第44話 私は、その申請書に必要事項を記載していく
私は、その申請書に必要事項を記載していく。まあ簡単なことばかりだ。同好会の名称に、活動内容、顧問と部長と部員名の名前と学年とクラス。
活動内容に、ダンス、主に社交ダンスをアレンジしたヒップホップダンスで全国制覇を目指すと書いておきました。黙っていてもいいんですけど、やはり野望は、言葉にしてこそ、実現できる可能性が上がりますからね。
それだけ記入すると、会長に申請書をお返しする。
それを読み終えた会長は、一拍置いて私たちに視線を向ける。
「ふふっ、生徒会から、ダンス同好会の創部許可には、条件があります! 私の入部を認めること。それから、これ以上、部員を増やさないこと。 以上です!」
「「「えーーっ!!」」」
やっぱり、この大野って人は何を考えているのわかりません!
「何を驚いているのですか、美晴さん? ダンス同好会のポスターに掌に神秘星型がある人募集って書いてあったでしょ」
大野会長はそういうと、私の前に、両手を広げた。私の自己中と三好君のカリスマを足して二で割った手相で、左手の掌には確かに神秘スターが輝いている。そして、気になるのは頭脳線が平行に二本走っていることだ。
――確かこの手相の持ち主は、表と裏がある二重人格者だ……。
「確かに……。それにしてもどうして?」
私は疑問を返すのがやっとです。
「だって面白そうだし、大体、私を抜きにして全国を勝ち抜こうなんて、仏作って魂入れずでしょ。それに他にメンバーを入れても足を引っ張るだけでしょ。後、大会まで2か月無いんだから」
確かに、これ以上のメンバーの補充は8月の大会を考えれば正論だと思う。長田君、穂奈美、田中君を仕込むだけでも時間が足りないと思っていたぐらいだから。でも、この生徒会長の大野さんって、ダンスが踊れるのかしら? 自信ありげなのはわかるけど。
「あの、大野会長? ダンスが踊れるんですか?」
「やだ~。杏奈。当たりマエダのこんこんちきよ!」
あの……。そこはクラッカーじゃあないかしら。この人、やっぱり人格障害があるのかしら? ある時はぶりっ子、ある時は横柄な周りを見下す王女様、そして馴れ馴れしいおやじギャル?
そこで、隣に立つ真理が私に囁いてくれた。
「アンナ、この会長、いつもこんなもんです。腹の底が見えんけど、ここは従うしか……」
なるほど、その通りね。好き嫌いはいけませんって、いつも親に言われていますし。
「ダンスが踊れるなら、大歓迎です。ぜひとも、ダンス部に入部してください。お願いします。大野会長」
「ダメ・・・。そこは、アザミって呼んでくれなきゃ~」
もう、めんどくさい人だ……。
「今、めんどくさい人って思ったでしょ? そう、私は面倒臭いお・ん・な・。
でも、そこがたまらないってみんな言うのよ」
「……?!……」
なにこの発言? たまらないって誰が? こんな性格破綻者、誰が相手にするのよ! そこまで考えて、前世で会ったことがあるような? まあどうでもいいです。私をイライラさせようとしたってその手には乗りません。
私は前世の足跡(そくせき)、使い方を間違っているような……、を反省して、忍耐強い女を目指しているのです。男は絶対に忍耐強い女の方が好みに決まっていますよね。
おっと、いけません。また女性と張り合おうとするなんて……。私は頭を冷やし、思考を整えます。
「アザミ先輩、ダンス同好会に入部してください!」
「先輩? あら。それはそれでいい響きだわ。私、木に登ちゃいそう」
いや、別におだてていませんので。
「これだけ懇願されると、ダンス同好会に入らざる負えないわね。申請書に私の名前を追加しますよ。それで、なんと同好会メンバーは7人になりました! この同好会にワイルドセブンって、ふたつ名はどうかしら?」
いや、自分からノリノリで名前を追加しているんですけど。えっ、部長もされるんですか? 副部長欄には長田君の名前がしっかり書かれている。
そうですか? 長田君は格下げですか。
それに何ですか、ワイルドセブンって二つ名って? なんか、次から次へと殉職しそうな名前なんですけど?
さらに、言葉を続けるアザミ先輩。
「さすがに、ワイルドセブンは、無いわよね? かっこいい7人だから、クールセブンでいいですか?」
「あっ、なんかかっこいいです。それでお願いします」
私は、アザミ先輩の話を断ち切ろうと、素早く同意する。確かに、チーム名としては、悪くない。しかし、そこでさらに続く発言が、混乱を招く。
「でも、七人と言えば、北斗七星を連想させます。それは、天空の守護者、死を司る破滅の象徴。だがしかし、死こそが新たな始まり、前世の咎(とが)を背負う者たちが成し遂げる業……。かっこいい7つの新星(クール・セブン・ノウヴァズ)でいかがでしょう?」
いかがでしょうって、申請書の部活名の所を消して書き直しているじゃないですか? それはもう何の部活かさえ分からないですよね。アザミ先輩、ひょっとして中二病、いまだに現役を続行中ですか? でも、そこになにかメッセージが込められているように気もします。私が感じた6星剣と同じように……。
真理も、私に同意なのか、それとも呆れて思考が停止したのか。もうアザミ先輩が私に害をなさないと判断したのか、肩の力を抜いて目からも緊張が抜け落ちている。
私は真理の表情だけは読み取ることができるのだ。
ほーっと息を吐き、そして、生徒会役員に向かって宣言する。
「クール・セブン・ノウヴァズの創部の申請をします」
「クール・セブン・ノウヴァズの創部を許可します。さーあ、忙しくなってきましたよ!」
アザミ先輩は、弾んだ声で私たちに呼びかけたのだった。
「長田君、副部長の仕事を頑張ってね。私、決して見捨てたりしないから」
長田君にそう言って、私たちはげっそりしながら生徒会室を後にした。
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