第5話 依頼書は契約書と同じ
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少しして薬屋を見つけた。
ソリトは薬草の買取をしてもらう為に、店の中へ入った。
「……ほぉ、中々に質の良い薬草ですね。これを一体何処で?」
「少し行った山の中だ」
「ふむ、質の悪いものばかりと思っていましたが……」
摘み取った物はスキルで品質が一段上がっているとはいえ粗悪な物は無かった。
「買取相手が悪かったな」
「はは、そうなりますな」
などと、軽く雑談を挟みながら買取を終えた。
薬屋での買取額は銀貨二枚と質の良さで銅貨二十枚が追加された。
魔物の素材の買取の為にギルドを目指す。
既に建物の目星はついていた。街の中心街、中央付近左側に馴染む石造り、他よりも一回り大きい建物。
そこそこ大きい街の中でのアピール力がヒシヒシと伝わってくる。
商会という可能性もあるし、違っていたらまた探せば良いだけのこと。
という訳で、ソリトは大きな建物を目指して歩いた。
数分後、目的地に辿り着いた。
中に入ると、右側は依頼を貼り出しているボードを凝視して探している冒険者が、左側は休憩所を兼ねた場所があり、満席に近い状態の中、飲み食いをしている冒険者がいる。
正面の受付へと向かうと、そこにいる受付嬢がソリトを迎えてくれた。
「ようこそギルドプルト支店へ。初めての方ですね。ご依頼ですか?」
「買取だ。冒険者でなくともできるか?」
「大丈夫ですよ。買取でしたら左の受付の方で行っております」
「分かった」
受付嬢の案内でソリトは左の受付カウンターに移動した。
そして、今度はスカイブルーの髪色の受付嬢に話しかける。
「買取を頼む」
「買取ですね。では買取物のご提示をお願いいたします」
ソリトは旅袋からブルタルボアの毛皮と牙、ホーンウササンの毛皮と角、サイレントビーの針をカウンターに置いていった。
「こちらで全てでよろしいですか?」
「ああ」
「それでは査定をして参りますので少々お待ちください」
スカイブルーヘアーの買取担当の受付嬢は離れていった。
査定が終わるまでの合間が暇になった。
時間を潰すために、ソリトは気になっていた依頼ボードの方へと向かった。
冒険者といえば依頼をこなして生活する者達だ。その筈なのだが、依頼ボードを見る者は少ない。
受注して既に依頼に向かっている者もいるかもしれないが、それにしては依頼ボードの依頼書が多く残っている事と、反対側で飲み食いをしている事が疑問として残る。
しかし、依頼ボードを見た瞬間、その疑問はすぐに解消された。
他の依頼書より少し大きめに貼り出している一枚の依頼書があった。
複数体のワイバーンの出現。数は現在確認されている時点で三体。内容は討伐と書かれていた。
「それって」
ソリトは昨日敵対してきたワイバーン三体の事を思い出した。
あの三体がそうでなら、偶然にも解決してしまった。
しかし、生憎と素材がないので、その証明はできない。
「まあ、教える義理はないか」
だが、証明が出来れば素材とともに報酬金貨二枚が手に入ったと思うとやはり惜しいことした、と思うソリト。
軽く一通り見た所で、ソリトは一度買取受付に戻ってみることにした。
「お待たせしました。買取が終了いたしました」
見計らっていたかのようにタイミング良く買取担当受付嬢が戻ってきた。
買取金額は状態が良いと言うことで、ソリトが受け取った額は銀貨四枚と銅貨六十枚。
薬屋と合わせて銀貨六枚と銅貨八十枚。
一日だけで考えれば、かなり稼いだ方だ。
「一つ、教えておきたいことがある」
「はい、何でしょう?」
「あの依頼書のワイバーンだが、おそらくもういないぞ」
「は?え?それは……」
「通り掛かった時に三体とも首を一撃で飛ばされたような姿で山の中に倒れていた」
「本当ですか!」
「嘘だと思うなら依頼内容を変更して冒険者を行かせてくれ。生憎と証明できる素材がないんでな」
買取に少し色をつけて貰った義理は果たした。あとはそちらで勝手にしてくれと言うように、ソリトはギルドを後にしようとした。
「あの!よろしければ、ワイバーンの回収をお願いできませんか?」
「悪いが、俺は冒険者じゃない」
「え、そうなんですか…てっきり」
「ま、今頃誰かが回収してるか魔物の餌になってるだろ」
「それでしたら、その確認だけでもお願いできませんか?」
突然の申し出に目を疑った。
今しがた、ソリトは〝冒険者ではない〟と告げたばかりだ。
だというのに、受付嬢は確認をしてほしいという申し出を何故かソリトにしてきた。
理由があるのだろう。
それも何となくソリトは予想がついた。
ワイバーン討伐の依頼書。これが貼り出されているということは誰も受注していない。
いや、受注したが失敗したという事もあり得るが、今は捨て置く。
このプルトの街はクレセント王国の王都と魔族領の間をソリトが越えてきた山を挟んだ位置にある街だ。
その為、冒険者達のレベルで置き換えれば、四十近くのそこそこ強い魔物が多い。
つまり、このプルトの街にいる冒険者に初心者はいない。
それでも誰も討伐にいかないのは住み着いたワイバーンがレベル五十以上の魔物だからと考えていいだろう。
しかし、そのワイバーンが討伐されたという情報、証言が出たなら、その証明となる素材を提示してもらいたいのは当然だ。
それが証明されない限りは誰も山の討伐依頼を行うことは出来ず、安易に討伐されたと報告することが出来ない。
それなら確認依頼を出せば良いが、ギルドの様子を考えた時、それを受ける人間が現れるのは難しい。
だから、その山を越えてきたソリトに頼むしかないといっただろう。
「引き受けても良いが、あの倍の報酬を出すならの話だ」
「あ、え」
冒険者でない者に依頼をする。
確認に行ったところで、他にもワイバーンがおり命を落とすかもしれない場合の補償をしてもらわなければ割に合わないだろう。
ソリトに関しては別に問題はない。
だが、他者に頼む場合を考えれば当然の要求だ。
「しょ、少々お待ちください」
受付嬢は確認を取りに何処かへ行ってしまった。
その五分後、受付嬢が戻ってきた。
「ギルマスが倍を出すとの事です」
どうやら、ギルドマスターに話をつけに行っていたらしい。
「そうか。それを証明するものは?」
「え?」
「え?じゃなくて。依頼書みたいな受注書を作成してくれ」
「あ、そうですよね」
再び買取受付嬢は席を離れて依頼書の作成を頼みに行った。
ギルドでの依頼書とは契約書と同じ。
帰って来た時、依頼書がないから、言った覚えがないからなんて事を言われれば口約束など子どもでない限りそれで終わりだ。
しかし、これはギルドの信用にも関わること。それはないと考えてはいるが、万が一の事を考えてソリトは頼んだ。
少々呆れながら、ソリトは依頼書の作成を待つ。
しばらくして、作成された依頼書を最初に訪ねた受付嬢の所で受け取り、ソリトは山へと向かった。
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どうも翔丸です。
今のところ、ソリトは受けた義理は返せるなら返す。人は信用しないけど、仕事や契約関係なら一応信じるといったところです。
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