第39話 ああっ、わかったよ

「ああっ、わかったよ」

 あれ、田中君、普通の会話もできるの?

「もう少し、好感度が上がったら、告白イベントが待っているから!!」

 ああっ、やっぱり、ダメな人だった。

 クラス中に大笑いされながら、私はふらつく足で自分の席に帰っていく。途中、出された足につまずきそうになりながら……。

 席に着くと、心配そうに和田君が私の顔を覗き込んできます。

「美晴さん、大丈夫?」

「ええっ、大丈夫。中二病って凄いのね。こちらのダメージが半端じゃないわ」

「まあ、田中くんの場合は恋愛シュミレーションゲームの主人公だから、自分で恋愛マスターって言っているしね。

フラグが立てば、選択肢が出て来るんだよ。その回答で攻略対象のヒロインの好感度があがったり、下がったりするんだ。

「なるほど、恋愛駆け引きで言えば、別に普通じゃない。その……、選択肢を口に出さなければね」

「そうなんだけどな……。彼の目には好感度のゲージが見えるらしい……、はーあっ」

 長田君、そこで、ため息を吐(つ)かない。 

 好感度なんて、実際に見えるわけないでしょ。それこそ、設定よ、設定。

「ところで、長田君、ちょっと掌を見せてくれない?」

「な、なんで?」

「少し、気になることがあるのよ。早く手を出しなさい!」

 少し、きつめの口調で言うと、長田君はすぐに手を出してくる。

 なかなか素直でよろしい。そうして差し出された掌をみると、長田君の掌にも神秘星型がうっすらと浮かんでいる。

 手相って変わるものですからね。やはり私の勘は当たっていた。この神秘星型を持っている人が越山中のダンス部創部に係わる人たちなのよ。私の勘は確信に変わった。

 そういう訳で、田中君をダンス部に入部させ、いよいよ、不足している人数は後一人になった。ただし、神秘星型を持つ者は後2人。

あっ、もちろん、入部届は長田君経由で渡したわよ。なるべく、フラグを立てないように。

 そして、ポスターには追加記載が……。

「手のひらに神秘星型がある人、求む!!」

 しかし、部員の補充はそこまでで、ついに中間テストに突入する。

 私もテストは頑張った。しかし、おかしい。数学の代数は2次式の因数分解があったり、理科の化学式はまだ習っていない元素記号があった。国語も社会ももちろん英語もだ。教科書の隅に書かれている。人物や単語、出来事など公立中学のくせに難しすぎない。

 私、公立中学の試験を舐めていました? 


 しかし、結果を見ると、やはりおかしい。

 みんな、点数が大幅に下がったと嘆いている。私も、私立中学が一年生の時から、有名高校受験を視野に入れて、公立より全然進んだ授業と難問に取り組んでいたが、平均点は95点、目標と言うか当然と思っていた100点満点には届かなかった。

 部室に集まった3人に点数を聞いてみた。若干一名は面倒臭かったが。

 一番やばい、そう思っていた長田君に確認すると、和田君の平均点は45点。問題の内容からすると、善戦したと言えるんですけど、目標より15点も低い。

 穂奈美は平均78点、田中君は82点。4人の平均点は75点。わたしが満点を取っていても届かなかった……。これで、ダンス同好会の平均80点はクリアできなかった。私は落胆して、床の視線を落とした。


 周りのみんなも、肩を落としている。

「ごめんなさい。せっかく、みんなに協力して貰ったんだけど、ダメだったわ」

「まだ、諦める必要はない。

1. 期末テストで、80点以上を取ります。と言って、校長にお願いする。

2. 越山中地下クラブに潜り、非公認で同好会を続ける。

3. このメンバー全員で、生徒会の役員になる

 選択肢を選べ!」

「あの、田中君、1は、まあ今の状態で、期限を2か月伸ばしてもらうってことですよね。あの校長がその条件で納得するかな?

2は、非公認で部活をするというのは、まあ、一番妥当なんでしょうけど、それじゃあ、私が目指す全国大会には出られないのよ。部活動の一環として、部としてでないと参加できないからね」

「ならば。3だな」

「あの……、田中君、私、3の設問の意味が分からないんだけど?」

 少し半眼になって、田中君の方を睨む。

「なぜ、好感度駄々下がりなんだ? そんな筈はない。恋愛シュミゲーのヒロインの設定は、美人幼馴染、美人クラスメート、美人転校生、辺りが王道。シュチュエーションは、クラスメート、同じ部活、そして、忘れてはならないのが、生徒会室という部外者侵入禁止区域でイチャコラする生徒会役員だ~~!!」

「――却下!――」

「な、なぜだ~~?」

「私たちは、あんたの恋愛シュミレーションゲームに付き合う気はさらさらない!!」

 強く言い放ち、蹴りあげた足から、上履きが飛んで田中の顔にヒットする。

 そして、ワアワア、ギャアギャア言っていると、突然、部室の扉が開き、三好兄妹と共に山本先生が、入ってくる。


「なにを騒いでいるんです。ダンスの練習はどうしたんですか?」

「でも、先生、中間で合格点が取れなくて、それで……」

 私は、アンナの記憶が戻ってからは、初めて、涙が溢れそうになった。ダメ、こんなところで泣いちゃあ。

「美晴さん。みんな、今回のテストは頑張ったんだよ。このテストは、細工されていたんです。校長が指示して、テスト範囲や指導要綱を逸脱した問題を数問出しているんだ。だから、全体の平均点も今回は、48点、いつもより10点ぐらい低くなっている」


「その位の嫌がらせはしてくるだろうとは思っていました。だから、それにも備えていたんですけど……」

「ああっ、美晴さん。貴方の答案はすごかった。ならってない所や重箱の隅を突っつくような問題さえ、たくさん答えていた。当然、学年1位だ」

「でも、ダンス同好会は……」

 私は、そのあとの言葉を濁す。善戦したが結果は結果だ。私たちは結果を受け入れなければならない。それとも、先生には何か秘策でもあるのか?

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