第3話 高校時代①

 Aは、私立の高校に入学した後も人々に「優しさ」を分け与えた。人が嫌うことを真っ先にやり、人が好きなものには遠慮をした。その結果、彼はクラスのみんなから絶大な支持を受けることになる。


 


 しかし、全員が高校生。人間が最も他人に対して敏感になる時期である。Aは、人に好かれる性格であったが、自分とは違う仏のような性格を見たからなのか嫉妬をし、こころよく思わない生徒が現れるのは時間の問題だったかもしれない。

「おまえ、気持ち悪いんだよ。なんでも笑って良い人ぶりやがって。好感度ばっかり気にしてんだろ?」

 いじめっ子達は笑った。Aは、それでも優しさを振る舞いながら返事をしたそうだ。

「気に触ったかな?ごめんね」

 Aの飄々ひょうひょうとした態度に腹を立てたのか、いじめっ子たちは机を蹴り飛ばし、何かを思いついたかのように教室を出ていく。

「明日から地獄を見せてやるよ」


 それから彼は、数々のいじめにあった。しかし、彼は怒りを捨てたのであった。どんなことをしても歯向かわない彼の性格を、いじめっ子は楽しんだ。


 虐められていたのはA一人ではなかった。そもそもAがいじめられるきっかけになった人物は石川浩也という少年であった。

 石川は小学校の頃から、いじめられていた。同じ地区の中学校であったため、いじめは継続して行われた。不運なことにいじめっ子達と石川は中学校でも同じクラスになってしまった。そして、そのクラスにはAも居た。

 いじめられている石川を見て、Aは助けた。彼の優しさであった。

 机に落書きをされ、物を盗られ、悪口を言われ、嘘をつかれ、水をかけられ、殴られた。Aはその度に「卑怯だ、謝れ」と言った。そうして、座標はAに移ったのだった。


 いじめは半年間も続いた。Aは教師が使えない大人だと知っていたし、両親に相談することもなかった。大人に相談しても解決しないと思っていたからである。

 画鋲が足の裏に刺さっても、傘を盗まれずぶ濡れで帰っても、Aは全く折れなかった。まるで、飛んでくる衝撃が何も見えていないかのように。

 同じクラスの子はこう言ったそうだ。「人間ではない」「感情がない」「怖い」「Aに関わるな」と。


「なんだこいつ…抵抗すらしねぇ。もう、つまんねぇからやめようぜ」

 いじめっ子は、日々感じる恐怖に耐えられなくなりいじめをやめた。


 こうして彼は、人々からしのぐ術を学んだ。

 そしてもうひとつ。


 彼は、人間とはくだらないだと知った。

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