第6話暗殺勇者
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「これだけか」
ワイバーンの素材を取りに行くにあたり、ソリトはギルドで地図を貰い、薬屋で治療薬一本、魔力薬水三本。
金銭の問題で、万全とは言い難いが、最低限の準備を整えたソリトは街を出て、山へ向かった。
しばらくして、山に到着したソリトは山道へ入り、急ぎ気味に走り登る。理由は、ワイバーンの死骸が他の魔物に喰われている可能性がある為だ。
途中、冒険者が素材を取って街に向かっているのを見かければ教えて済む話になる。
しかし、そうでない場合、回収した経緯をどう説明すればいいか少々困る事になるのだ。
まさか、反転した時に初めて殺した相手にここまで振り回されるとは思いもよらなかったソリト。
「……あ、そうだった」
スキルを獲得出来る事にまだ慣れていない為に、ソリトは【暗殺者】の存在を忘れていた。
ソリトは【暗殺者】の効果の一つ、【気配感知】を発動する。
スキルアップで範囲が拡大しており、範囲は三十メートル。
反応は無い。
今のところ近くに魔物はいないようだ。
念を入れて、ワイバーン達の所に向かう為、ソリトは【気配隠蔽】を同時に発動した。
その時、突然気配が一つ消えた。
ソリトを中心に発動している【気配感知】から、その中心の気配が消えたのだ。
要は、気配の隠蔽に成功した訳だ。
それから誰にも遭遇することなく、頂上に辿り着いた。
ここからは、山道ではなく山の森林の中となる。
気を引き締るものの、順調なのがソリトは少し気掛かりになっていた。
なので、油断なく、素早く対処出来る様に周囲を警戒しながらワイバーンの死体探索を開始する。
「何処に行けばワイバーン達の死体がある」
地図を広げ、森林を把握する。
今森林の中は宝を隠すための迷路のようだ。
一応ここに来るまでに昨日の事を思い返してある程度範囲をソリトは絞っている。
あの時は山道に出れず森林の中を探索し回っていた。
今日街に行くまで下山していたのは南側で、朝登山を再開する前には頂上が見えていた。これで半分は越えていた事が判る。
山道が見えなかった事から山道とは距離が離れていた。
ソリトは記憶を辿りながら南側の範囲を○印で囲んだ。
まずはその範囲を目標に、山道を右に逸れて森林の中へ入った。
森林の中の木々を回避しながら、衝突することなく凄まじい速度で駆けていく。
そうして、数分も経たずに目印の範囲内に入った。
範囲内を探していると、【気配感知】に反応があった。
山道を真正面にして範囲内南側ギリギリに五つの気配が一ヶ所に集まっていた。
同じ気配が二つと異なる気配が三つ。
ワイバーン達の死体はそこにあるはず、とソリトは予想する。おそらく、そこでワイバーン達の肉を巡って争っているだろう。
死体が無くなる前にソリトは気配の集まる方へ駆ける。
五メートル付近まで近づいた所でソリトは木の上に登り、木から木へ飛び移りながら近付いていく。
なるべく軋む音がならないように、木に移った瞬間に次の木に移るため足に意識を向けて進んでいった。
目的地の目の前に到着した途端、ソリトは地面に視線を落とす。
すると、予想通り魔物達がワイバーン肉を巡って争っていた。
お陰でワイバーン達の死体はまだ無事に残っている。
早速素材を回収、と行きたいが【気配隠蔽】があっても、ワイバーン達を解体していれば、流石に気付かれるだろう。
丁度状況にあったスキルがある。
ソリトはスキル【暗殺者】を駆使し、勇者ではなく暗殺者として立ち回る事にした。
「………」
聖剣を静かに抜く。
最初の標的は近くにいるブルタルボアと狼の魔物に決定した。
狙いを定め、上に乗っていた枝を蹴り、標的に迫る。
そして、背後を取ったソリトは狼の魔物の首を後ろから切断した。
『ブラックウルフを討伐により全能力が上昇します』
『スキル【伝令】獲得』
「一体目」
気づかれる前に、その場から即離脱し、次の標的であるブルタルボアの背後へと一瞬で回り、頭部を叩斬った。
「上がらないか。まあいい。二体目」
ブルタルボアの体を足場に木の上に離脱して、残り三体の魔物の近くへ回る。
残り三体は昨日出逢った双頭赤犬が二体、背中の一部が白い毛皮の三本爪の傷痕模様になっている黒熊の魔物。
その三体が異変に気付き、別で争っていた二体の方に視線を向けた。
隙を見せた瞬間、ニヤリとソリトの口角が上がった。
気を引き締め直し、ソリトは双頭赤犬の一体目の胴体の上まで飛ぶ。
昨日とは違い、今度は首を突き刺すのではなく、先程の二体と同じく切断した。
『双頭赤犬を討伐により全能力が上昇します』
ドサッと首の落ちる音で隣にいた双頭赤犬が殺された同族に視線を向け、二体目の双頭赤犬と対立している熊の魔物は敵を警戒して辺りを見回す。
しかし、ソリトは直ぐ近くにいた。
【気配隠蔽】で気配を周囲の気配、自然の気配や黒熊達の気配で覆い隠されていて、気付き難いだけ。
その隙に、殺した双頭赤犬を足場に、一回転しながら、もう一体の双頭赤犬の首を斬った。
『双頭赤犬を討伐により全能力が上昇します』
この山の中ではかなり強い方なのか二体揃って能力が上昇した。
「グオオ!」
「っ!?」
首を斬った瞬間、熊の魔物がようやくソリトの存在に気付き、豪腕な腕を振り下ろし、鋭い爪を凶器として攻撃をしてきた。
しかし、爪はソリトではなく双頭赤犬を抉った。
その時、ソリトは後方に回避していた。
「暗殺者は終わりだな……こい!」
「グオオオオオ!」
新たな敵と認識したか、黒熊の魔物は咆哮を上げながら、物凄い速度で突進してきた。迫り来る迫力もまた途轍もなく凄まじい。
迫り来る黒熊に、ソリトも正面から飛び込む。
黒熊は突進力を生かして、鋭い爪で斬掛かる。
ソリトは股の間をスライドして潜り抜ける。
左手でブレーキを掛け、そのまま支えにし、右手に握る聖剣を黒熊の脚目掛けて振るう。
「グオォ!?」
黒熊の魔物は咄嗟に上に跳んで回避し、ソリトの方へ方向転換した。
視認をしてもいないのに、回避行動が剣撃よりも僅かに早かった。ソリトの殺気に反応したのかもしれない。
「チッ」
無意識に油断していた自分にソリトは舌打ちする。
「巨体に似合わない反応速度を見せてくれる」
黒熊が再びソリトへ突進してきた。
しかし、先程より相手の速度が確実に落ちている。
右片足部分に剣の生傷をソリトは発見した。完全に回避しきれていなかったことをソリトは理解した。
黒熊の魔物が再び突進力を加えた腕を振るい、爪で斬り掛かってきた。
今度は間合いが離れていた。
「っ!?」
接近しようとした直後、【危機察知】が発動した。間に合わないと思い、回避を諦め、聖剣を前に出して防御に移行した。
刹那、風が吹き荒れると共に、聖剣に衝撃と鈍い金属音が響いた。
「……っ」
黒熊の魔物はスキルか魔法かで爪の斬撃を飛ばす事が、出来るらしい。
【危機察知】が働かなければ、今頃体は抉られていた事だろう。
ソリトは息を整えると、聖剣を向けたまま魔法を唱える。
「光の精霊よ、我が声を聞き届け道を照らせ〝アインス・ライト〟!」
唱えると同時にソリトと黒熊の魔物の周囲が強烈な光に晒された。
本来は道を照らす程度の小さな光程度の初級魔法だが、魔法もスキルによって一段階向上していることで、それは眩く照らす光になっていた。
この初級光魔法は【調和の勇者】の時にやっとの事で唯一習得出来た魔法だった。
だが、魔力が微量だった事で、使える値には至らなかったので、無駄骨に終わった。
まさか、ここで役立つ事はソリトも予想していなかった。何故なら咄嗟に思い出しただけの事だからだ。
突然で黒熊は閃光を諸に受けて、一時的に視力を奪われた筈だ。証拠に、両腕を辺り構わず振り回して暴れだす。パニックに陥っているようだ。
そして、その隙を逃すソリトではない。危険を承知で黒熊の懐へと飛び込み、股関節の片方の肉を斬った。
黒熊が体勢を崩して膝をつく。
留めをさそうと聖剣を振る。その瞬間、黒熊の腕が襲い掛かってきた。
聖剣で防いだものの、吹き飛ばされる。
そこに更に追い討ちをかけるように腕が襲い掛かる。
ソリトはそれを跳躍して回避し、腕を足場に膝蹴りを黒熊の魔物の鼻に喰らわした。
痛みで咄嗟に黒熊の魔物は鼻を両手で抑える。
着地した瞬間、黒熊に地を蹴った勢いを使い、腹へと追撃の一撃を入れる。
「グオォア!!」
横に崩れながら仰け反る黒熊。
ソリトはその頭上に跳躍して、頭から殴り落とした。
空に背を向けた黒熊の上に乗り、右手を手刀の形にする。
「
そう言って、ソリトは手刀を黒熊の頭に突き刺し、頭蓋を貫通させる。
そのまま脳を取り出すように握った瞬間、グヂュッ、と嫌な音を鳴らして頭から引き抜いた。
『Lvアップ。Lv51になりました』
『爪撃黒熊を討伐により全能力が上昇します』
『スキル【初級光魔法師】獲得』
『スキル【剣士】獲得』
『スキル【剣豪】獲得』
『スキル【拳士】獲得』
強かった事もあり、経験値が多く入り、ソリトのレベルが上昇した。
【剣士】、【剣豪】のスキルを何故獲得出来たのか。未だにスキルの獲得条件が分からない部分が多い。
ただ、【初級光魔法師】は初級光魔法〝アインス・ライト〟の行使、【拳士】は最後の拳での打撃のお陰だろうかと考える。
それでもまだまだ不確定な事ばかりで憶測に過ぎない域だ。
「はぁ〜終わった。さてと、ワイバーン達を解体するか。ついでにコイツらも」
その前に、ソリトは回復魔法を自身に掛けて小さな傷を癒した。
一段階向上しているため回復力は中級魔法相当。
少々もったいない。だが、使えるのがこれだけなのだから仕方ない、と思う反面、魔力消費は初級のまま。これは得とソリトは思った。
それから、ワイバーンは勿論、他の魔物達も解体し、素材を回収していった。
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