第2話 Origin

――Aが人に優しくする原点はなにか?

  その理由を知るために、小学校に入学する前までさかのぼろう。


 Aは6歳の頃、無邪気に遊んでいたら交通事故にあった。幸いにも命は無事であったが1ヶ月ほど入院することになる。


 彼の両親は共働きであったため夜になるまで病院に来れない日があった。当時、年齢が一桁のAは夜の病院が怖かった。深夜ではなかったものの、病院の雰囲気に恐怖を抱いていた。

 Aは泣いた。涙の限界まで泣いた。彼は初めて、ひとりぼっちの怖さを学んだ。

 「なぁに…静かにしてよ…」

 隣のベットで同じように入院をしていた少女がカーテンを開け顔を出した。


 Aの泣きじゃくる顔を見た少女は、黙って飴玉を差し出した。

 「大丈夫、食べて元気だしな」

 Aは黙ってうなずいた。小さい球体を口の中で転ばせるが、何味かよく分からない甘みの飴だった。


「これ、あんまり美味しくないよね」

 少女は優しく笑った。その笑顔を見ていたら、涙は枯れていた。


 今でもあの日のことははっきりと覚えているようで、後にAはこう語った。


「あれは恋愛感情とかではない…なんというか、人間っていう感じがしたんだ。人間の純粋な温かさを感じた。彼女の優しさは僕の中で『』になったんだ」


彼は、「優しさ」という感情を知った。

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