第38話 翌朝、学校に行くと

 翌朝、席次表を確認して、田中君の席に向かいます。その時、いつもなら、妨害工作に走る、クラスの女子たちが黙って、傍観していることに気が付かなかった。

私は椅子に座って、本を読んでいる田中君の傍に立つと、声を掛けてみた。

「ねえ、田中君、お話があるの。聞いてくれる?」

 私はかわいこぶって、猫なで声で話し掛けてしてみた。それに対して、田中君は本から目を離し、私に向かって視線を投げかける。

 その本は、ラノベと言われるジャンルに含まれる本の様です。だって表紙の女の子が、可愛くて、ちょっとエロいんですもの。普通なら恥ずかしくてブックカバーを付けていると思うんですけど……?

 田中君が何を考えているか、その表情からは読み取れない。って、だから、私は人の表情を判別できないんでしょ! チャンスが在ったら手相を盗み見てやる。

私は、一人ツッコミをしながら、田中君の発する言葉を待つしかない。


「おーっと、美少女転校生に、声を掛けられるイベントが発生。俺の回答は?

1. なんの用だろう。

2. 君のためなら、何でも言う事を聞くよ。

3. ここじゃあ、みんなに聞かれるから、場所を変えよう。

1は無難だが、初めて美少女転校生に話しかけられたのに、あまりにも素っ気ないか?、なら2は、イケメンの俺ならこんなことを言いっても、美少女転校生は、ぽーっとなって、返って恥ずかしがるか? 3は、この間、長田が使っていたな。これなら今後の展開もスムーズに行くか?

 うーん。好感度を上げるためには、どれを選択するべきなんだ……」

 なにこれ。心の声が駄々漏れなんですけど……。こっ、怖いです。なんですか好感度って? い、いらないです! 表情を読み取るスキル。まったくスキルが無効化されています。心の声が駄々洩れ何ですから……。もっとも、私には、表情を読み取るスキルは有りませんが。


「じゃあ、3で」

「~はあ~?」

「だから、ここじゃあ、みんなに聞かれるから、場所を変えよう」

ああっ、選択肢の3を選んだってことですか? なら、私はジト目になる。もう声もあきれ返っているに違いない。さっきの猫なで声はどこに行った。


「あーの、別に、聞かれても問題ない話なんで」

「ああっ、好感度が駄々下がりだ~~。それに。俺のライフポイントも! 選択に失敗したのか? いや、次の選択肢が……。ここで、正しく選択すれば……」

 なに、田中君の視界の端には、ステータスか何か浮かび上がっているの。また、選択が始まるわけなの?


「悪かった。俺の選択ミスだ。

1. 肩を震わせ、残念そうに泣く。

2. 天を仰いで、号泣する。

3. 机を叩いて、狂った様に泣きさけぶ」

おいおい、ここで泣いちゃうのかよ。あーー、もううっとおしい。ここは選択する前に、直球で行きます。

「あのね、田中君、泣かなくてもいいから。君が反省していることは十分わかったから。私はね、田中君に、ただダンス同好会に入部してほしいだけだから」

「え、選択しなくていいの。俺の演技力の見せ場なんだけど。えっ、な、なに、俺にヒロインと同じ部活に入れだって!」


 なんかわたし、美少女転校生からヒロインに格上げされています。あの……、そこは、私、悪役令嬢だからね。

 そんな私の考えなんて無視して、田中君はフラグ立てに勤(いそ)しんでいます。

後で長田君に聞いたんですが、フラグとはイベントで選択肢が発生することを言うんだそうです。はあ~、どうでもいいわ……、そんなこと……

「ここは、どう答えるべきか?

1. もちろん、入らせてもらうよ。そう言いなんがら、ヒロインに握手を求める。

2. いや、今、試験期間だから保留で、と結論を先延ばしにする。

3. そんな怪しげな部活、入るわけないと断る。

 あーあっ、俺は何を選べばいいんだ~~!」

 バカじゃない。こいつ、ヒロインの好感度を上げたいんなら、1しかないでしょ。握手は却下ですけど。

「こ、こうなったら、最終手段に運命を委ねる」

「最終手段?」

「秘儀、オーディエンス!! はい、1の人、2の人、3の人」

 なんと、私の周りのクラスメートたちは、田中君の言葉の投げかけに挙手を始めています。

 秘儀、オーディエンスって多数決の事かい! 私はツッコミたいのを我慢して、田中君の返事を待つ。多数決では圧倒的に3が多かったんですけど。


「1のもちろん、ダンス部に入らせてもらうよ」

 田中君が、手を差し伸べて来るが、ちらっと手相だけを盗み見た。手の甲から月丘に平行に伸びる手首と平行に走るオタク線。オタク線って気に入ったことにかなり入れ込むいい意味では凝り性のことを言うことよ。それに環状線が人差し指の根元まで伸びているロマンティストを地で行く妄想相だ。でも、その手のひらの真ん中には、私や穂奈美と同じように三本の線が交差する神秘星型がある。なるほど、異世界転生者の私と関わり合いになるのは必然かも知れない。

いや、私は確信した。これこそが、「アメリーナ王国の花嫁」の6星剣聖の伏線なんだと。私、穂奈美、田中君。私は6人の6星を集めなければならない。

そういうことなら決めた。私は差し出された掌を無視して私は頭を下げる。そして頭を上げると、思いっきりいい笑顔で微笑んでいた。

 いや、本当は、笑いをかみ殺していたんですが……

「田中君、ありがとう。後で入部届を持ってくるから、また、その時にお話しましょう」

 私は、もうすぐ予鈴が鳴るし、なにより、私のライフポイントが、駄々下がりでした。このまま会話を続けたら、好感度とライフポイントが、レットゾーンに突入して、生命の危険を感じます。

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