幕間1-カオス劇場・童話「赤ずきんちゃん」(前編)
※企画番外回。セリフと脚本形式です
「ねぇみんな、ちょっとやってみたい事があるんだけど聞いてくれる?」
「なんですか主様、まだ陽は高いですよ?」
「違う! 別に卑猥な提案とかじゃないから!」
「なになに~っ? 楽しい事?」
「ほら、一階の大浴場に行くまでの道に使ってない大きな空き部屋があったじゃない。あそこをちょっと整理して――みんなで演劇やってみない?」
「えんげきぃぃ~?? 誰がやるんだよ」
「もちろん私たちよ。実は図書室を作って本を置いたはいいけど、イマイチ子供たちには人気が無いみたいなの……多分どういった内容か分からなくて『本』ってだけで敬遠してるんじゃないかな」
「識字率を上げるためにも、絵本に興味を持ってもらうことは良い事だよね」
「だから実際にその内容を演じて、小さな子にも芸術的な事に興味を持って貰おうって作戦。題して――」
召しませ劇団・カオス劇場
「で、どうだ!」
「……カオス?」
「だってこのメンバーじゃどう考えたって脚本通りにはいかない気がして……」
「なぜこちらを見るのですか? 主様」
「と、とりあえず初回はわかりやすく『童話』テーマで行こうか。題目はうーん、人数的に赤ずきんちゃんとかどう?」
「じゃあアキラ様が主人公?」
「いや、ここは公平にクジで役を決めようと思ってるの。どうせ原作から逸れるなら思いっきりやった方が楽しそうだし」
「お前も大概ぶっ飛び始めて来たよな……」
「? じゃあクジ作ってくるね」
「童話ってアキラが大量に書いて寄贈した本か。オレまだ読んでないんだが、どういう話なんだ?」
「……」
「なんだよ」
「いえ、今のうちからすね毛は剃っておくべきかもしれませんよ、ラスプ」
「???」
** そんなこんなで初公演の日 **
皆様、本日は当劇場にお越しいただき誠にありがとうございます
発足したばかりの劇団の初公演に、これだけの人数がお集まり頂けたのはとても喜ばしいことです
城の空き部屋を片付けただけの簡素な会場ではありますが、すぐに皆様をおとぎ話の世界へいざないましょう
それではしばしのお時間を頂戴いたします。どうぞごゆるりと……
カオス劇場・童話「赤ずきんちゃん」
むかしむかし、あるところに、筋骨隆々でガタイも図体もデカくおまけに目つきもガラも悪い一人の女の子がおりました
森の中でお母さんと二人暮らしをしている彼女は、いつもお気に入りの赤いずきんをかぶっていたので、みんなから『赤ずきんちゃん』と呼ばれていました
「……」
おや赤ずきん? 赤ずきんちゃーん?
どうやらちょっぴり恥ずかしがっているようですね、みんなで呼んでみましょうか。せーの
\\ 赤ずきんちゃーん //
「ま、まぁっ!! なんて素敵な一日の始まりなのかしら! 森の中はキラキラ輝いて、小鳥さんたちが楽しそうにおしゃべりをしているわ!」
フリルがふんだんにあしらわれたミニスカートに生足ブーツ、おおげさなリボンをあちこちにつけたはち切れんばかりの上着。その自らのおぞましい容貌を少しも省みることもなく、赤ずきんは今日も一人メルヘンをくりひろげています
「てめぇリッツ、指差して笑ってんじゃねーよ!! 後で覚えとけよ!」
赤ずきーん? 虚空に向かって独り言を言うのはやめてください。あなたはそう……森の中のキュートでプリティーな夢見がちの女の子。キラキラふわふわした物が大好きな……
「今日も素敵な日になりそう! 神さま今日という一日をありがとうございますっ」
それでいいのです
「誰だよアイツにナレーション任せたの……」
さて、赤ずきんが居もしない偶像に感謝を捧げておりますと、家の扉を開けておかあさんが現れました
「赤ずきんやーい、ちょっくら頼まれてくれや」
「リカルド……お前、演技する気ないだろ」
「配役が足りねぇって刈りだされた俺の身にもなってくれよ、客席でゆっくり記事を書きたかったのに」
「記、えっ」
「ちょうど次あたりでお前の特集を組もうと思ってたんだ。いやしかしなかなか良い数字が取れそうで安心したぜ」
「ばかやめろ! せめてこの格好だけは勘弁してくれ!」
「こりゃ女だけじゃなくて、ある種の男も引っかかるかもしれんな」
「ぎゃあああ!」
……赤ずきんとおかあさんは、しばらく他愛もない話をしていましたが、ふと本来の用件を思い出しました
「あ、やべ。えーと、森を抜けたところに住んでいるババアがくたばりそうだから、遺産相続でもめないように遺書を書かせにいってこい……だっけか?」
「いきなり不穏すぎるだろ」
「違う違う、こりゃ別口で書いてるコラムの話だった。そう!病気のばあさんの為に、この瓶詰めにされた赤い液体と」
「ワインと」
「力の限り叩きつけて火あぶりにしたこれと」
「パンと」
「低温で殺菌したあとカビを吹きつけ、薄暗く静かな地下室に数週間監禁したコイツを」
「カマンベールチーズを」
「持ってお見舞いにいってきてちょうだいな」
「言い回し! 童話だって言ってんだろ!」
「はっ、いけねぇ、つい大げさに表現するクセが……職業病かな」
本業は新聞記者のおかあさんに暖かく見送られながら、赤ずきんは森の入り口までやってきました。すると二匹の小さな子ウサギが目の前を横切ります
「ぴょんぴょんっ、あっ! 赤ずきんちゃんこんにちは」
「こ、こんにちはウサギさ――」
(ぴょんぴょんっ)
「ウサギ……」
「どうしたの?」
「手首に耳をつけて『ウサギ』はさすがに無理がないか」
「えぇ~、知らないの? ウサギの手は幸運のシンボルなんだよ?」
「ウサギの手っていうか、ウサギが手っていうか」
「というわけで、手首ちゃんストラップをただいま開発中! 完成したら『ライムの関所遊園地』で販売するからみんなよろしくねっ!!」
おみやげに最適、別売りパーツを取り付けることであなただけの手首ちゃんをカスタマイズしよう! ※サンプルは開発中の物です
「露骨に宣伝ぶっこんできやがった」
「ってことで、ハイ。サンプル品あげる~、宣伝塔になってね」
「うわ、細部までよく出来てて逆にきもちわる……」
「そうそう、森の中を抜けるなら寄り道しないでまっすぐ行った方がいいよ、最近は何かと物騒だからね」
親切な子ウサギ達の忠告にうなずいて、赤ずきんは森の道をふたたび歩き出しました。うっそうとした暗い森の中を大股で歩いていくその姿に、動物たちは怯え逃げてゆきます
と、その後ろ姿を木の陰からこっそり見つめる目がありました。お腹を極限まで空かせたオオカミです
暴食の魔王の二つ名を欲しいままにするオオカミは舌なめずりをしました
「何その二つ名!? あ、じゃなくて、ふっふっふ、おいしそうなバスケット……じゃなくて女の子だ。しめしめ、これは久しぶりにごちそうにありつけるぞ」
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