第31話 一個の拾い卵

ストーリータイトルが特に思い付かなかったのでとりあえずです。

0時は眠いです。

――

 カーテンを避けて中に入ると、襲われていたようには思えない程、檻の中で魔物が寝息を立てている。

 馬車内は獣臭く、仄かに腐敗臭もする。

 環境が良くないのが明らかだ。

 加えて、妙な臭いが立ち込めている。寝ている原因はこれだろう。


「何ですかこの臭い?」

「催眠作用のあるお香を炊いておるのです。人には害はないのでご安心を」

「なるほど……」

「さて、お見せするとなると、こちらの魔物でしょうか」

「いや、その前に馬代わりになる魔物はいるか?」

「馬代わり……残念ながらこの馬車にはいません。後から来る馬車にならゴートホースがいるのですが」

「ゴートホース?」

「ソリトさん、プルトの方で馬車を引いていた大きな馬です」

「ああ」


(ただの馬じゃなかったのか)


 首と蹄近くの足が体毛で覆われていた普通の馬より少しばかり大きかったのをソリトは思い出した。


「ゴートホースは魔物使いが育てた魔物ですよ」

「へぇ……」

「魔物は卵から育てなければ懐く事がないので」


 魔物商の答えで思った疑問をソリトは口にする。


「ん?何処かの魔物を従えるんじゃないのか」

「それは【テイマー】のスキルですね。それにあのスキルは強制的に従わせるので保持者の方にしか従いません。それに対して【魔物使い】は魔物を育てるのに長けたスキルです。最終的には従わせますけど、【魔物使い】の場合は最初から懐いていて、他の人にも懐きますので従うが正しいですね。なので【テイマー】とは根本的に違います」


 ルティアが懇切丁寧に説明してくれた。


「じゃああれは?」


 ソリトが馬車の隅にある卵の入った箱に目を向ける。


「あれも私の商売道具で、最近卵も取引しております」

「そうか、ちなみに幾らだ」

「一個銀貨百枚でございます」

「意外と高いな」

 

 ソリトの持ち合わせは金貨を一枚崩しているので銀貨百枚ギリギリある。まだ村にリュックと共に残してきている為底をつく事はないが、かなりの大金だ


「何分高価な魔物もいますからね」

「なぁゴートホースだったか?それはお前の方だと幾らだ」

「成体の平均で……こちらは二百枚からです。最近皮を使った商品を製作するのに重宝されておりまして」

「成体?雛は安いのか。だとすると卵の値段だけなら得なのか?」

「いえ、あれの場合は全て同じ値段でございます。娯楽用ですので、適当に選んでいただいての購入となります」

「娯楽用ね、なるほど。で、あの中には大した魔物の卵はないと」

「それは心外!まさか非道な商売をしているとおおもいですか!?」

「違うのか?」

「これでも私、商売にはプライドを賭けております。虚言でお客様を誘導してたりで騙す事はしますが、売るものを詐称するのは許せない質でございます」

「許せない質って……」


 見た目通り奇妙な男の理屈はよく分からない、とソリトは半分呆れ、半分諦めた。

 商売人としての魔物商のプライドを信じるのなら、望む魔物も望まない魔物も選ぶ人の運次第。

 高価といっていたので、当たりは購入額よりも高め、外れは御愁傷様という事だ。


「じゃあ、当たりはな……ん、だ?」


 突然視界が霞み出す。

 体の力が抜けていき、上手く力が入らなくなっていく。

 その時、魔物商が背後からナイフで襲撃してきた。

 後ろに振り返り、紅姫の籠手を前に出しソリトはナイフを防いだ。

 しかし、力が入らず押し負ける。

 ソリトは眠りかけているルティアを抱き寄せ、押し負けた勢いに逆らわずに距離を取った。


「変ですね。効果はしっかり出ているはず」

「効、果、だと」

「ええ、魔物用の催眠作用のあるお香に無香料の人間にも作用するお香を焚いていたんですよ」

「なら、殺気を上手く隠せ」


 本当は眠気で頭が冴えず殺気は感じ取れていない。

 だが、決闘の件から【危機察知】と【気配感知】を常に張っていた。

 そのお陰で【危機察知】が反応し、直ぐに対応出来たのだ。


「なるほど。それでいつから怪しいと」

「最初からに決まってるだろ」


 服装からして怪しいのだから疑うのは当然だ。


「護衛は……捨てたってところか」

「ええ。最近、山向こうの街の方で魔物の群れに襲われたそうで、そちらの方向に向かっている途中に遭遇してしまいまして。おそらく……その生き残りかと」


 それはない、とソリトは否定したかったが、プルト街とカールトン村での一件もあり否定できなかった。

 話が本当ならば、他の場所でも似たような事が起き、そちらにはべリアルバードが現れたと考えるべきだろう。

 そして、その生き残りのベリアルバード達に運悪く居合わせたという事だろう。


「それにしても何故付いてきたのですか?」


 単純に魔物商というのに興味を惹いただけ。

 警戒はしていたので、お香の煙を吸わないようにソリトはしていたが、完全には防ぎきれなかった。

 逆に魔物商の方はお香の効果の対策を取っている様で、平然と立ってソリトの抱えている聖女を観ている。


「狙いは……ぅ、こいつだな」

「ええ、かなりの上玉ですからな。奴隷として売ればかなりの値が付くでしょう。処女なら更にいきますかね」

「……魔物商は、表の仕事か」

「ご名答。できればお渡しいただけませんか?」

「美味しい商談……だが、手放すのは無理だな」


 協力関係などしていなければ、人間不信のソリトは話に乗っていたかもしれない。それでも無い、とソリトは思った

 信じていないとはいえ、一応、唯一自分を信じてくれている女の子。

 そんな理由だが、協力関係と合わせれば助けるのにはそれで十分だとソリト思った。


「そうですか……非常に残念です。私共のような方かと見ていたのですが、違ったようですね」


 魔物商はニヤリと笑って言った。

 言葉の意味は分からない。

 今は意識を保つことにソリトは集中する。


「ソリト、さん…わたし…」

「黙って……意識を保て……」

「……でも……」

「いやいや、残念ですが逃がしませんよ」


 魔物商が強制的に魔物を覚醒させた。

 檻の扉に魔物達が触れた。その瞬間、檻が簡単に外れた。

 予想外の事にソリトは目を見開く。


 だが、すぐに次の展開を考える。

 脱出口は入ってきた御者台の方からのみ、あとは全て魔物の檻。

 状態は立っているのが精一杯。ソリトの意識も限界に近付いてきている。

 退路は絶たれたに近い。


 いつ襲われても可笑しくない。一縷の望みに賭ける物があるのが、それを待っていられる時間はなかった。


「行きなさい!」


 魔物が檻から飛び出した。


『スキル【催眠耐性】獲得』


 ソリトはルティアにだけ聞こえる声で囁いた。


「借りるぞ」


 同時に彼女の左腰にある細剣を抜き、そのまま魔物達を斬り払った。途中一体だけ硬質な魔物がおり、鉄槌割りを叩き込んだ。


「ギリギリだったな」


『ハウリングベアーを討伐により全能力が上昇します』

『鎧亀を討伐により全能力が上昇します』

『シルバーバックを討伐により全能力が上昇します』

『パープルキャットを討伐により全能力が上昇します』

『ゴートホースを討伐により全能力が上昇します』


「ん?」


 前を見るとゴートホースが倒れていた。

 やってしまったものは仕方ない。

 馬車もバラバラに壊れており、魔物商は腰を抜かして座り込んで、その光景に唖然としている。

 細剣を喉元に突き付けると、呆けていた意識が戻ったらしく、ソリトの顔を見上げる。


「まさかこれほどとは素晴らしい」

「それはどうも。さて、俺は言ったなそれなりの対処はすると」

「ええ、予想以上の実力で心を改めさせられました」

「まるで俺を試すような言い方だな」


 反転の事は無いにしても、ソリトの正体は分かっていると考えて良いかもしれない。


「実際そうでした。逆らうと少々こわ…厄介なお方でして。ですが、貴方はそれに相応しい物を見せてくださいました。ちなみにここで会ったのは偶然と弁明させていただきます」


 絶対に怖いと言い掛けたり、気になる言葉が幾つかあったが、関わると面倒事に突っ込む事になるだろう。

 冤罪の罪も消えたわけではなく、今もその中心にいる。

 ソリトは気に掛かる事を頭の隅に置き、こっちから踏み込まない選択をする。


「一応実害は無かった。だから見逃してやっても良い。が、代わりにゴートホースを貰い……たかったんだが…」


 不覚にも自分の手で倒してしまったのゴートホースに視線を向ける。自業自得とはいえ、足が手に入ることが無くなった事に少しショックなソリト。

 他に何を要求するべきかソリトは悩む。


「………魔物商、お前も流石に命は欲しいよな。でないと商売が出来ないからな」

「おっしゃる通りです」

「じゃあ、金と騎竜の卵を貰おうか。金はどうせ何処かに隠してあるんだろ。ああ、下手な真似をしたら次は本当に命を貰うからな」

「命を金で買わせる。おお、良いですな、その姿勢に私感激!」」


 魔物商はこれでもかとご満悦な笑みを浮かべる。

 それを見て、なんだこいつ、と思わずソリトは引き気味になる。


「っと、失礼。金銭と騎竜の卵ですな。ですが、卵は……」


 卵のある方を見ると潰れていた。物の見事に。

 やり過ぎにソリトは苦笑いする。

 だが、そうでもなかった。

 剣を突き付けながら、魔物商にも同行してもらい卵の方に寄ると、一個だけ卵が無事に残っていた。


「まあこれで良いか」

「よろしいので?騎竜ではないかもしれませんよ」

「騎竜でなくても育てて売れば良いだけだろうが」


 これで騎竜が生まれて売るかどうかソリトにも分からない。

 魔物と会話できる訳でもない。愛着は湧くのかもしれない。

 懐いてもほんの少し心が痛む程度で済む。

 金が必要な時に手に入るなら別に構わない。


「奴隷商もやってるなら魔物の斡旋だってやってるだろ」

「おお、やはり私の目は間違っていませんでした。これなら最後まで商談に持ち込んで見ておくべきでしたかな、ははは!」

「その時は金を搾り取るつもりだったんだろ?」

「……よくお分かりで」


 言い辛そうに返答するわりには余りそんなに悔しい感じがしない。寧ろ恍惚な表情に見える。


「それでは、そちらの卵に記されている魔物紋に血を分けてください。それでその卵はあなた様の所有物となります」


 言われるまま、ソリトは歯で指の腹を噛み切り、卵に塗られている紋様に血を塗る。

 その瞬間、紋様がポワッと淡く血色に輝いた。


 ソリトはタグで確認する。パーティメンバーの項目を見ると使役の文字が現れていた。

 ステータスに影響が出ると懸念していたソリトだったが、使役する魔物はパーティメンバーとは認識されなかったらしく低下していない。

 まだ卵だからという可能性もある。杞憂と考えるのは早計だろうと気を引き締める。


 他にも使役の魔物にたいして禁止の条件を設定できるようで、色々と載っている。

 とりあえず、主の命令に反抗、指示の無視、襲撃に対して罰が下るようにソリトは設定した。

 言葉を理解できるか分からない為、厳しい設定しておいた方がいいと考えての事だ。


「少しよろしいですか?」

「下手な事はするなよ」

「承知しております」


 何処かご機嫌な魔物商。

 ソリトは目の前の男に被虐願望があるように思えてきた。

 無論、ソリトにはそんな趣味はないし、持つ予定もない。


 魔物商は一度離れて何かを持ってきた。

 卵が一個丁度入りそうな容器。それは孵化を補助する為の孵化器らしい。

 ソリトは卵を孵化器に入れた。その後、金貨三十枚と銀貨三千枚の入った袋を受け取った。

 全額を貰うつもりだったが、かさ張ると留めた。


「孵化しなかったら探してでも口約束だろうと来るから、違約金の請求と拳一発は覚悟しとけよ」

「粗悪品を掴まされてもタダでは済まさない姿勢に感激いたしますね!」


 掴み所が無い奇妙な魔物商だ。


「じゃあ、あとは自力でどうにかしろよ」

「はい、今度はいざこざのないただの商人とお客様としてお会いを願います」

「お前次第だ。買うつもりはないが」

「いえ、いずれあなたは奴隷をお買いになる。奴隷は主人を裏切れない、嘘をつけない存在。逆らえば死ぬ、ということもあります。それはその魔物紋を確認してご理解しているかと」


 確かに、と納得せざるを得ない。人を利用して最後に陥れたり、裏切ったりという考えをしない人材はソリトにはピッタリの物だ。

 だが、結局はそこ止まり。

 反転したことについてはソリト以外誰も知らない。だから、仲間がいなければ攻撃力が劣るソリトには奴隷が必要だと考えているのだろう。


「もう一度言っておくが、次もしも騙したら」

「心得ております、はい」


 理由はどうであれ、シルクハットの男も商人。

 次に会った際はソリトも警戒して会う事にするが、本当に理解しているなら下手な事はして来ないだろう。


 荷物が増えてしまったので、金の入った袋をベルトの間に挟み、卵の入った孵化器は右手で抱え、ルティアは肩に乗せて担いで行く事にした。

 そのルティアはいつの間にか寝てしまっていた。

 街に戻るのに都合が良いのでソリトはそのままにして、魔物商と別れ、再びプルトの街に向かった。





――

どうも翔丸です。


本文に書かなかったのでこちらでスキルを紹介しますね。


【催眠耐性】

催眠系の効果の類いのものに体する耐性を常時付与(一段階アップ状態)

スキル効果により【耐性】から【無効】に変化。


ジカイシンキャラトウジョウダトオモイマスー。


フォロー、コメント、評価しても良いよという方よろしくお願いいたします。


―――

また盾勇似って言われてしまいました……。

アネコさんに申し訳ない。はぁ

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る