

「ははは、良いですね。そちらのお嬢様はともかくあなたは私好み目をしていらっしゃる。では見るだけでもどうですか?」

「見るだけだ」

「ソリトさん!?」

「怪しい動きをすれば、それなりの対処をする」

「それは怖い、ご遠慮したいものです……では、こちらへ」


 警戒したいるのに見に行くと聞いて驚く声をルティアが出す中、魔物商が馬車の方に半分体を向けてソリトを案内する。

――

聖女砲、発射!

という訳で、どうも翔丸です。


あのあと、メチャクチャ物凄いでルティアに攻撃されまくりました。

チクチク痛かったです。

「二回もしたのだから二度としません」と誓わされました(断言はしてません)。


ルティア「えい!」


痛い!痛いです。



えっと魔物商の声は……速水さんを考えていただけたらと思います。

藍染(あいぜん)的な感じで。

もしくはごちうさのタカヒロさんを。寧ろこっちを!


長くなりました。

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