第36話 そして長田君が出て行った後

 そして長田君が出て行った後、私たちは二人で東京の話をしていた。高橋さんの話を聞くと、東京に親戚がいてゴールデンウィークみたいな長い休みの時は、時々東京に遊びに行っているみたいなのだ。

 そして、こないだのゴールデンウィークの時に行ったのは原宿。私たちは、どうやらニアミスをしていたようなのだ。

「ねえ、もしかしたら、私たちすれ違っていたかも? 気が付いていたら、声を掛けてくれたらいいのに」

  いや、私はあの人混みの中で、高橋さんを見分けることはできませんから。

「でも、すごい人の数ですからね。私も友達と出かけていたんですが、逸れてしまって……。今は携帯があるから助かりますよね」

「美晴さん。携帯持っているの? だったら私とメールアドレス交換してよ。学校じゃあ禁止されているから使えないけど、夜とか携帯で話できるでしょ」

 そういうと、高橋さんは私にメアドを書いた紙を渡してきた。それで私もメアドを高橋さんに渡す。

「うん、そうだね。帰ったら携帯から連絡してね」

 そうやって、私は越山中で初めてメアドをゲットした。


 その夜、この土地に来て、初めて新しく登録されたメアドからメールが来た。

 そのメールには、芸能人と会えるスポットについて書かれていた。高橋さんがあった芸能人やその場所、そして私にも情報提供してほしいって書いてあった。

 いや、高橋さん、あなたのほうが私より芸能人に遇っているから……。どうやら、高橋さんは芸能人に遇えるから、東京が好きみたいなんです。

 私は、高橋さんにメールを返信する。

「……凄いね(-_-;)、東京に住んでいたって、そんなに会えないよ……」

 

  そんなこんなで、ダンス同好会の部員は、3人になりました。それから、放課後は、3人で、中間対策の勉強したあと、ダンスの練習をしています。

 新しく入った高橋さんの下の名前は、穂奈美(ほなみ)さんという。

 同じ部員同士、部室ではファーストネームで呼び合うことにしたのだ。

 感動です。私、この学校でやっと友達ができたみたいです。


 穂奈美さんは、勉強のほうは、中の上、ダンスのほうはまあこれからですよね。でも、筋はいいのかしら。飲み込みが早くてセンスもいい。少なくとも、長田君みたいに、何度も反復練習しなくても、教えたことはほとんどその日にできるようになっている。

 その辺は、私のプロモーションビデオも役に立っているみたい。

 時々、ビデオのステップで、鋭い質問をしてきます。

「このターン、どこに気を付けてやればいいの?」とか、この「そっか、おへその軸と右足の付け根の軸、この二つの軸を意識して、交差させたり、ずらしたりするときれいなターンになるんだ」とか言っている。

 なかなか、核心に触れている。だから私も言ってあげる。

「そうなの。あと、足裏で床をしっかり押すことを意識するの。そうすれば、ステップするときの上半身の躍動感が全然違うでしょ」

「うん。本当だね」


 こうなってくると、長田君のレッスンはいい加減になってくる。

 クラスのうわさでは、美少女二人に言い寄られている長田君は、ウハウハの両手に花で、好き放題しているらしい。二輪車長田の二つ名を拝命しているようなのです。

 どうやら、穂奈美は結構かわいいらしい。

 ところで、ねえ、二輪車ってどういう意味? なにか卑猥な響きを感じるのですけど。

 しかし、実態は蚊帳の外の長田君。二人の会話に入ることもできません。


 それから、穂奈美は三谷さんたちに私たちに関するメールを送っていて、その内容は

「長田君は私にメロメロ。美晴は相手にされず、失意のどん底」とか。「ダンス同好会の部室の前にたむろする男子たちをしっかり追い返して、美晴の孤立化に成功」とか、あることないことを送っていたらしい。

 それで、最初は無視されていたメールも「よくやったね!」とか「ザマーー!」とかのメールが返って来るようになってきたということだ。

 今では、教室では穂奈美は三国たちのそばに立っていて、あのグループでの地位もかなり上がってきたらしい。

私は、穂奈美という二重スパイという強力な助っ人を手に入れることになったのだ。

最初は焦ったけど、――長田君、ナイス結果オーライです。


 穂奈美から、その後、三国さんたちとの関係はどうなっているかを尋ねると、なかなかうまく取り入っているらしい。

 最初は近づいても、シカトされていたみたいだけど、三国さんにメールでの定時連絡は、欠かさなかったらしい。

 部活で長田君に話し掛けて上手く私を孤立化しているとか、私目当てに入部しようとする中立派の第三勢力の男子たちを威嚇して、私に近づけないようにするとか、適当な報告をでっち上げるうちに、三国さんたちと、また話ができるようになったそうなのだ。

 穂奈美からそんな報告を受けて、私はほそく笑む。

 本当は、私と穂奈美が仲良く話していて、孤立化しているのは長田君である。それに部室の周りをうろついている男子は、ダンスを真剣にしようとしていないし、試験で役に立たないことが判明しているので、私が威嚇して、追い散らかしているのが実体なのだ。

 いいわね。穂奈美の二重スパイぷり。にせ情報に乗せられた三国たちは、部活動がこんなに充実しているなんて思いもよらないでしょう。

さて、そんな日常を過ごしていたら、あっという間に、中間試験の一週間前になった。

 今日を最後に、部活動も禁止になる。山本先生にテスト勉強で使うのはどうですか? と確認してみたが、それもダメだと言われてしまった。

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