🦜 夏をめぐる冬の思い出

民人たみびとの知る限り世界で最も寒い冬の訪れるシベリアの真冬に、赤い胸をした三羽の小さなあとりがいました。

新雪の上に落ちた三滴の血のように美しい彼らは、今や雪の女王の獲物でした。


三羽を育てた母鳥は、育て終わらなうちに、猟師が戯れに撃った散弾が粉々にしてしまいました。

だからあとりたちは、いま、ここが自分たちの世界ではないことも、

もっとずっと南の方には自分たちの世界があることも知らずにいました。


あとりたちはおなかがすいていました。

でも、餌を探しにゆこうとはせず、灌木の枝で三羽寄り合って、じっとしていました。

突然、空気を切り裂く音と共に、一話の白鷹が襲いかかってきました。

それでも彼らは逃げようとせず、じっとしていました。

たちまちのうちに白鷹の爪が、三羽のうちの二羽を押しつぶしました。

残る一羽はとうとう、翼のケープを広げて飛び立ちました。


羽音すら凍りついて砕けるような空気の中を、あとりの小さな白い羽は三度みたび羽ばたきました。

一度目の羽ばたきのうちに、翼と足が凍りつきました。

二度目の羽ばたきで頭と胸が、

そして三度目に、小さな小さな心臓が、その中の、もうどこにも流れてゆく先のなかった血とともに凍りつき、

そしてあとりの命は尽きました。


翼を拡げた姿のまま雪の中に落ちたあとりのむくろを、たまたま通りかかった猟師が拾い、持ち帰って幼い娘に与えました。

冬の間、あとりの骸は翼を拡げた姿のまま娘の手の中にありましたが、

夏が来て、翌年のあとりが南から渡ってくるより前に、娘の手の中に数枚の赤い羽を残して、朽ちてなくなってしまいました。

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