第40話 先生は、みんなを見回して言った
先生は、みんなを見回して言った。
「私だって、校長先生のやり方には、憤りを感じているんだ。こんな一方的な自分勝手なルールを生徒たちに押し付けるなんて」
私は、はっと気が付いた。
「そうか! 点数じゃなく、偏差値にしてもらえばよかったんだ」
「ははっ、そうだよ。あの時、さんざん基準がとか尺度がとか言っていたのにな」
「まったく、面目ありません」
そうなのだ。あれだけ、先生たちに向かって演説ぶったのに、校長の出した条件が、公平な基準かどうかの判断ができていなかった。山本先生はそのことに気が付いていたんだ。
「そういう訳で、私の独断で、三好兄妹の入部届を受け付けた。三好雄二の平均点は87点、それから、三好真理に至っては、平均97点、一年生の最初のテストで、問題も簡単だったとはいえ、大したものだ」
「えーっ、それなら……」
「ダンス同好会の平均点80.6点、見事、校長の出した条件をクリアーだ」
「「「「やったー!!」」」」
みんな、喜んでいるけど……。
ちょっと待って、私、三好君のせいで、いじめられたこともあったんだよ。確かに、でっかい目標もあるけど、三好君が入ることで、また三好君を慕う女の子たちに足を引っ張られかねない。
私はいいけど、ダンス部全体が攻撃されたら、長田君、穂奈美、田中君に申し訳ない。
「ちょっと、待って。三好兄妹の入部を認めた訳じゃないわ。どうせ、面白半分の冷やかしでしょ。そんな人に入られると困るのよ」
「なんでアンナは、うちらを信じられんの? こんなに慕ってるのに、おかしいやん」
なに、この三好妹、私の事をアンナって呼んで……。それに、この言葉使い、なんで大阪弁なの? でも、すごく懐かしく感じるのはなぜかしら?
「真理、そんなに興奮するんじゃない。じゃあ、美晴さん、どうすれば僕たちが、まじめにダンスに取り組もうとしている態度を示せるかな?」
三好雄二君が、訊ねてくる。
「じゃあ、ダンスをして見せてよ!! もう、全国大会まで、いく日も無いんだから、私たちの足を引っ張られても困るのよ!」
私は保身を考え、言動を荒げてしまう。そして、私はダンスなんか踊れずはずがないと、確信して、三好君に言い放った。
しかし、三好兄妹は顔を見合わせ頷くと、教室の中央に手を取って進んでいく。その優雅に歩く姿、背筋が伸びた姿勢、この二人、できる!
「ワルツをかけてもらえるかな?」
三好君の声に合わせて、ダンスの定番曲、ウインナーワルツの音楽を掛ける。
そして、二人が向かい合って、腕を組むとスーッとサイドステップする。さらに音楽に合わせて、前後左右にステップを踏む。そしてターンに決めると、ポージング。
その二人が躍る姿に、部室に居る全員が魅了されている。
そして、曲の盛り上がりでは、さらに動きが激しくなり、連続するターンを決めた後、二人は、スーッと離れて別々に踊り始めるんだけど、しかし、二人の踊りは調和がとれている。
それに、三好妹の踊りは……、私のプロモーションビデオの動きと全く同じなのだ。
それに、合わせた三好雄二君は、三好妹をフォローするように、ダンスのアレンジを入れてくる。
アレンジまで……、一体、なぜ?
私は、三好兄妹が、私のプロモーションビデオを手に入れ、二人で練習していたことなんて知らない。
私の前世の記憶が、その二人の才能に畏怖を覚える。
「美晴さん、どうしたの? 体が震えているわよ」
山本先生に言われて、私は自分の身体が小刻みに震えていることに気が付いた。
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