02.賢者ウィルノデル
同じような景色ばかりが続く森を、籠を持った少女はクウの手を引きつつ、迷いなく進んでゆく。クウは
十数分程進んだところで、視界が開ける。
「着きました。ここが私の村です」
「ここが君の村?
クウは目を輝かせた。
見た事も無いような巨大な樹木が、そのまま巨大な住居になっている。
童話の世界にでも描かれる様な、幻想的な光景だった。
「ほら、入口はこっちですよ」
クウははっとして樹木から少女に視線を移す。
少女はクウの手を更に強く引き、樹木の根から地面へと伸びた、樹木の上層部へ通じているらしい階段へと案内する。
少女に連れられるまま、クウは最上階らしき扉の前に到達した。ここに至るまで、長い耳を持つ村の住人達に何度驚きの表情を向けられただろうか。クウには数えられなかった。
少女はここで、
「賢者様、いらっしゃいますか?」
少女は扉を
ゴトンと重い音がして、扉が開く。
髪を後ろで結んだ長髪の若い男性が現れた。男性は身振りで少女とクウへの入室を
ここでクウは、室内にもう一人いたという事に気付く。
部屋の中央、見るからに値打ちのありそうな赤い
顔中に深い
見るからに、
「──ナリア。よく来たね」
「お久しぶりです、賢者様。お体の調子はいかがですか?」
「ああ、
「どういたしまして。また必要になりましたら、いつでも取って参ります」
「ああ、またお願いしようかね」
エルフの少女は、ナリアという名前だったようだ。今更ながら彼女の名前を知ったクウは、自己紹介を忘れていた事を後悔した。
「おやおや。これは驚いたね。──そちらの方」
「えっ。あ、はい」
老人は、目を閉じたままクウの方を向いて言った。
「名は、何と仰るのかね」
「えっと、
「ザオゥ……クゥス? ふむ。
「あ、では──クウとお呼び下さい」
「クウ……ふむ。では、クウ君とお呼びしようかね」
会話は成立するが、どんな日本語も通じる訳では無いらしい。クウの名前はエルフには不可解な響きを持つ言葉であった様だ。
「ナリア。クウ君は、どんな外見をしているのだね」
「はい。彼は耳が短く、髪の色は──夜色です。イルトの伝説、"人間"の外見的特徴をそのまま備えているようです。まさか、"イルト語"を話せるとは思いませんでしたが」
「え、イルト語?」
クウは思わず
「イルト語っていうのは何? 日本語の間違いじゃないの?」
「何ですか、急に。イルト語はイルト語でしょう」
少女──ナリアが、やや不機嫌そうに反論する。
「そうかね。では、彼は──人間なのかね」
老人はそう言って、閉じていた目を開く。
両目の
「あなたは……目が?」
「ああ。
老人が
「だが、
老人は両手をクウの顔の前に
「クウ君。少々、失礼するのだね」
老人の手が、緑色に光った。
鮮烈な緑色の光が、見た事の無い文字の
「──"
老人がそう
そんな謎の現象が、十数秒続いた。
老人が、唐突に突き出していた手を下げる。すると、宙に展開されていた緑色の三角錐と数字が、瞬時に消滅した。
「ふむ、なるほど。──面白いのだね」
老人は何かに
「今のは何ですか?」
「"輪"の魔術だね、クウ君。分かるとも。君は初めて見たのだね。説明しよう。"輪"とはこの世界──"イルト"の生物が
「たった今ここに出現した、あの図形ですか?」
「その通り。儂の輪は"
「知る事が出来る、とは?」
「そうだねえ。
「じゃあ今は──何を知ったんですか?」
「君の正体について少々、だね」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます