46.それは庇護欲か愛情か
「いや、予想以上にやる気のある志願者が集まってきてる。種族はヒトとゴブリンが大半で、後はスライムと流れの魔族だな。全部で六十八名。わーむのヤツも横で一緒にマネし始めるからアレもカウントしていいのか?」
おぉ、それは心強い。わーむ君は見た目だけでも相当な迫力があるから自警団の側に居てくれるだけで箔がつく。
「全体的に見ると、農作業なんかはしてたから足腰はまぁまぁ強いな。ただ今は統制が取れるよう意識改革からやってる、あとは単純に筋トレ。もうちょいしたら武器の扱い方なんか教えようと思っていて、入手の手軽さと初心者の扱いやすさを考えたら槍辺りがバランスいいかと思うんだが」
ラスプがそういうと、城の備品管理なんかを一任されているルカが口元に手をやりながら思案する。
「城の武器庫に古い物が何本かありますが、まとまった本数を入手となると少し難しいかもしれません」
「人間領にそんな大量の武器買いに行ったら警戒されちゃうもんね」
こんな時に、武器職人とか居てくれたら助かるんだけどなぁ。いや、職人が居ても素材が無いとお話にならないか。
うーんと首をひねっていると、ルカが妥協案を打ち出してくれた。
「仕方ありません。多少割高にはなりますが、ドワーフ島から買い付けましょうか」
「ドワーフ……魔族諸島の中にあるっていう? 確かドーナツみたいな形した島だっけ」
実はこの世界、人間たちの住むメルスランドと、この新生ハーツイーズ国の他にもちゃんと国がある。
それらは主に私たちの居るこの半島から西にいった海にポツポツと点在していて、それぞれ色んな種族が集まって国を治めているらしい。
この前ルカに教えて貰ったその知識は合っていたようで、ニッコリと笑いながら褒めてくれる。
「よく覚えていましたね。ドワーフは商売相手には友好的です。取引は私にお任せください、大量発注ですしなんとか安くしてもらえるように頼んでみます」
「ありがとう、よろしくね」
「国の防衛ですから。確かな品質の物を手に入れるのは後々の為になると思いますよ」
ちなみに、そういった国々にも『建国のお知らせ』は出したのだけど、ほとんどが無反応だった。
ルカが言うには、彼らにとってうちの国は仲の良くないニンゲン達の間に壁が出来るようなものだから悪い話じゃないはずで、ほとんどは静観する方針なんじゃないかって。上手く国として機能すれば相手にしてやってもいいかな、くらいなんだろう。
算段がついたところでラスプが凝りをほぐすようにグルグルと肩を回す。やっぱり少しだけ眠いのか、あくびをかみ殺しながらのヘンな声が漏れ出た。
「報告としてはそんなところか。しかしまぁ鍛錬所はすごい光景になってるぞ、種族も見た目もてんでバラバラなヤツらの寄せ集めだからな。知らないヤツが見たら合戦してると思われても仕方ない光景だありゃ」
う、むむ、それはちとマズイぞ。そんなところを人間領側に見られたらどんな勘違いをされるか。
じゃあ行くわ、と出て行こうとする彼を追うため、私に寄りかかって寝ているライムとグリをそっと外して横たえる。
「まって、私も行く。ルカ、二人は起こさないでいいから今日はそのまま休ませてあげて」
すやすやと寄り添って眠る二人とルカを残し、少しだけ驚いたような顔をしながらも扉を開けて待っていてくれたラスプの元へ駆け寄り「行こう」と促す。
午前中のキラキラと輝くような新しい光が差し込んで、暗黒城の廊下をいつもとは違った光景にしている。その中を並んで歩きながら私は話し出した。
「自警団、一度は見ておかなきゃと思ってたの。それにライム達が作った関所も最終の仕上げまではチェックしてなかったし」
「ふーん、オレの報告だけじゃ不安か?」
別にすねてるとかじゃなくて、普通の顔でしれっと言うラスプに慌てて手を振る。
「あぁ違うの、あなたの事は信頼してるけど、やっぱり自分の目で見て初めて気付くことってあるでしょ? 椅子の上でふんぞり返ってるだけの王様にはなりたくないから」
種族的には人間だし、号外に顔も載せていない私は『いい魔族作戦』には参加できていない。だったらこういう所から頑張っていかないと。
そんな真面目な事を考えていたのに、ふと妙な視線を感じる。横を見上げると、狼人間は珍妙な生き物でも見るかのような目でこちらを見ていた。
「……なによ」
「いや、食い物関係じゃなくてもそんな真剣な顔ができたのかと驚いてる」
「ちょっと、どういう意味それ!?」
怒って肩を叩こうとしても笑いながらひょいとかわされてしまう。グーパンチをパシッと手のひらで止め、彼は口の端をつり上げた。
「握りが甘い、ただ正面から突き込むより、しっかり腰を落として下段からいけ。そうすりゃ酔っ払いくらいは倒せる」
人に教えるのなんてガラじゃないとか言ってたくせに、的確なアドバイスがなんだかサマになっていて悔しくなる。
「……私も自警団入ろうかな」
むくれながら手をグッパしているとトスッと頭にチョップを落とされた。視線だけを上げればいつものしかめっつらが少しだけ緩んでいて、仕方ないものを見るような目つきがなんだか妙に柔らかかった。
「いいんだよ、お前はオレ、」
「?」
コンマ数秒、少しだけ目を見開いて逡巡したラスプは不自然にならないギリギリのところで言葉を次いだ。
「……達、が守るんだから」
「わっ!?」
そのまま押さえ込むように頭をわしゃわしゃとされる。ちょっと、乱暴!
「髪! せっかく手首ちゃんにセットしてもらったのに!」
「たいして変わんねぇよヒヨコ頭、ほら置いてくぞ」
「もーっ!」
背中を見せてさっさと行ってしまうしっぽを、私は手ぐしで直しながら駆け足で追いかけたのだった。
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