第43話 一方、校長室では山本先生が

 一方、校長室では山本先生が、校長先生に、ダンス同好会の発足条件、中間テスト平均80点以上、部員5人以上を達成したことを報告していた。

「というわけで、ダンス同好会の創部を認めていただけますね。校長先生」

「ああっ、しかし優等生の三好君やその妹の真理君が、まさかダンス同好会には入るとはな」

「何か、問題でも?」

「優秀な生徒が、あんないかがわしい部活動をするなんて……。野球部でも、その実力は折り紙付きと聞いていたんだが」

「それは、本人の意思を優先すべきでしょう。それに、あの三好兄弟、ダンスの腕も相当なものですよ。わたしもよくわかりませんが、美晴さんが入部を認める条件のダンス、まるで、プロの社交ダンスを見ているようでしたよ」

「社交ダンス? まったく近頃の生徒は。異性が抱き合って踊るとは!」

「校長、しかし、あの子たちは出された条件を見事クリアしたんです!」

「ああっ、分かっている。同好会の創部は認める。そうしないと、わしの頭の毛が持ちそうにない」

「はっ、毛?」

 そう言われて、校長の頭を見ると、校長のバーコードはげは、周りの毛を頭頂に持ってくるのが無駄な抵抗と思えるぐらい薄くなってきているのだ。この一週間ぐらいの間に。

「君たちに、中間試験の問題を難しくするように指示を出した日から、毎晩、夢の中で、藁人形に髪の毛をむしられるのだ。それに、朝起きれば大量の抜け毛が……」

「そんな、気のせいですよ」

 山本先生は、その変化を目の当たりにしながらもお世辞を言った。

「いや、今も毛が引っ張られている気がするんだ。ほら見ろ」

 校長が、手櫛(てぐし)で髪をなでると、その手には髪の毛の束が絡みついている。

「校長先生。もう大丈夫ですよ。きっと心労が重なったんです」

「そうか、まあ、確かにわしも露骨だったと反省していたところだ。同好会の部員には、校長が快く、創部を許可したと伝えておいてくれ」

「はい、わかりました」

「けっ、恨みを買ったてめえの自業自得だろう」がと喉から出そうになった言葉を飲み込み、山本先生は校長室を後にした。



 もちろん、私たちは校長と山本先生の間で話された毛髪の心配は、まったく知らない。ただ、真理の話から校長が創部を認めてくれるだろうという事は予想できた。

 それでは最後の障害、生徒会です。

 私は長田君に目配せで、生徒会室の扉をノックさせる。あら、私ったら、目線と顎で人を使う癖がまだ残っていましたか?

 そして、長田君を先頭に、生徒会室に入っていった。

 まったく根回し無し。いきなりの訪問です。さて、なんとかなればいいんですけどね……。

 まずは、長田君が挨拶とともに、訪問の主旨を述べます。

「こんにちは、あの僕、2年4組の長田と言います。ダンス同好会の創部の申請にやってきました」

「ダンス同好会の創部だって? 誰か聞いてる?」

「さあ、聞いてないなあー。会長は?」

 やっぱり、生徒会の役員たちは初耳だと言うように周りに訊ねています。そして、名指しされた会長は一番奥に座っている女性の人ですね。

 私は、そちらに目を向けた瞬間、背中に悪寒が走り抜けます。

 私の目には、艶の良い黒髪が、一瞬ピンクのふわふわの髪に見えたのです。もう一度、良く目を凝らせば、やはり濡れているような艶やか黒髪に、窓からの光りを受けて、天使の輪が輝いています。

 綺麗に手入れされた、日本人独特の黒髪を、見間違えてあの忌まわしい過去を思い出すなんてどうかしています。まあ、顔の方はへのへのもへじなんですけど。

 私が、一瞬会長と呼ばれた人に気後れしている間に、その人はアッと言う間に私との距離を詰めてきます。まるで、部長?の長田君が目に入らないように……。

 この身のこなし、油断がならないわ! 私は小さく、しかし、自分に言い聞かせるように呟(つぶや)いた。

「こんにちは、私は会長の大野薊(おおのあざみ)。何か生徒会に御用かしら?」

 良く通る透明ボイスで、内心にあふれる自信を、声に乗せて威圧してきます。

 この会長の動きに合わせて、私の前に出ていた真理を制して、私は大野さんに微笑みます。

「こんにちは、そのダンス同好会を作りたいので、申請にきたんだす」

「えーっ、あの落書きだらけの部員募集のポスターのところだよね? よく部員が集まったんだ?」

 なにこの女、さっきと声色が違うんですけど? 甘ったるいでかわい子ぶる声で、語尾をしっかりあげてくるのです。単純に感心しているのか? それとも何か悪意があるのか? 私が返答に困っていると、前に出ていた真理が私に小声で囁いた。

「この大野先輩は、3年生で一番頭が良くて、男子からの人気も一番で、うちのにーちゃんも憧れている女なんです。しかも何やらせてもソツがのうて、本心を見せんやり手なんです」

 なるほど、油断のならない相手ですか……。

「あら、三好さん。成績が良くて何やらせても如才(じょさい)無くこなすのは、そこの美晴さんも同じではないかしら? この少子化で、どんどん廃部になっているのに、仲間を集めて新しい部を創るなんて、凄くない?」

 この女、私と真理の内緒話を盗み聞きして、聞こえた内容をそのまま、表現を変えてオウム返ししてくるなんて……。

これは、とっとと用事を済ませて早く帰ったほうがいいみたいです。

「あの、同好会の創部について、生徒手帳に書いてあった条件、顧問と5人以上の部員、それから、部室の使用許可を校長先生からいただいていますので、申請にやってきたんです。

 申請用紙を頂けませんか?」

「ふんふん。なるほど、中間テストの平均点80点以上をクリアーしたんだ?」

 また語尾上げ変換ですか? 鼻につく野郎です。でもなんであの職員会議の内容を知っているの? 学校から通達か何かあった? でも他の役員たちは、まったく知らない雰囲気でした。どういうことなの?

 しかし、役員の中にも、今の会話はわからないというように、質問が飛んだ。

「会長! それってどういうことなんですか?」

「ああっ、あなたたちは知らなかったんですか? 職員会議での話。そこの美晴さんが校長に演説ぶって、いかがわしいダンス同好会を先生方に認めてもらう条件が、部員の平均点80点以上だったのよ。しかも、先生たちの嫌がらせも何のその、みごと長田君を仲間に加えながら創部条件を勝ち取ったんでしょ。部員のメンバーが知りたいところだわ。井上副会長、創部申請書を美晴さんに渡してあげて」

 おかしい? この大野という生徒会長、知りすぎている。これは……、私たちの敵ですか?

 私が敵認定しようとしたところで、長田君の話題が生徒会役員の間に上りました。

「はい、会長。しかし、長田が居てよく平均80点いったなあ~」

「井上副会長、無駄口は叩かない!」

「はい」

 なになに、長田君って、生徒会役員でも既知のポンコツぶりなの? まあ、私も勉強を見て頭を抱えましたが、あれを小学生の時からかましていれば、小中一貫教育のド田舎じゃあ、知れ渡っているのは仕方ないですか。

 私が自分の手腕に自画自賛していると、井上君が創部申請書を持ってきました。

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