第32話 私たちは人であふれる竹下通りに繰り出した
私たちは人であふれる竹下通りに繰り出した。
あれ、さっきからやたら人とぶつかる感じ。何か人ごみを歩くコツを忘れてしまったみたい。そのおかげで、私は二人の歩みにどんどん遅れていく。
「ちょっと、待ってよ!」
私の声も聞こえないみたい。まずいです。女が三人寄ると、2対1の構図になりやすいのです。私はここでもはちにされてしまうの?
それにこのまま離れてしまうと、私はあみとかなをこの人ごみの中、見つけ出す自信がありません。
とうとう、二人の姿を見失いました。さあ、どうしましょう。
大丈夫です。今の時代は携帯があります。それに原宿は何度か来たことがあります。原宿のランドマーク、ラフォーレ原宿の私のお気に入りのお店を待ち合わせ場所にします。
携帯が繋がって、やっと連絡がついて、待ち合わせ場所を指定する。
「どうしたの? どこにいるのよ?」
「はぐれちゃった。ごめんね。ラフォーレ原宿で待ち合わせね」
「まったく、私たち見たいお店があるから、30分後に合流よ」
「了解です」
携帯を切った私は周りを見回す。どこかに座る場所はないのかと探してしているのです。
本格的に気分が悪くなってきました。どうやら人に当たったようです。ショックです。身体がだんだんド田舎仕様になっています。
やっと、椅子を見つけて、座って待つこと20分ほど。あみとかながやってきました。
うん、あの靴にあの靴下は間違いないです。
「あみ、かな、ここ、ここよ」
「ごめん、ごめん。杏奈なんか顔色が悪いよ」
「ちょっと、気分が悪いの」
「どうしたの?」
「なんか、人に酔ったみたい」
「なに、田舎のおばちゃんみたいなこと言っているのよ」
「そう言えば、杏奈って、やたら人にぶつかっていたでしょ」
「うん」
「まさか、杏奈、すっかり田舎に染まっちゃった!」
かな、止めてください。田舎者扱いをするのは! 私は、ただ草の上に寝転ぶのが好きなだけなんです。
そういう訳で、せっかく昔の友達に会ったのに、あまり楽しめないで、一日を過ごしてしまいました。それに、私自信かなり田舎の雰囲気に馴染んでいることを再認識してしまいました。
他の友達に連絡を取っても、忙しいみたいで、私を抜きにした人間関係が、もう出来上がっているようです。もう、ここには私の居場所はない。そんな寂しさを感じる今日この頃です。
それに私の記憶は、どんどんアンナに浸食されてきている。ダンスのために、アンナだった時の記憶を思い出そうとするからなのか、少し前まで、住んでいた東京の友達の顔や、好きだった男の子の顔(近藤君じゃあないのよ。念のため)もよく思い出せない。思い出まで失顔症の症状が出るのかそこは分からない。でも、アンナだったころの知っている人物の顔は、マンガの二次元ではなく、三次元でしっかり思い出すことができるのだ。例えば、マリアだったり、ケルンだったり、それから、私の唯一の親友だったシンディとか。
これは、どういう事だろう。まあ、大した意味はないか。美晴杏奈とアンナ・ガレシアは同一人物です。杏奈の学力の記憶さえしっかり残っていれば、多分これから先も困らない? よね。
後は、親と買い物に出たり、テレビを見たり、自分のダンスのビデオを見たり。このビデオは、和田君が編集したビデオなんですが、なかなかの出来栄えです。
私の格好よさが際立っています。私が有名になったら、このビデオ、プレミアがついたりして。テレビで天才児とか言われて、子どもの頃のビデオが流れたりするのです。
私は少し夢想して、自然とほほが緩んでいるのです。
しかし、すでにプレミアがついて、越山中地下マーケットで販売されていることは、もちろん私は知りません。それに買っている人の中には、自分で楽しむ用と投機目的用で二つ買っている人が居ることも知りません。
引っ越してしまって、ほとんど物が置かれていない私の部屋で、CDを駆けて、ダンスを踊る。そうやって、ゴールデンウィークを過ごしたのです。
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