第42話 長田君、穂奈美、田中君、三好君と真理を部員として

「長田君、穂奈美、田中君、三好君と真理を部員として迎えようと思います。いかがですか?」

「もち、賛成!」

「美晴さんが、良ければ」

「ルートが増えることは嬉しいが、ライバル出現は面白くないな。なら、ここの選択肢は……」


「田中、俺はお前の引立て役だろ。よく、恋愛シュミゲーにある。ほら、さえない主人公を引き立てるイケメンモテ男がさ」

「た、確かに、ヒロインはそのイケメンと主人公の行動を対比して、だんだん、主人公に引かれて行くんだ。よし、俺も二人の入部を認めるぞ!」

 私は、それは絶対にないわ。と思いながら、三好君、あなたも恋愛シュミゲーなるものをするのかと疑問に浮かんだ。

 しかし、その考えを遮るように、山本先生が言葉を発した。

「さあ、それじゃあ、私は、校長先生の所に行って、正式にダンス同好会が発足したことを報告してくる。長田君は生徒会室に行って、ダンス部の創部申請書を提出してきてくれ」

「僕がですか?」

「だって、お前がダンス部の代表者だろう」

「まあ、まあ、長田君、私も一緒に行っくから」

「アンナが行くなら、私も!」

  私の言葉に真理が続いた。それじゃあ3人で行きましょうか。

 私はここまでの苦労に思いを馳せた。

ここに、神秘スターを持つ6人の仲間が集まった。奇しくもアメリーナ王国の建国伝説と同じ、男女比も同じ男3人女3人だ。確か6星剣聖の伝説も、友情あり、恋愛あり、裏切りあり、そんな感じの建国物語だったけ?

6星剣聖の一人だったガルシア侯爵家のご先祖様は、未来予知の能力を持っていて、その予知を頼りに他の5人の剣聖を見つけ出し、何度も危機に陥った6人の仲を宥(なだ)め透かしながら右往左往する苦労人だったけ。

私は手相だけでなく最近は易にも凝っているのです。苦労と災難は避けて通らないといけませんからね。

あれ、今の私と立場が似ていない? だとしたら、ご先祖様が最初に出会ったアメリーナ王国の初代王は私が最初に目を付けた長田君? まさかね?


「ところで、長田君、校長のところに向かった山本先生、大丈夫かしら? また校長に難癖をつけられたりして……。一応、校長って山本先生の上司でしょ。あの校長のことだから、パワハラとかありそう」

「あっ、アンナ、それは心配いらへん」

「あら、真理はなんでそう言い切れるの?」

 そこで、真理は立ち止まって、私の袖を引っ張り長田君から離れます。そして、長田君に聞こえないように、私の耳元で声を落として言うのです。

「うち、この世界でも魔法が使えるねん。まあ、前世と比べたら、ショボショボなんやけど」

「真理、あなた凄いわ! 私には前世も魔法属性はなかったけど……」

「しっ、それでアンナは知らんことやねんけど、うち、アンナが死んだ後、復讐を誓って、地下組織に潜りこんだんや」

「真理、なんて危険なことを!」

「まあ、まあ、うちのエルテ領も取り潰しになって、うちも行く当てなんかなかったし、そこで諜報と暗殺のスキルを学んだんや」

「エルテ領もかー。マンガの「アメリーナ王国の花嫁」と同じ結末なのね。とそれが山本先生となんの関係があるの?」

「うち、暗殺のスキルの一つ、呪いを校長に掛けたったんや」

「まあ、それはやりすぎです。大体、この世界で魔法を使うなんて卑怯です」

「魔法ゆうても、大したもんとちゃうで。校長の髪の毛を仕込んだ藁人形で、毎日、毎日、髪の毛抜けろ、髪の毛抜けろゆうて、五寸釘を打ち込むねん。ほんなら、効果てきめん、校長の頭、どんどん薄うなってんねん」


 私は、職員室で前に座っていた校長の頭を思い出した。確かバーコードハゲで、横や後ろの髪を、一生懸命前に持ってきていたはずだ。無駄な抵抗なのに。

 真理の話によると、その抵抗もむなしくどんどん河童ハゲになりつつあるらしい。

 私は真理と顔を合わせて、お互いに噴き出してしまった。

 ああっ、相手の顔や表情がわかるなんて、なんて素晴らしいことだろう。もっとも私の真理の顔の認識は、シンディだったころの表情とダブっているんですが……。

「アンナ、それから、杏奈をいじめる奴らには、最大の呪いを掛けてるから、いじめに屈することはあらへんで」

 真理は、さらに顔の表情を悪くする。

「あら、最大の呪いって何かしら?」

 私は、いくら虐められているとは言え、あまり酷い目に同級生たちが合うことに、少し心配になって真理に尋ねた。すると、真理はまじめな顔で標準語で私に返してきたのだ。

「最大の呪い、それはタンスや机の脚に小指をぶつけることやん」

「「ぷぷっ!!」」

 私は、盛大に吹き出してしまった。それにつられて真理も噴き出している。

「それくらいの罰は必要ですよね」

「せや、当然の報いや! アンナが気にすることあらへん」

 悪そうに含み笑いをする真理に、私はこの世界では、魔法と言っても所詮(しょせん)こんなものよねっと、安堵したのだった。

 少し、離れたところにいる長田君は、私と真理の表情がころころ変わるのを見て驚いていた。

「美晴さんって、あまり表情のない女の子だったのに、三好さんと話すときは、凄く表情豊かになるな」

 そう呟(つぶや)いた長田君の声を聞いて、私は確かにって考えていた。だって今までは、相手の表情がわからなかったんだもの。それは、女優のように相手の反応がよくわからない舞台上で、自分を演じることしかできなかった。でも今は、真理の表情がよくわかる。まるで演芸会で、客席と掛け合い漫才をやっているみたいに、楽しんで会話ができるのです。

「ごめんなさい。長田君。話は終わりました。さあ、生徒会室に行きましょう」

 私たちは、再び生徒会室に向かって歩き出した。


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