第35話 長田君と高橋さんが、部室に飛び込んで来た

 長田君と高橋さんが、部室に飛び込んで来た。

 長田君は、上手く高橋さんを部室に連れてくることが出来たんだ。

「いらっしゃい。ダンス同好会にようこそ」

私は高橋さんの手を取った。手を引こうとした高橋さんをより引き寄せ、更に言葉を続ける。

「高橋さん。まあ、落ち着いてよ。私が東京で買ってきた東京バナナでも食べながら、話しをしましょう」

 そう言うと、そのまま休憩用に並べて置いてある椅子に座らせ、私もその隣に座る。

そして、長田君に持ってこさせた東京バナナを、高橋さんの手に持たせた。

「私、ゴールデンウィークに東京に行っていたのよ。ひょっとして、高橋さんも行ってた?」

「なんで、わかったの?」

「だって、友達にお土産を配っていたでしょ」

「それで、わかったんだ……」

「それからよね、三国さんたちとの仲がおかしくなったのは?」

 きっと、なんでわかったのよって顔をしているに違いないと思うんだけどね。さらに、言葉を続ける。

「なんでわかるかって? わかるわよ。私もいじめられているからね。高橋さん、会話の中で、東京に憧れているようなこといたんでしょ。三国さんたち、そういうことに敏感だからね」

「……そうなの。面白い所が一杯で、興奮して、大人になったら東京に出たいって、言っちゃったの……」

「三国さんたちは、東京に憧れる高橋さんに裏切られた気になったのよね。または、そうやって自然に口にできる高橋さんが羨ましくなったのかな。それで、また仲間に入れてもらう条件が、長田君への告白バツゲームね」

「……うん……」

「悪いけど、長田君は私の物よ。弾除けの壁にぴったりなんだもの。でも、そうね――。

 長田君が、高橋さんと付き合うために出した条件が、ダンス同好会に入るって言うのはどうかしら?」

 後は、あなたが選択するだけ。

 そう、高橋さんが告白して、長田君が出した条件がダンス同好会に入ること。高橋さんは、とりあえず長田君に振られるという屈辱の展開だけは避けられる。三国さんたちは付き合い始めた二人をからかおうと、一緒に居させるようにするでしょうけど、二人が一緒に居るのはダンス部部室だけ。

 この部室は、不良のたまり場にならないように、山本先生に睨まれているから、部外者は入れないのよね。山本先生直筆の張り紙が貼ってあるし。

 実はこれ、私が頼んで山本先生に書いて貰ったものだ。もちろん、「真剣身の無い人が、部室に出入りして、たまり場になると、校長先生を始めとする先生方が、それ見たことかと、山本先生を非難すると思うんですよね」と脅しを掛けて。

 本当は、私を虐めようとする人たちが入ってくると、うっとうしいことこの上無いからなのです。だから、この部室をシェルターにするためなのです。

それで、外部者には長田君は3人きりの部室で、私と高橋さんを二股かける鬼畜と成り果て、批難は長田君に集中して、私と高橋さんは同情されて被害は一切なし。

「あなた達が、実際に付き合うことは無いんだから、ある程度日にちが経てば、話題にもならなくなるでしょうし。もっとも、あなたが振られても、こちらは全く問題ないから、どっちでも構わないんだけど」

私は、高橋さんに余裕ぶって、選択を迫る。


「……あの……」

 長田君、何か用かしら?

「告白したのは、僕からなんだ!」

「ええーっ!!」

じゃあ、なに? 長田君が振られて、この話は終わり? 

私は、高橋さんに振られたキモい長田君と付き合っている最底辺の女のラベルを上書きされるの? すでに張られた2割引きシールの上に半額シールを張られた女なの?

いや、私には「美晴さんの純潔を守る会」の男の子たちがいます。彼らは、きっと私のことをボランティアガールと崇めてくれるはず? ですよね……。


 私の顔が、よほど呆気にとられていたのだろう。高橋さんがおかしそうに笑っている。

「ふふふっ、美晴さん。おかしな顔」

「あっ、うん、高橋さんもう帰っていいから……。外で様子を覗(うかが)っているクラスメートもいるみたいだし」

「まだ、私、長田君に返事をしてないわよ」

 そう言うと、長田君の手を取った。

「私をダンス部に入部させることを条件に、付き合ってあげます」

「「ほえー」」

 長田君が間抜けな声を上げた。いや私も無意識に声を上げていたみたい。


「もちろん美晴さんと同じ、フリよフリ。二人は付き合ってないんでしょ。今の会話でわかっちゃったわ。

それに、私を助けようとして、和田君、告白してくれたんでしょ。ここで、和田君を振ったら、私はノーダメージで三国さんたちの期待を裏切ることになって、私へのいじめが続くだろうし。ここは付き合うことにして、美晴さんたちの動向を探って、三国さんたちに報告するために、ダンス同好会に入ることを条件に付き合うことにしたって言うから」


 なるほど、色々と高橋さんも自己保身を考えているんだ。

 私と高橋さんはがっちり握手をした。もちろん、その隙に手相を盗み見る。

 なるほど、頭脳線が波打っている、自己保身の相だ。それに、金星丘はふっくらしていてダメ人間をほっておけない良い人だ。でも小指が短く、男には興味がないみたいだ。

 そして、驚くことに私と同じように掌に神秘星型を持っている。直観や霊感が強いらしいけど、何か私と惹かれ合うものがあるのでしょうか? これらの性格も私には好都合です。


「だって、ここなら、誰にも邪魔されずに、美晴さんに東京の事が聞けるもの」

「だったら、入部届を出してね。私も話し相手ができてうれしいわ」

 私はそういって、入部届を差し出して、学年クラス名前を記入してもらう。

 私は、高橋さんが書いた入部届を長田君に渡して、山本先生に出してきて貰うようにお願いした。


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