07.滲み沼の牢獄 ~ホス・ゴートス~
◇◇
「傷の具合はどうかね?」
エルフの賢者──ウィルノデルが、クウに向かって
クウは椅子に座り、包帯を巻いた頭を片手で抑えている。
「ええ、もう大丈夫です。そんなに深い傷じゃありませんから」
「ふむ。ならば、良かったのだね」
「僕の心配なんて、今はどうでもいい。それより──今は捕まった人達の事です」
頭に
クウのいるこの空間には現在、ウィルノデル以外にも多くのエルフが
皆が一様に
「ねえ。えっと……フードの人」
「気に入らねえな、その呼び方。俺の事は"ソウ"って呼べ」
「あ、ごめん。じゃあ、ソウさん」
「ソウでいい。──俺の方も、クウって呼んでいいよな?」
「あ、うん……」
フードの男──ソウは立ち尽くすエルフ達の間を抜け、部屋の中央に移動する。
「
「ふむ、耳が痛いね……」
ウィルノデルは自分の拳を額につけ、自分の顔を
「騎士団共の目的は、"悪魔族"を頂点とした帝国を"イルト"全土に
「──ソウ殿。攫われた村の者達は、そのまま騎士団共が、"黒の王国"まで連れて行ってしまうのかね?」
「もしそうだったなら、完全に諦めるしか無かった。だが、今回はその心配はいらねえさ。覚えてるかい? 騎士団共が、引き上げる手前で言ってたセリフ」
ソウは、そこで視線をクウに移す。
「──"
「正解だ、クウ。──
「そんな場所に、騎士団達は拠点を
クウが
「そうさ。その毒沼は底があってな。何でも昔、優れた
「それに、黒の騎士団が目をつけたって事なんだね」
「そういう事さ。騎士団共が滲み沼に現れ出したのは、今から半年ぐれえ前だった。いきなり現れた奴らは、石砦の各所に鉄格子を取り付けて、牢獄に改造しやがった。──騎士団共は
「捕まった人達は、拠点の牢獄に一時的に収容されて、後で本拠地に
「話が早くて助かるぜ」
ソウは感心した様に、薄く笑った。
「俺は悪魔専門の狩人でね。今、俺が狙ってる悪魔は、滲み沼の牢獄──"ホス・ゴートス"の騎士団共の指揮官なのさ。
クウは椅子から立ち上がり、ソウのすぐ
「僕を──連れてってよ。ソウと一緒に」
「おう、良いアイディアだな。そうしようじゃねえか」
クウとソウは互いの顔を見つめると、無言で
◆◆
滲み沼に建てられた
鉄扉の一つが開かれ、黒い
「おら、てめえも早く入れ!」
「や、止め……! ──きゃあっ!」
騎士の一人が、抵抗する女エルフの一人の背中を
ナリアだった。今の衝撃で、
痛みに顔を
騎士二人は、ナリア達を見世物でも見るかの様に
「ナリア──! 大丈夫……?」
「ええ、大丈夫です……」
女エルフの心配に、ナリアは精一杯の
「さっきの私を見ましたね? このままでは、いつ殺されるか分かったものじゃありません。──急がなきゃ。まず、縄を
「う、うん……」
ナリアは、話しかけてきた女エルフを後ろ向きにさせると、縄の結び目に歯で食らい付く。
「固い……。あいつら、どれだけ強く縛ったんでしょう」
「無理はしないで、ナリア。──あ、待って! 誰かこっちに来るわ」
女エルフの言葉通り、何者かが近付いてくる気配がした。等間隔に、鎧の様な金属音が通路に響き渡る。
音の主が姿を現す。
鎧を着た大男だった。紫色の瞳を持つ、残忍そうな人相の男である。身長はナリアの頭二つ分ほど高く、額からは──角が一本生えていた。
「──エルフの女共。気分はどうだ」
「聞くまでも無いでしょう。100年以上生きてきた中で、最悪ですよ」
ナリアの答えに、大男はニヤリと口角を上げて笑った。
「貴様と一緒にいた男について、話せ」
大男が、ナリアを見て言った。
「……何の事です?」
「"人間"の男の事に決まっているだろう。聞けば貴様、そやつと手を繋いでいたらしいではないか」
「…………」
「答える気は無いか。まあ、良かろう。──女に口を割らせる方法など、こちらには
大男は、急に興味を失った様にナリアから視線を外す。
「明日を──楽しみにしておけ」
大男はそれだけ言うと、通路の奥の暗闇に消えて行ってしまった。
緊張の糸が切れたナリアの眼から、涙が
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