第37話 そういうわけで、ここのところ

 そういうわけで、ここのところ、部活動は完全にテスト勉強一色になっている。

 穂奈美は、何とか平均80点は行けるだろう。長田君は平均点ぐらいは取れないかな?

 もし、長田君が60点を取れば、私が満点で3人の平均80点がキープできる。

 長田君もテスト範囲の基本的なことは、何とかできるようになってきているのだ。まあ、今回は、テスト範囲も少ないからね。それに、公立なんだから、基本ができていれば平均点、すなわち60点ぐらいはとれるはずですよね。

 だから、今日はもう一つの問題、部員獲得について、和田君や穂奈美と話をしているんです。余裕の見せすぎかしら?


「ねえ、ダンス同好会を発足するためには、あと二人は人員が必要なんですが、誰かいい人いませんかね?」

「「うーん~~」」

「前に聞いたけど、部活に入っていない人が5人いたんでしょ。この中の長田君と穂奈美が、ダンス同好会に入ってくれたんだから、他にも入ってくれる人がいるんじゃないかしら。

どうかしら、3人の中で三国さんたちの派閥に入っていない人って」

「そうだな、田中君がその条件には当てはまるかな。でも、田中君は事故物件だな」

「事故物件?」

 なに、その言い方。性格が危ないの? 過去に自殺しようとしたとかなの?

 私が怪訝な顔をしていると、

「ああっ、田中は中二病なんだよ」

「中二病? なにそれ!」

「えーっ、杏奈ってそんなことも知らないの?」

「はい、知りません。中学2年になったら発症する病気なの? それは周りの人に感染する危険な病気なの」

「違うよ。そんな病気じゃないよ。周りの人を呆れさせるとか、疲れさせるというか、わかるかな? まあ、ブラックマターとか、この世を征服しようとする悪と戦う秘密結社に所属していたり、人間のリミッターが外れて超能力が使えたり……という痛い人のことさ」


 なんか、長田君が力説してくれているんだけど、話しの内容が良くわからないわ。それって、前世の記憶を持つ生まれ代わりの私も中二病ってことなの? 私ってかなり痛い子なんだ……。

「長田君、それじゃあ良くわからないよ。あのね、杏奈。簡単に言うと、自分を実際には存在しない、いえ存在するはずがない人物に設定して、そのように振る舞う人のことなんだよ」

「別に普通じゃないの。人は他人には、取り繕って見せるものでしょ」

「まあ、美晴さんが、話してみたらいいよ。ちょうど、田中君の設定にドンピシャだから。きっと色々想像を膨らませているぞ」

「私が、ドンピシャ?」

「あーっ、本当だ。ねえねえ、それ何時にする? 三国さんたちに報告しておかないと。ぷぷっ」

「なによ。その最後の笑い? なにが面白いの?」

「いやー、だって、ある意味、バツゲームなんだもの」

 なに、バツゲームって? 私がバツを受けるわけ? なにを言っているのかさっぱり分からないわ。相手は同級生なんでしょ。なら、私がビビる必要なんてないでしょ。いざとなったら、エクスカリバーを抜きますから。

 あれ、これが中二病ってことなの?


「よし、穂奈美、明日、田中君に話し掛けてみようかしら?」

「そうしなよ。田中君、顔もなかなか良いし、頭もなかなか良いわよ。友達と彼女が居ないことが大きな問題なんだけど……。状況が彼をそうしたのか、彼がそうしたから今の状況があるのか?」

「なに、なに、顔も良いし、頭も良いのに、友達や彼女が居ないの? 状況がそうした?」

 わけわかんない。それで、事故物件なんでしょ?」

「杏奈、本当に分からないんだ。えーとね、恋愛シュミレーションゲームって知っている?」

「なんとなくだけど……」

「田中(かれ)の日常が、恋愛シュミレーションゲームなの。彼はその中で、主人公を演じているのよ」

「なに、彼の頭の中はお花畑なの?」

「杏奈、説明は難しいわね。百聞は一見にしかず。田中君と話してみることをお勧めするわ」

「穂奈美、もう教える気は無いようね。いいわよ。明日、田中君に話し掛けてみる」

 そんな風に、話しを終え、部活動時間いっぱいまで、中間テスト対策の勉強に没頭した。

 明日からは、こんな風に教えることができないのです。放課後、教室に残って勉強しようにも、下校時間が早くなるし、図書室も私語厳禁、ファミレスは越山町にはないし、お互いの家に言っての勉強会は……、私たちはまだそんなに親しくありません。

 長田君に独力で頑張るように言い聞かせ、今日は家路に就いたのです。


 その夜、穂奈美からメールが入りました。

 穂奈美は、三国たちに「美晴が穂奈美と長田君に部室でハブられ、新しく部員を勧誘するために、田中君に明日声を掛けるみたい」とメールを送ったら、大爆笑で、メールが返ってきたんです」というメールの内容だった。

 なに、田中君って、なかなか一筋縄ではいかないようですね。ってどうやら私は、大きな勘違いをしていたようです。その時は、私は派手に勧誘に失敗して、クラスの笑い者になると田中君に会うまでは、そう思い込んでいた。


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