44.おいでませ勇者ご一行
ズバリと切り捨てたエリックはその横をすり抜け旅立とうとする。
「ああああっ!? センパイ何で!? ひどい!!」
「遊びに行くんじゃないんだぞ」
追いすがるように服の裾を掴まれるが無視してそのまま歩い……重い。早く離して欲しい、割と本気で。
「いいじゃないスか~ちゃんと他の騎士隊員にも許可とってますから! オレが隊の中で一番の実力者なんでお供の座を勝ち取ったんスよ! あ、もちろん一番の実力者ってのは隊長であるセンパイを除いてですけど」
しばらく立ち止まってその顔を嫌そうに見つめていたエリックだったが、それはそれは重たいため息を一つ落とすと再び歩き出した。
「殉職しても恨むなよ」
「お任せ下さいな~!! このオレの双剣でマモノどもをバッサバッサと切り捨てぇ……センパイの背中はオレが守る!!」
友好条約を結べるかどうかの調査だということを、向こうの地に着くまでにこのアホな後輩にみっちり叩き込まねばならない。
その無駄な労力を悟り、勇者は痛み始めた頭を抱えたのだった。
***
「だぁーっはっはっは!! 売り切れ続出? 刷っても刷っても片っ端から売れてく!? 笑いが止まらんねこりゃ!!」
まるで自分の部屋のように執務室のソファで足を組んでいるリカルドが、入って来た私に片手を軽く上げながらも通信魔導器を耳に当て誰かと――たぶん向こうの新聞社さんと話をしている。私はその向かいに腰かけてバサリと号外新聞を広げてみた。しかし冷静になって考えてみれば、こんな政府に喧嘩売るような記事をよく載せてくれたものだ。
「あ? 結果論で話すなって? いいじゃねぇか、俺とおたくの仲だろう。おい怒るなよ、わかったわかった、例のデータは責任持って後でそっちに送り返しておくから」
…………やっぱり正攻法とは言えないやり口だった可能性が。向こうの新聞社さんに会う事があったらお詫びの菓子折りでも渡しておこう。
「じゃ、調査に来たら『報道の自由』を主張して、最終的には俺の責任にしておけ。しばらくはこっちに居るつもりだから。あぁ、あぁ、次の記事もコウモリに運ばせる」
話を聞く限り、号外のインパクトは相当な物だったようだ。これでトゥルース新聞社の名も爆発的に広がったことだろうし、今後もその新聞社を通して私たちのいいイメージをアピールできる事だろう。
ここでチラリと私を見たリカルドは、ニヤぁっと笑って電話口の向こうにこう伝えた。
「もし本当にヤバくなったらアンタら新聞社ごとこっちの国に来るってのも悪くないかもな、何たって今回の作戦の要だ、魔王サンも快く受け入れてくれるってよ」
なぬっ!? それは聞いてない、言ってない。いやまぁ、私たちの責任で追われるような事になったらそりゃ受け入れるけど。
私の物言いたげな視線を感じたのだろう、リカルドは軽く笑って相手との会話を締めくくり通信を終えた。
「国民の反応は上々。城からのアクションはまだ何もないが、予想だと新聞社に調査が入るか――まぁ少なくとも俺は指名手配されるだろうな」
「指名手配って……本当に良かったの?」
「悪いと思うんなら、早いとこ国として認められてこの号外記事を『世紀の大正義報道』にしてくれや」
前回は手にするだけで食べなかったラスプと手首ちゃんお手製のクッキーを口に放り込みながら彼は軽く言う。そうだ、リカルドを犯罪者のままにさせないためにも頑張らなくちゃ。
「ま、これで俺は一気に売れっ子ライターだけどな! もう朝から「ウチのとこにも記事を書いてくれ~」って他の新聞社からコンタクトがじゃんじゃん来てワハハハ」
前言撤回。この人ならどんな環境でも生きていける気がする。
「トゥルース社と専属契約結んでるけど、別名義で書くかぁ~? ダハハハハ」
「あなたがこの国に飛び込んできた理由が何となくわかった気がするわ……」
「先見の明と度胸があったってことだろ? そんなに褒めるな、照れるじゃないか」
軽い調子で立ち上がった彼は、続報の記事を書くため取材に出かけると言う。去り際に思い出したかのように振り返り、次のような要望を出した。
「そういや、住むところはこの城以外にはねぇのか? 俺もしばらくこっちに居を構えるつもりだが城下町としてもうちょい体裁整えた方がいいぜ、その方が記事を書くときもサマになるからな」
それだけ言い残し、出かけて行く。
うーん、城を中心にした城下町づくりか……確かに今のままじゃお城があって、ちょっと離れた位置に下の村があるだけだ。
下の村って呼び方もアレだし、いっそこちらに上がってくるようにメインストリートを作って、その両脇に色んなお店とか家を建てて、ゆくゆくはそれらを城壁で囲って大きな城下町にしちゃえばいいんじゃないかな。
「う……」
そこまで考えた私は、紙にでも構想をまとめておこうと立ち上がりかけてクラりとめまいを感じた。
やだな、ここのところずっとこうだ。疲れでも溜まってきてるのかな……いいや、でも休んでる場合じゃないし。建国宣言をして、戦争回避できるかどうかここからが正念場なんだからしっかりしなきゃ。
「主様、どうかなさいましたか?」
後ろからの声にゆるゆると振り返ると、ルカが怪訝そうな顔つきで入ってくるところだった。彼は抱えていた書類を真ん中のローテーブルに置くと私の側によってきて額をぺたりと触る。
「体調が優れませんか? 熱はないようですけど」
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