第2話 バスケの試合

「レイちゃん。今度の土曜日、暇?」

 昼のお弁当の時間に親友の真理子が話しかけてきた。真理子は、理屈っぽい自分とは真逆で、考えるよりまずは行動するアクティブな子だ。真理子の親が期待しているかどうかはわからないが、今のところ冷静に“真理しんり”を追求する子には育っていない。真理子とは小学生の時からの長い付き合いで、私とは何故だか馬が合う。

「今度、バスケの交流試合があるんだけど、応援に来てくれない?」

「同じ日に野球部の試合もあるみたいで、応援が少なそうなんだ。レイちゃんがバスケに興味がないのは知ってるんだけど、だめかなぁ」とバスケットボール部のマネージャーをしている真理子にお願いされた。

「りょ。たまには気晴らしでスポーツ観戦もいいかも。マリちゃんのお願いなら断れないしね」と応えた。

 試合開始は土曜日の午後一時。私は少し早めに母校の体育館に到着したが、予想に反して、館内は応援する人であふれかえっていた。試合前で忙しく働いている真理子の姿が遠くに見えたが、人が多くて声をかけられなかった。試合は、相手校のエースがシュートを決めると、母校のエースがシュートを決めるという一進一退の展開だった。母校のエースは、身長175センチとバスケットボール選手にしては小柄ながら、抜群の運動量でチームを引っ張る三年生のキャプテンだった。キャプテンの名前は鈴木幸多郎こうたろうだと、私と同じように真理子に誘われて応援に来ていたクラスメートに教えてもらった。それからそのクラスメートは、鈴木先輩はモテモテで、美人の同級生や可愛らしい後輩から何度も告白されているが、すべて断っているという余計な情報も教えてくれた。私はバスケットボールにはさほど興味がなかったが、試合での鈴木先輩の活躍に次第に魅了されていった。

 最終クォータも残り十秒で、試合は母校チームの2点ビハインドだ。「頑張れー」と母校チームを応援する生徒の大きな声が聞こえる。相手校チームのパスミスで、ボールが鈴木先輩に回ってきた。鈴木先輩が巧みなドリブルでゴール下に切り込もうとするが、エースの鈴木先輩には二人のディフェンスが付いていて、中々シュートを打たせてくれない。「お願い、先輩の邪魔しないで」と心で祈った。残り五秒、四秒。鈴木先輩は一旦シュートをあきらめて、ゴール下からスリーポイントラインへと離れて行った。残り時間が一秒、ゼロ・・・。ブザーが鳴ると同時に、鈴木先輩がセンターライン付近からロングシュートを放った。「入ってー」と心で叫ぶ。鈴木先輩が放ったボールは大きな弧を描いて、一瞬の静寂の中、相手ゴールに吸い込まれていった。スリーポイントシュートによる劇的なブザービーターだった。割れんばかりの大歓声の中、母校は逆転勝利をおさめた。


 

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