第33話 ゴールデンウィークも終わり

 ゴールデンウィークも終わり、越山中でも日常が始まる。中間試験まで、あと1か月ほど、長田君との勉強やダンスの練習に熱が入っています。

そうそう、長田君にはリサイクルショップで買ってきたお土産を渡したのです。田舎の家は大きくて、離れや納戸小屋を持っている家も多くて、一度手に入れたものは、決して捨てないで、代々保管している場合が多いのです。まあ物持ちが良いんですよね。

だからなのか、この辺りにはリサイクルショップと言う店がほとんどありません。私のお目当て、それは背筋矯正サポーター。新品を買うのももったいないですし、リサイクルショップはこういった健康器具やダイエット器具、例えば、おなかに巻くだけで振動でウエストが細くなるとか、足を開いたり閉じたりすることで、足が細くなるとか、腹筋できる座椅子とか。もっと大型になると、歩行マシーンやトレーニングマシーンなどなど。きっと、これらはすぐに飽きられてしまう運命にあるのでしょうね。なかなかに無駄遣いの代表アイテムのようです。

まあ、そんなわけで買ったサポーター。本当は「背筋真っ直ぐ養成ギブス」が欲しかったんですけど……。そんなものは当然ありませんでした。

長田君、喜んでいただけましたか?

それから、もう一つクリアしなければならない問題があります。

 それはダンス同好会の部員の勧誘です。こちらの方は遅々として進んでいません。ポスターは落書きだらけ、先生方にも不評。私が勧誘しようにも、話し掛けてもみんな無視して、取り合ってもらえない。


 そんな時、チャンスが訪れました。なにがあったか分からないのですが、高橋さんが三国さんや江坂さんたちとトラブッたみたいで、孤立している感じなのです。

 このチャンスをものにしないで、いつやるんだろう。私はさっそく和田君に手紙を回したのです。

「高橋さんにお土産を渡したいの。お願い、放課後にダンス同好会の部室に連れて来て」

 その手紙を見て、難しそうな顔をする和田君。

 確かに、私たちには難しいミッションです。シカトをしているくせに、高橋さんの動向はしっかり見ていて、高橋さんがなにか困ったことでもあったら、心の中でしっかり笑っているのです。まして、そこに和田君や私が近づけば、まさに炎上必至でしょう。

 しかし、我に必勝の策あり! だったらもう一度、私が掻き回せばいいのです。

 私は学校に行くときには、肌身離さず持っている2年4組の席次表兼恋愛相関図をもう一度確認します。

 そして、休み時間、私はトイレと職員室に行く以外に、休み時間に初めて?(だって記憶にないんですもの)席を立ちました。そしてトイレに行くふりをして、後ろのドアから教室を出ると、そのまま、前のドアから気配を殺して入ります。

 目指すは、三国さんの彼氏の庄田君の席です。

 やりました。完全に意表をついた私は大きな障害もなく、友達と話している庄田君の隣に立って、にっこり笑って話し掛けます。

「ねえ庄田君、私、ゴールデンウィークに東京に行ってきたの。これ、御裾分け」

 庄田君はすごくドギマキしてたけど、私が差し出した東京バナナを、思わず手を差し出して受け取ってくれた。庄田君もきっと意表を突かれたのね。表情は分からないけど、雰囲気でわかるわ」

「あ、ありがとう。でも……」

 でもの後のセリフは言わせない。きっと、三国に色々吹き込まれて警戒している筈。男を手玉に取るズルい女とか……。でも、庄田君、貴方も女性に話しかけられたら、こいつ俺に気があるのかって、勘違いする8割の方の人よね。

「庄田君、気にしないで、ちゃんと長田君にもあげているから。ほかの人にもあげたいんだけど、なんか私、嫌われているみたいで……」

 少し、悲しそうな顔をして見せる。

「あっ、だからもう行くね。庄田君に迷惑をかけちゃいけないから」

 私は、そそくさと庄田君の席から離れて、自分の席に帰ります。途中、引っ掛けようと出された足を、しっかり蹴飛ばしながら。

 さて、この後、どういう具合になるかしら。一応、三国を始めとする周りには長田君アピールはしておいたんだけど……。


 クラスの様子を見ていると、すぐに、三国と江坂と山中が、集まって話をしているようだった。そして、休み時間が終わって授業が始まっても、後ろから見ていると、頻繁に手紙が回っている。そして狙い通り、ハブられている筈の高橋さんのにも。

 私は計画通りと、内心ほそく笑んだ。

 私は、隣の長田君に、もう一度、手紙を回す。

「高橋さんに声を掛けられたら、絶対にそこで話しを聞かずに、ダンス部の部室まで連れてくること。私は先に行って待っているから」


 手紙を読んだ長田君は不思議そうな顔をしている。「なんで、高橋さんが僕に話し掛けて来るんだ?」という顔です。


 でも、私は、私に対する嫌がらせ兼高橋さんに対する嫌がらせとして、三国たちは高橋さんに長田君に告白するバツゲームをさせると読んでいるのだ。

 男の子同士でも、この手のバツゲームを良くやるらしいのです。ただし、男子は仲間内なら綺麗な子やかわいい子に告白させて、振られるのを楽しむみたいですが、万が一に、告白されて彼女が「うん」といったらどうするつもりでしょう。

 まあ、そんなラノベみたいな展開はまずないのです。だって、本当のいじめゲームは、男も女も異性の底辺に告白させるのです。男の場合は無理やり抱きつかせるとか、その後、エンガチョで、男も女も両方いじめるとか、女の場合はどうしようもない最低の男に告白させて振られれば笑い者にし、付き合うことになったらなったで、その後、生贄に出した女の子が落ちていくのを影で笑うのです。


 まあ、長田君の顔は知りませんが、紳士的ですし、最低の男でもありません。ちゃんと、自分のことが分かっていて、自分が傷つくことを恐れる極度な自己保身型のタイプです。手相にもそう出ています。


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