🎉 聖夜

 ある寒い寒い雪の夜、街の裏通りにすむ魔法使いの家のドアをたたくものがありました。


「ドクター、ドクター!」


「はい、どちらさま」


 魔法使いがドアを開けると、そこには仔犬を抱えた小さな女の子が立っていました。


「ポチの具合がおかしいんです、たすけてください」


 魔法使いは胡乱うろんな目つきで少女を眺めました。

どうやらこの女の子は、彼を医者とでも思っているようでした。


 差し出された仔犬は、なんだかお母さん犬がおなかの中の半端はんぱなものを寄せ集めてこしらえたという風な、みじめたらしい、おびえきった様子をしていました。

そしてどうやら、心臓が悪いようでした。


 魔法使いはちょっと考えて、


「ああ、だいぶ悪いようだね。でも、耳を取ってしまえば何とか助かるよ。」


「かまいません、いのちだけは、たすけてあげてください」


 そこで魔法使いは仔犬の耳を切り取り、かわりにジギタリスの葉の切れ端を呑ませました。

それでしばらくは、仔犬は元気を取り戻したのですが、三日もするとまた具合が悪くなってきました。少女は仔犬を抱いて、再び魔法使いの家にやってきました。


「ああ、いかんねぇ。でも、目を取ってしまえば助かるよ。」


 そうして魔法使いは、少女がやって来るたびに、仔犬の足や、しっぽや、肝臓を、体をすこしづつ切り取っていきました。


 そんなある夜


「ドクター、ドクター、ポチが死にそうなんです、たすけてください」


 出てきた魔法使いは酒臭く、傍らの厚化粧をした黒いタイトドレスの女とだらしなくもたれあっていました。


「たすけてください」


 差し出された少女の手には、今にも止まりそうな仔犬の心臓がありました。

魔法使いはそれをつまみ上げ、少しの間指の間で転がすと、少女の手の中に押し戻しながら言いました。


「ああ、こりゃダメだ。心臓がいかれちまってる。」


「お願いです、いのちだけは、たすけてください」


 魔法使いはもう少女の方を見もせずに、げらげら笑いながら部屋の中に戻っていきました。


「ちょっと、なにあれェ」


女がいやらしいだみ声で言いました。


「さて、なんだかね。あんなクサった心臓じゃあ、何の魔法にもつかえんさ。」


下品な笑い声と共に、ドアがばたんと閉まりました。


「お願いです、ポチのいのちだけはたすけてください」


 泣きじゃくる少女の肩に、激しく降り始めた雪が、見る見る積もってゆきました。

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