第4話 ついつい出来心で
翌朝、山越えする前に咄嗟の勢いで持ってきた所持品をソリトは確認していた。
「鎧は咄嗟のことで無し、聖剣はある。革の水袋に、金………ん?」
無かった。これから必要になるはずの金が旅袋になかった。
どうして、頭の中の記憶を探り、そして思い出した。
「そうだ……
ビッチとは、ファルの事だ。
存在を思い出す、口にするだけでも反吐が出る気分になる為の呼称。
パーティの金の管理をファルにしてもらっていた事を、ソリトは深く後悔した。
それも今更、渡された所で思い出したくもない記憶を思い出すだけだ、とソリトは切り替えた。
とはいえ、無一文のままなのは変わらない。
どうしたものか考えていた時、昨日のワイバーン達の事を思い出した。
ソリトは急いでワイバーン達の元に向かう。
しかし、そこに誤算があった。
昨日の夜は月明かりが射し込んで迷うことはなかった。
だが、全体を正確に見れたわけではない。
つまり、どこで倒したのか分からない。
「……仕方ない。今は街を目指すか」
それから、下山ルートに入ったソリトは、道中薬草を採取しながら進んでいく。
少量であっても、手っ取り早く出来る限り多くの金を稼ぐ為だ。
その為には、少しでも品質の良い薬草を摘み取る必要がある為、選別しながら摘み取っていく。
『スキル【採取師】獲得』
唐突に、スキルを獲得した。
薬草を摘み取っての獲得に【採取師】という名のスキル。という事は、薬草採取時に何らかの効果を発揮するスキルなのだろう。
ソリトはタグネックレスに魔力を流してスキルを閲覧する。
【採取師】
触れた薬草の鑑定ができる。
採取時、綺麗に摘み取ることができる。
スキル効果により採取した薬草の品質を一段向上させる効果を追加。
薬草鑑定もできるスキルらしい。さらに【孤高の勇者】によって一段階していない代わりに追加効果が付いている。
早速新たな発見をした。
品質向上。
薬草の生えている場所を探して見つけたソリトは、効果の確認も込みで薬草を掴む。
プチッ
効果のお陰か綺麗に摘み取れたときの心地良い音が響いた。
その時、摘み取った薬草が一瞬淡く光った。
今のが品質を向上させる効果なのだろう。
ソリトは【採取師】のもう一つの効果の薬草鑑定で確認してみる。
オトギ 品質 普通→良質 傷・鎮痛薬の材料になる。
薬草名、品質、効果内容。
これらを知ることが出来る薬草鑑定はとても便利だ。
それから、ソリトはまた新たに判明した【孤高の勇者】によるスキルアップの幅の広さと【採取師】の追加効果に気分をウキウキさせながら、プチっと摘み取っていった。
途中で、三種の魔物を討伐をし、素材も回収した。
能力が向上し、スキルもまた増えた。
ここの山の魔物はソリトのレベルに近いものが多いのだが、今のソリトの敵ではなくなっていた。それが原因なのか途中からステータスの上昇が芳しくなくなってきた。
『ブルタボアを討伐により全能力が上昇します』
『ブルタボアを討伐により全能力が上昇します』
『ブルタボアを討伐により全能力が上昇します』
『ホーンウササンを討伐により全能能力が上昇します』
『ホーンウササン二体を討伐により全能力が上昇します』
『サイレントビー五体を討伐により全能力が上昇します』
『スキル【暗殺者】獲得』
『スキル【危機察知】獲得』
【暗殺者】
任意で気配遮断を発動可能とする。(一段階アップ状態)
気配感知を発動可能とする。(一段階アップ状態)
暗器攻撃上昇。(一段階アップ状態)
スキル効果により【遮断】が【隠蔽】に変化、感知範囲拡大、暗器攻撃が倍加効果上昇。
【危機察知】
自身を対象にした危機発生時、自動的に察知可能。
「うげ、暗殺者って中々にやりづらい相手なんだな」
どんな理由かは不明だが、何らかの条件を満たしたという事は確かだ。
とても有能なスキルではあるが、本職の暗殺者には関わりたくない、とソリトは思いながら効果内容を見ていく。
その中にある暗器効果上昇が何か気になったソリト。
しかし、あいにくと暗器を所持していない。
そもそも、暗殺する機会などなかった。その機会が今後あるのかは別として、【暗殺者】は使い道がある。
それから暫くして、ソリトは街に着いた。
街の名前はプルト。
しばらくの拠点とするには申し分ない石造りの街。
まずは採取した薬草と素材の買取で金を作る事だ。その為に、ソリトは何処かにあるはずのギルドを目指す。もし、途中で薬屋があれば薬草はそちらで売る事にした。
その目的を果たすためにギルドを探して街を暫く歩いていると、ソリトの視界にあるやり取りが目に入った。
「頼むよ〜」
「なあ〜ちょっとだけだって〜」
「無理なものは無理です」
「えぇ良いだろ〜?」
明らかに柄の悪そうな男三人組が建物の壁に集まって一人の女を囲み迫っていた。
声からして同じまだ十代くらいだろう。
いつもならここで助けに入る場面なのだが、自分には関係ない、助けるメリットがない、とソリトは素通りしようと歩く速度を上げた。
「ちょっと!離してください」
女の子はハゲの男に手を掴まれ抵抗しているようだ。
「なぁ絶対楽しいって、な?えへへブベラ!!」
素通りと思っていたが、気色の悪い笑いにソリトはイラついて、通り様につい裏拳で一人殴ってしまった。
女の子に向けていた下碑た目が嫌な事を思い出させ腹が立ってしまった。ソリトのほんの出来心である。
殴ったハゲの男は壁にめり込んで気絶したのか動かなくなった。そうでなかったら面倒なので死んでいないことをソリトは願う。
何が起こったのか分からないと言わんとするように襲われていた女の子と他の男達はソリトをぽかんと見つめていた。
少しして、刈り上げ黒髪の筋肉質の男は我に返り状況を把握すると、ソリトに殴りかかってきた。
「てめえなにギャス!」
二人目は握り拳をつくりハンマーのように手の尺側面を打ち付けて地面に叩き付けた。
一応、ソリトは加減をしている。死んではいない筈だ。
「俺の視界から消えろ」
「は、はいぃぃぃぃ!」
睨み付け、冷める声でソリトが命令する。
腰を抜かして地に座っている金髪髭男は、仲間の二人を引きずりながら足早に街の何処かへ消えていった。
「あの、あ……」
「…………」
「え?あ、あの!」
どうせ、ありがとうございますと言われるのがオチ。そんなものは不要だ、とソリトは女の子をその場に置いて薬屋かギルドを再び探しに向かった。
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