05.黒の騎士団
◆◆
クウがエルフの村に招かれた日の翌日。
すっかり日の落ちたナトレの森。目を覚ましたクウがナリアとの
男は黒地に青い
見るからに怪しい
「確か、ここら辺だったか」
男は
「うっすらと、魔力の気配だ。ああ──間違いなく"輪"を持ってやがるな。大物だ。しかし、何者だこいつ? 新手の"
男の顔は、
「こっちの方向は──おいおい、森の奥に行ったのか? エルフの道案内でもなきゃ5分で迷子だぞ」
男は、薄暗くて見通しの悪い森の奥を、目を細めて見つめる。
「いや、
男は自分の腰元──青い光を放つ短刀に手を掛ける。
「"黒の騎士団"。ご苦労なこった。
◇◇
「働き過ぎです」
「クウ。あなたは畑仕事でも炊事でも洗濯でも、何をする時も全然休憩を取ろうとしませんね。一日中、ずっと動いてます」
「そうかな?」
「そうです。今日なんか、特にそうでした。──朝は私より早く起きたと思ったら、昼までずっと野菜やら果物の収穫やらの外仕事。
クウはナリアの家の
クウの衣服は初日に着用していた白いローブとは異なり、ナリア達エルフが着用しているものに酷似した、緑色のものだった。
「逆の理由で怒られるなら納得するけどね。僕、そんなに働いてたかな?」
「ええ。私が心配する程ですよ」
「闘病生活中の僕は、人並みに働く事なんて出来なかった。きっと、その分を取り戻したいんだろうね。ナリアには悪いけど、身体を動かすのが楽しくて仕方ないんだ。自分じゃ止められそうに無いよ」
「例の、
ナリアは
「あなたがここに来てから、早いものでもう7日も経ちましたね。今では私以外のエルフ達とも気さくに話せる程になり、すっかり村の一員です。──あまり心配させないで下さい」
「そう言ってくれて嬉しいよ。──ここの扉を破壊した時は、初日にして追い出される覚悟をしたんだけどね」
「少しはそれも考えましたけどね。まあ、ちゃんと扉は直してくれたので
「
クウは深々と頭を下げる。
「その後の、"輪"の調子はどうですか」
「ああ、これね」
クウは左手の袖を
「"
クウの左手に円形の模様が浮き上がり、淡い緑色の光が生じた。
模様が回転を始めると同時に、穏やかな
初日の爆風とは打って変わって、緑色に色付いた風は、明らかにクウの支配下にある様な動きを見せている。
「それが、クウの本来の"輪"の姿ですか」
「そうみたいだね」
クウが軽く腕を振ると、風はクウの腕に
「風を自在に発生させる能力、ですか。私も"輪"に詳しい訳ではありませんが、そんな力を持った魔術師は聞いた事がありませんよ」
「僕自身にも良く分からないんだよね。この名称は自然と頭に浮かんできたものだし、力加減とかも少し練習しただけで安定してきたし。体の感覚としては、忘れてた記憶を急に思い出し始めた、みたいな……」
「思い出すも何も、クウの元居た世界では魔術なんてなかったのでしょう?」
「そうなんだよ。この世界、分からない事だらけだ。──唯一分かったのは、僕はエルフの女性とダブルベッドで一緒に寝ても、不純な行動はしないって事ぐらいだね」
「それ、男としてはどうなんです? それと、クウは自分では気付いて無いでしょうけど、寝言がすごく多いですよ」
「ナリアも時々、
「えっ? う、嘘です」
ナリアは口元に手を当て、顔を赤らめてクウから目を
その時だった。
家の外で凄まじい
クウは扉を開け、顔だけを出して外の様子を確認する。
──黒い
馬から降りた騎兵達は片手に
騎兵達は空になった家に
「あ、ああ──黒の騎士団!」
ナリアは口元を両手で
クウは
丁度こちらに向かって来ていた数人の騎兵が、クウとナリアに気付く。騎兵達は退路を塞ぐようにクウの前に立ちはだかり、
「あん? てめえはエルフじゃねえな。 その髪は──まさか、人間か……?」
「"
クウは精神を集中し、左の掌を騎兵の胸元に
「うおおっ──!」
騎兵が回転しながら後方へ吹き飛ばされる。騎兵はそのまますぐ真後ろにいたもう一人の騎兵に衝突し、体勢を崩しながら倒れた。
「よし!」
確かな
「きゃあっ!」
ナリアの悲鳴が響く。クウは、自分の右手からナリアの手が引き
いつの間にか背後にいた新手の騎兵が、ナリアを拘束していた。ナリアは手を後ろに
「この
ナリアの
「くそっ、何人いるんだよ……。うあっ!」
クウは後頭部に衝撃を受け、
「ああ──! クウ! クウっ!」
クウの意識は徐々に遠くなっていく。騎兵に捕らえられたままのナリアが、泣き顔になってクウの名前を何度も叫ぶ。
地面に、クウの頭部から流れ出た血が広がった。
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