第29話 協力関係

※前話の感想の一つである作品と似ていると言われて編集しようと思いましたが頭の中で完成してしまっていてちょっと修正する程度しかできませんでした。














 城門付近でソリトは眠りについた。日を跨いでいたので寝たといっても少しだけだった。

 しかし、ソリトはとても気持ちの良い朝を迎えたような気がしている。

 きっと、一人ならもっと気持ちが良かったかもしれないとも思った。

 立ち上がり筋肉の筋をぐっと伸ばしながら、その理由の隣で寝ている少女に視線を向ける。


「………無視を……無視をしないでください〜……」


 修練場から引き離して一人で寝ていたはずなのだが、起きたらいつの間にかルティアが隣で寝ていた。

 諦め悪く張り付いて来ていたのだろう。

 それと寝言がとても気になるソリト。一体どんな夢を見ているのだろうか。

 とりあえず、うなされているっぽいので起こすことにした。

 何と優しい事か………なんて事はなく、ちょっとだけ引き離しきれていなかったのが悔しかったのである。ソリトはおでこに曲げた人差し指を親指で固定した状態で近づけてピシッと弾いた。


「いたぁい!」


 起きると直ぐにルティアは痛むおでこを手で押さえる。


「起きたか?」

「起きたか?じゃありません!優しく、優しく起こしてください」

「けど悪夢から弾き出されたろ?」

「それをソリトさんが言いますか」

「ん?」


 意味が分からずソリトが首を傾げると「どうせ夢です」と言ってルティアの中で何か決着が着いたようだ。


「あ」


 ルティアが何か思い出したように目を見開く。


「おはようございます、ソリトさん」

「………おはよう」


 挨拶を返した瞬間、ホッと安堵した息を吐かれた。

 無視されるとでも思ったのだろう。

 実際ソリトはするつもりだったが、一般常識くらいはこの聖女に返してもいいだろうと思って挨拶を返した。

 ただそれだけ。なので、


「そしてさようなら」


 丁度、城門も開いたのでそちらに向かうことにする。

 門兵と顔を合わせた瞬間、顔をしかめてきたが気にすることなくタグを見せ銀貨一枚を支払ってソリトは王都の中に入った。


 後から付いて来るルティアにはそんな素振りもなく普通の対応で通した。

 城門から少し離れた時、殺気立つがチラッとソリトが視線を向けた瞬間にルティアから出る殺気は縮こまるように引っ込み、満面の笑顔でソリトを見ながら後ろを付いてくる。


 その顔を見てソリトは小さく笑みを浮かべた。

 あの顔を見た後なら普通は怖いと思って苦笑を浮かべてしまうのかもしれないが、ソリトの場合は風で軽く前髪がなびいた時に見えた、おでこの一部が赤くなっているのを暫く伏せておこうと心のなかで決意してのことだった。




 王都に戻った目的は朝食だ。プルトの街に戻るにしても動けなければ意味がない。

 飲食店を見つけ中に入ると、王都に戻ってきた事がもう広まっているらしく歓迎はされていない。

 それでも仕事として席に案内された。

 ルティアが入ると、客が目の色を変え、店員は仕事の手を止めて店内にいるソリト以外の全員が釘つけになる。


 確かにルティアは美少女の類いだ。芸術に例えても名作に選ばれても良いレベルだとソリトも思う。

 そしてやはりと言うべきか、卑しい目を向ける者が数人いる。どうせ食っても不味いのは同じだがあるとないとでは違う。

 ルティアには既にバレていたようなので、遠慮なく殺気を放つ。


 直後、聞き取れるか微妙の声量でルティアが「ありがとうございます」と言うのが聞こえたが無視して注文をする。


「一番安い定食を」

「すいません、私もあそこの人と同じ物を」


 声を掛けられた店員がソリトを見ながら頼んだルティアの注文を取って離れた。


「ソリトさんお話があるので隣、良いですか?」

「拒否する」

「では、失礼します」


 拒否権は何処に行ってしまったのだろうか。

 ただ、『そちらに行きます』という宣言と聞いたかの確認という意味だったのだろう。


「ソリトさん、中央都市に行きませんか?」


 中央都市。クレセント王国、アポリア王国、ステラミラ皇国、アルマ帝国の四ヵ国の何処にも属さない都市の総称。


「良いぞ」

「え?」

「なんだ?」

「だって、無視されるか『何言ってんのお前?』とか言われるのかと」


 可能性があり得過ぎ何も言い返せないソリト。


 しかし、ソリトも考え無しに賛同した訳ではない。

 ソリトも国を出ようとは思っていた。

【孤高の勇者】で自身を高めていくのであれば、ここクレセント王国を離れてみるのも一つだからだ。

 戦うかどうかは捨て置き、魔王もまだ目覚めの兆しがあるだけで覚醒した訳じゃない。

 今のところは自分のスキルについて理解を深めていきたい所だ。何せスキルは魔法や武技と違い儀式によって貰い受けるために取得条件が一切分からない。

 それに自分と同じ反転者がもしかしたらいるかもしれない。

 

「何で中央都市なんだ?」

「ソリトさんの冤罪を晴らす為です。中央都市は無所属都市ですが、各国の商人が集まりますから多くの情報が入ってきます」

「残念だが、証拠なんてないからな」


 そう返すとルティアは首を振って否定する。


「ソリトさんお忘れですか?彼女、【天秤の聖女】を」


 ルティア以外の聖女の存在をすっかり忘れていた。


「彼女であれば偽装工作をしようと覆す事が出来ます。ただ…」

「お前と同じで各地を回って居場所が分からないか」


 言葉の続きをソリトが答えるとコクンとルティアは頷いた。

 しかし、それでも見つけるのは困難だろう。

 ルティアでさえ普段は自身の服装を今も外套で覆い隠している。流石に顔を隠すのは逆に怪しまれるだろうから、その【天秤聖女】も同様に服装を隠している可能性がある。


「顔とか分からん」

「そこは私が知ってますので安心してください」

「じゃあ一人で探す」

「まだ、信用出来ませんか?」


 じっと強い意志の籠った瞳、口は安心してくださいと言うように柔らかな笑みでルティアはソリトを見て返事を待っている。


「勝手にしろ」

「今はそのお許しはいりません」


 別にソリトは許したわけではないのだが。

 照れ隠しか何かと勘違いしたいるのか、ルティアは今までそう思っていたらしい。

 そして、今回はそれを振る程に頑固。


「では、奴隷なら信じられますか?」

「………まぁ他よりは」

「分かりました。では、奴隷商を探して奴隷にして貰いに行きしょう」

「待て待て!」


 席を立って店を出ようとするルティアを見て本気だと思ったソリトは信用していないといっても流石にそれは看過できずに手首を掴んで止めた。


「ソリトさん、私は言ったはずです。信用してもらえるなら奴隷にでもなると」


 ソリトが今掴んでいるルティアの手首を離せば、間違いなくルティアは奴隷商を探して奴隷に自らなりに行くだろう。

 そして、行かなければルティアの容姿なら間違いなく買うものが現れる。


「一人だと探すのに時間が掛かりすぎる」

「それって」

「あくまで協力関係だ。馴れ合うつもりはないからな」

「……………分かりました」

「その間はなんだよ」

「私としては親しくなっていきたいので」

「俺と親しくしても良いことなんてないからな」

「そうですか?私はとても楽しいですよ」


 どこが?と返したくなるが、気恥ずかしそうにルティアが目を細めて微笑む顔を見ると、どうでも良くなったソリト。

 信用してみても良いのかもしれない。だが、逆に信用してはいけないという自分が大きく存在して葛藤する。

 だからソリトは、今はこの協力関係を信用することにする。


「ソリトさん」

「なんだ?」

「頑張っていきましょう」

「一人で頑張れ」

「ええ」


 今はこれで丁度良いのかもしれない。

 ソリトはそう思った。


「聖女」

「はい、なんです?」


 奴隷になるという覚悟に対してというのは些かどうなのかとも思うが、ソリトは隣に座ったルティアの頭を軽く撫でる。


「まあ、一応ありがとう」

「…………………」

「何か言え。それとも撫でられるのは嫌いだったか」

「ぜんぜんぜんぜんそんなことは」

「まあ安心しろ。この一回きりだからな。次はない」

「あの、何で私、こんなにショック受けてるんでしょう」

「知るか!」


 不思議と心が軽い。この時、一瞬だけソリトはそんな気がした。

 ルティアはルティアで何故ショックを受けているのか自問自答していた。



――

どうも翔丸です。


この始まり方でないと、しっくり来なくなりました。もう翔丸にとってのお決まり文句です。


レビューを貰ったんですけどね。

嬉しいんですけど、一つだけ、レビューなの?不評?批評?コメントでもよくないというのがありましたね。


感想欄は私が明日起きて開くまでだと短いようなので明日就寝するまで開けておきます。

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