🌅 大地

 ある時、私は旅人でした。

木の下や、農家の納屋で露をしのぎながら、あてもなく、大地の表をさまよっていました。


 ある日、私は深い深い地底の洞窟に迷い込み、それまで誰も訪れたことのない地の底にやって来ました。

そこは、闇の世界の王である人喰いのデーモンの巣で、私も危うく食われそうになり、さらに深い地底へと逃げ込みました。

するとそこに、黒いヴェールを纏った三人の魔女が現れ、私に向かって金色の弓をつがえました。

矢は空中で大きな紫色の蝶に変わり、蝶は羽を広げて私の頭にとまりました。


 ある時、私は砂漠でキャラバンをねらう盗賊でした。

孤児の少年とともに、行き倒れの親子を装ってキャラバンに入り込み、夜のうちに人々を殺して荷を奪うのです。


 ある日、相棒の少年が、もう盗賊はいやだと言い出しました。

私は少年を脅し、痛めつけました。

けれども言うことを聞かないので、殺してしまいました。

するとそこに、黒いヴェールの三人の魔女が現れ、私に向かって弓をつがえました。

矢は空中で紫色の蝶に変わり、羽を広げて私の頭にとまりました。


 ある時、私はにぎやかなオアシスにすむ商人でした。

キャラバンの運んできた絹や、鮮やかな染料を商いながら、ソグド人の少女とともに、幸せに暮らしておりました。


 ある日のこと、黒いヴェールを纏った三人の魔女が現れ、私に向かって弓をつがえました。

しかしそこは賑わうバザールの中だったので、私は咄嗟とっさに人込みに逃げ込みました。

魔女たちは追ってきました。

私が屋台の後ろに隠れると、魔女は私に気づかずに通り過ぎて行きました。

しかし隠れ場所から出て歩き始めると、再び彼女たちの足につけられた鈴の音が聞こえ、私はまた隠れなければなりませんでした。


 こうして私は、魔女の鈴の音に脅えながら、今もこのオアシスで暮らしています。

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