第6話 思想

 自分は、本当に神の生まれ変わりなのではないか。Aは大学を卒業してから、数十年経ったその時も、真剣にそう考えていた。

 Aは涼子と別れてからも、女性を巧みな話術と優しさで利用した。女に寄生するジゴロとなり、女と別れては違う女の家に転がり込んだ。しかし、時の流れは残酷である。Aの男としての魅力は失われていき、歳をとるごとに女達は離れていった。

 お金が底をつき、生活は困窮していた。

 アルバイトの面接を受けに行ったが、として扱われ、相手にされなかった。


「そうか……私はもうそんな年なのか……」

 

 仮面を思い出した。

 親と話すときも、いじめられた時も、彼女ができていた時も、つけていた仮面。ていの良い仮面をつければ、いつだってことは思い通りになった。そうだ。優しさを大切にしなければ。

 しかし、彼の仮面は道化師の仮面であった。

 彼は、大学のサークルを中心にして勧誘を続け、持ち前の性格で新興宗教団の始祖となったのだ。詳しい経緯は不明だが、TVで宗教団体の教祖がお金を搾取していることに感銘を受けたと後に語った。高校時代に学校の頂点に立ったことが、自信になっているのかもしれない。


 名は『宗教法人 エンジェル真理教団』

 Aは自らを「エンジェル」と名乗り、神の使いであることを説明した。指導という名目で、団員にはなんでもさせた。だ。

 最初は、慎ましく宗教法人としてコミューンをつくり暮らしていた。もちろん、お金は団員から搾取していた。しかし、教団内で性被害を受けた女性が、警察に通報。その実態のほとんどが見過ごされたものの、法人格は失い、名ばかりの怪しい団体へと変化した。

 団員数が少しづつ減っていき、法人でもない団体に入団する人も居なくなった。Aは焦っていた。もう、あとがなかったのだ。

 この真理教団が無くなってしまったら、自分はただのおじさんとして生きていかなければならない。もう二度と、人の上に立つことはないかもしれない。


 


 彼は、この物語の主人公は自分だと信じていた。

 この世を変え、終焉をなくすには、この教団が––––天使(Angel)の羽が必要だと信じていた。


 

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