幕間1-カオス劇場・童話「赤ずきんちゃん」(後編)

 悪知恵のはたらくオオカミは、素早く赤ずきんの前に回り込んだかと思うと親切そうな顔をして声をかけます


「やぁ赤ずきんちゃん、こんな良い陽気の日にどこまでおでかけかな?」

「……」

(あれ、おーいどうしたの? セリフ忘れた?)

「! あ、っと、病気のおばあちゃんの家までお見舞いにいく途中だ、わよ」


 ひそかにオオカミのケモミミ姿に萌えていた赤ずきんは


「萌えてねぇよ!」


 もし二人の間に子供が生まれたらこんな感じかと妄想していた赤ずきんは


「だから違うって言ってんだろ!!」


 正直におばあさんの家まで行くところだと答えました。それを聞いたオオカミは心の中でニヤリと笑います


「よーし、先回りしてそのばあさんを喰っちまおう。となると、こいつはここで足止めをした方がいいな……なぁ赤ずきんちゃん、お見舞いにいくなら花を摘んでいったらどうだい? この先にそりゃあ素敵なお花畑があるんだ」

「え? 本当ですか? きれいなお花を持っていったらおばあちゃん喜ぶかしら」

「喜ぶ喜ぶ、おいしいもん、おはな。私もよく下校途中でツツジの花の蜜とかちゅーっと吸ったりしてさぁ、最近は食べられるお花とかあるみたいだし、スミレの砂糖がけとか今度作って欲し――」

「オオカミさん?」

「……なんでもナイデス」


 オオカミと別れた赤ずきんは、寄り道はいけないと言われたのも忘れ、アクロバティックな前転を披露しながらお花畑へと向かいます


「前転!? おいルカいいかげんに……っ」


 わめくな、私が神(ナレーター)だ


「ちくしょおおお!!」


 ゴロゴロゴロゴロ


 さて、赤ずきんがお花畑に向かったのを見届けたオオカミは、一足先におばあさんの家へと到着しました。そしてベッドで安静にしていたおばあさんをだましてペロリと一飲みにしてしまったのです!


「ぐぇっへっへ、あぁ、おいしかった!! おいし―― 大丈夫だよ、お芝居だから、ほんとは人間なんか食べないから、泣かないでよ、暴食の魔王とかやめて、ホントやめて」


 オオカミさんまで虚空に向かって話しかけるのはやめてくださいね~


「今さらだけどこのキャスティングひどくない!? 私のイメージが!」


 ご自分でクジを提案しておいて今さら何を、それにほぼ自業自得じゃないですか。そうこうしている内に赤ずきんがやってきたみたいですよ


「わっ」


 オオカミは、おばあさんからはぎ取った洋服を着こんで慌ててベッドに潜り込みました。両手いっぱいに花束を抱えた赤ずきんは、元気よくあいさつをします


「こんにちはおばあさん、お見舞いに来たわ」

「あぁ、よく来たね。こっちのベッドまで来ておくれ」

「なっ、ベッドに、来て!?」

「どうしたの? ほら、早く……来て?」

「いや! 子供たちが見てる目の前でさすがにそれは……!!」

「?」


 などと、童貞赤ずきんちゃんは子供向け演劇だというのに盛大に勘違いをしているようです


「ぶぉわ!? だっ、だだだ誰がどどど」


 話を本筋に戻しますよ。赤ずきんはおばあさんの様子を見るため、少しずつ近づいていきます。するとどうしたことでしょう、大きな耳が見えるではありませんか


「あ、えっと……まぁ! おばあさんの耳、前に会ったときはそんなに大きかったかしら?」

「それはね、お前の声がよく聞こえるようにさ」

「それにとってもおめめが大きくて光っている」

「可愛いお前の顔をよく見るためさ」

「そしてその大きな口!」

「それはね……お前を食べるためさぁっ!!」

「きゃー!!」


 あぁ、なんということでしょう。疑うことを知らない赤ずきんはあっという間にお腹を空かせたオオカミに食べられてしまいました


「はぁ~、まんぞくまんぞく。どれちょっくら一休み」


 まんぷくになったオオカミは、いい気分でそのままグースカと眠り始めました。その時、外を通りかかった一人の猟師が異変を感じ取り家のドアをノックします




 ……




 猟師が……


(たいへん! 出番が遅いからってグリ兄ぃ舞台袖で寝ちゃってるよ!!)

「zzz」

(『叩いてもつねっても起きませんの~!!』)


 …………猟師が来たかと思いましたが気のせいでした。あわれ赤ずきんはオオカミの昼飯として一生を終え――


(ちょっと!? 助けが来ないとかバッドエンドじゃない!!)


 すべては忠告を聞かなかった赤ずきんが悪いのです。人のいうことは素直に聞きましょうという教訓ですね、みなさんわかりましたかー?


(ダメだ、アイツまとめに入りやがった!)

(ベッドの下から出ちゃダメだって! こどもたち引きつってるじゃない、どうにかできないの!?)


「ふぁぁ~良く寝た、あれー? ゴメン、終わった?」


「た、助けて―!! 誰でもいいから助けてー!! 具体的には白い髪でちょっとやる気のなさそうな猟師さんがいいなー!! と、赤ずきんがオオカミのお腹の中から呼びかけています助けてー!!」

「わっ! あ、えっと。ガハハ、こいつめまだ腹の中で息があるのか。今さら助けなんて来るはずがないだろう、そうさ偶然通りかかった猟師なんているわけないさ、そうだろう?」

「えー、俺、寝起きで頭まわんない……SOSとか聞かなかったことにして良い?」

「最低のヒーローじゃねぇか! こちとら純情可憐なか弱い乙女だぞ助けろコラ!」

「すね毛ごーごーの乙女とか死んでも助けたくないんだけど、なに、女装して目覚めちゃったの?」

「オレが好きでこんなカッコしてると思ってんならぶっ飛ばすぞテメーッ!!」

「ふぁぁ、部屋で寝なおそ」


「助けてくれたら『スペシャルパフェ~季節のフルーツを添えて~』とか作ってご馳走しちゃうんだけどなあああ!!」


 ピクッ


「お」

(ぷー兄ぃ、もう一声!)

「ついでに山積みプチシュータワーとか! タルトタタンとか!」


 ピククッ


「えぇい、特大バケツプリンでどうだ!」


 ザッ


「待たせたな赤ずきんちゃん!」

「きたーっ!!」

「おい、顔つきまで変わってねぇかアイツ……」

「さぁ!隠れてないで出て来な子犬ちゃん、今ならまだ懺悔すりゃ赦されるだろうよ!! それともこの俺の餌食になるかい? そいつぁとんだ度胸だが勇敢と無謀は違うぜ?」

「わ、わぁーっ、ごめんなさいごめんなさい! お願いだから撃たないでー!」


 ……こうして反省したオオカミは、丸のみにした赤ずきんちゃんとおばあさんを吐き戻して事なきを得ました。それからは二度と悪いことをしないと誓ったそうです。めでたしめでたし


「これからは心を入れ替えて、まじめに生きるよ!」



 長らくのご観覧どうもありがとうございました。今回の元になった話は図書室に蔵書されていますので、興味を持ったおともだちは是非読んでみて下さい、他にもたくさんおとぎ話が載っていますよ



 終幕。



「ぷー君、ぷりん」

「え?」

「……」

「わかった! 作るから鎌を構えるのをやめろ!!」



おまけ【配役表と一言メモ】


 オオカミ/あきら→演技力は普通。自分とあまりにかけ離れた役はさすがにボロが出る

 ナレーション/ルカ→そつなくこなす。執事からゴロツキまでと演技の幅は広い

 赤ずきん/ラスプ→大根役者。とにかくセリフが棒読みで不自然。だがそれが良いと一部根強いファンが居る

 ウサギA/ライム→若干過剰気味な演技が目立つが上手い。女装が上の人と違い事故にならない

 ウサギB/手首ちゃん→しゃべれないので基本的にはセリフのない役のみ。だが圧倒的存在感を誇る

 お母さん/リカルド→潜入取材をこなす経験も相まって上手い。今回むりやり引っ張り出された

 猟師/グリ→基本的にやる気がなく下手すると舞台上で寝てる。だが一たびスイッチが入ると何かが乗り移ったかのように別人になりきれる、間違いなく一番上手

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