輪の魔術師~僕の転生した異世界では、人間は伝説の魔術師になれるそうです~
海老石泥布
異世界"イルト" ~緑の領域~
01.ナトレの森
◇◇
一人の青年が、朝日の差し込む森で目を覚ました。
「……ここは?」
青年は現在の状況に、かなりの違和感を覚えている様子である。
立ち上がって周囲を見回す青年。
「落ち着け……。まず、僕はさっきまで病院の102号室でマンガを読みながら──いや、違う。そうだ。精密検査の日だったから、午前中はずっと病室でスマホのゲームをしながら先生を待ってて──いや、そうじゃない」
青年は
「何だろう? 記憶が──ゴチャゴチャになってる。どうなってるんだ?」
青年は、目を見開いて硬直する。
「名前──。僕の名前は──
青年──もといクウは
次にクウは、自分の服装を確認する。
「服が──病院の
クウに着替えた記憶は全く無かった。明らかに不自然な状況である。
「体が──動く。指先を動かすのも一苦労だったはずなのに。──これは夢かな? それにしては、妙に現実っぽい感覚があるような気もするけど」
クウは自分の手を見つめ、指を順番に動かしてみる。問題なく思い通りに動いていた。
「僕は──もしかして、死んだのかな? じゃあ、ここは──死後の世界?」
不意に何かの気配を感じ、クウは辺りを見渡す。
すると、クウの視界に興味深いものが映った。樹木の
緑色の布服を着た少女である。腰まで伸びた金色の髪と、遠目にも分かる
クウと視線がしっかりと合っても、少女はそこから動こうとしない。
「えっと……。こんにちは、初めまして」
「…………?」
「あ、もしかして日本語が分からない? ──困ったな。本当に、どういう事なんだよ」
クウは感情的にそうに言うと、フードを脱いで頭を
「あっ──!」
少女に反応があった。手に持った籠を草の上に落とし、中の果物が散乱する。
「よ、
「え……?」
「あなたの──髪の色です。
「何だ、言葉が通じるじゃないか。……ちょっと待って。ヨル色?」
クウは自分の髪をつまみ上げる。頭髪に関しては、特に違和感を覚える様な変更点は無いようだった。
「ヨル色って言葉、初めて聞いたけど。──もしかして黒色の事?」
「く、黒なんて言葉、軽々しく使っちゃいけません」
「えっ、どういう意味?」
「そのままの意味です。黒という言葉は、例の騎士団達を示す言葉ですから」
「騎士団達……? 何の事か分からないんだけど」
「"
少女は真剣な
「あなた、この"ナトレの森"に何の目的で来たんですか?」
「えっと……分からない」
「おかしな事を言いますね。あなたの事なのに、何であなたに分からないんです?」
「上手く言えないけど──僕の記憶ではそもそもこんな場所にいる状況がおかしいんだよ。僕はその……なんて言うのかな。まるで瞬間移動でもさせられたみたいに、目覚めたら全く知らない場所いたんだ」
「全く知らない場所──ですか?」
「そうだよ。その、気に
少女はじっとクウの全身を観察するようにじっくりと見たかと思うと、唐突に強く手を
「一緒に、村まで来てください。この森の奥にある、エルフの集落まで案内します。──エルフについてはご存知ですか? 代々森に住み続けている人型種族です。
「……耳が長い?」
「そうですね。──私の村には、何世紀にも渡って生き続けている、エルフの"
「あ、うん。その通りだね。──今、気づいたよ」
「では、決まりですね。──急ぎましょう。この辺りで長居してはいけません。"黒の騎士団"に、見つかってしまうかも知れませんから」
少女は地面に散乱した
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