第31話 まあ、まだ2週間ほどだからね

「まあ、まだ2週間ほどだからね。親しい人もまだ全然いないの。それより、せっかくだからどこかに行こうよ。私も都会の空気を存分に味わいたいし」

「また杏奈ってば、御のぼりさんみたいないい方して。確かに、越山町って大阪の向こうだったよね。福岡のこっちだっけ、あっちだっけ?」

「福岡より東京に近いわよ。九州まで行かないんだから」

 そう、私がそうだったように、東京に住む人は、東京以外の事には興味が無い。地理で学習はするけれども、せいぜい会話の中で出てくるのは、名古屋、京都、大阪、福岡ぐらいで、その他はどこに在っても、その他大勢で眼中にはない。

「まあまあ、そんなことより、渋谷か原宿辺りで、ショッピングなんてどう? 私、夏物の服が欲しんだ。杏奈の都会の空気を満喫したいってリクエストにも合ってるし」

「かな、ナイスアイデアね。そうしましょう。杏奈もそれでいいよね」

「そうね、それでいいわ。立ち話にも疲れたし」

「本当、けっこう、長く話しちゃったね」

 ふふふっ、私は越山中の登下校の長い坂道で鍛えられて、この程度の立ち話は、なんでもないのです。私はあみとかなを引っ張って、新小岩駅に入る。へへっ、久しぶりに若者の聖地巡礼です。


 電車の中でも、お互いの近況報告を話し合い、やがて電車は原宿駅に着いた。

 電車の中でも立ちっぱなし、話しに花が咲いていたので、休憩のために、駅前のおしゃれなカフェに入ってお茶にする。

 実は、私も少し疲れていた。いや、別に体力的に疲れたのではなく、人ごみに疲れたのだ。人がたくさんいるところにいると、こんなに疲れるなんて思いもしませんでした。


 それで、カフェで話す内容は恋バナ。女の子が3人寄れば当然です。

しかし、カップを持つ手に自然に目が行く私。人の顔が分からない私は、いつの間にか手相を盗み見る癖がついていた。盗み見たかなとあみの手相は、金星帯が切れ切れの線になっている。

これは女の子にはよくある手相だ。良い手相の本には、センスが良くって異性を引き付ける魅力ある魔性の手相と書いてあるが「悪魔の予言書」では恋多き乙女、しかも心と体は別のビッチ相だ。さらに感情線が人差し指の方まで長く伸びているのは、運命を信じて弄ばれていることが分からないダメダメ相だ。しかも八方美人の相と来ている。私と付き合ってくれたのは誰にでもいい人に見られたい演技みたいだ。でも、割とすぐに化けの皮がはがれるみたいだけどね。

この二人、将来、異性関係に苦労しそうだ。私のことも本当は暇つぶしぐらいに考えているようだし、会話には気を付けないと……。だって、気持ちよくお別れしたいもの。

話題にするなら、私以外の二人は越山中には興味はないし、必然的にあみとかなが通っている中学の話が中心になるよね。

 でも、私にとってはあなた達のグループ交際の話はどうでもいいんですが。なぜ、私に好きだった男の話を聞いてくる。今更どうでもいいでしょ。この二人の感情を損なわないように、適当に答えとこっと。

「私はね。近藤君が好きだったかな。あまり話したことないけど」

「ええっ、あの近藤君。ゴリラみたいな感じじゃん」

「そうそう、杏奈には合わないって。不潔でガサツな感じで」

 ほら始まった。誰の名前を出しても、こういう恋話ってけなしてくるのよね。自分のアドバンテージを保ちながら、私には返って付き合わなくてよかったって、同情している振りをする。

その辺のことは、手相で分かっているから、敢えてあなた達がグループ交際している鈴木君たちより、スクールカーストの下位の人物を選んであげたのよ。

「もう、終わった話だし、今はなんとも思ってないわよ」

「そんなことないでしょ。今から告白してみれば?」

「いいのよ。自然消滅で。実際には始まってもいないんだけど」

 そう自然消滅、これが誰も傷つかない一番ベストな選択。振られても、付き合っても、若いうちの遠距離恋愛。こんな不安定な状態、いい思い出になるはずがない。

「そんなこと言わないでさ」

「私は、新しい出会いに賭けているの。だったら、古い縁はきっちり切らなくちゃ」

「杏奈って、さっぱりしすぎ。ちょっと性格変わった?」

「そうね。変わったかも。人間の本性を見たというか、思い出したというか……。固執するのは良くないって分かったわ。視野を広く持てば必ず、道は開(ひら)けていたとは思うようになったかな」

「なに、それ?」

「私たちにとっては、今が全てかもしれないけど、いずれ今は過去になるの。だったら、明るい未来のために良い種を撒きたいじゃない。今、刈ってしまうと不毛な未来が見えてくるものなのよ」

 そう、今の私は今現在の行いのすべてが、未来に繋がっていることを知っている。人生はリセットして、やり直せないの意味を本当の意味で知っている中学生なのだ。私ぐらいの人生観がないと手相の忠告もきっと耳に入らないと思う。


「なんか、抽象的ね」

「簡単に言えば、今、ある目的のために私はダンス同好会を作りたい。そのための種を撒いている所で、過去の事を引きずっていると、今撒いている種は腐って、実を結ばないんじゃないかって思うの」

「ふーん。なんでダンス同好会なんて? 杏奈ってバレー部じゃなかった?」

「今の中学校にはバレー部が無かったし、あと、何が得意かなって考えたらダンスだったのよ」

「杏奈、ダンスが得意だったの? まったく、知らなかった!」

「私も、つい最近知ったんだけどね」

「もうー、なに、それ」

「だから今、男に興味はないの。リア充同士、二人が話してよ。私が聞いて上げるから」

「だって、彼氏がいない杏奈に悪いよ……」

 そう言いながら、紅茶一杯で、延々1時間ぐらい、あみとかなのお惚気話を聞かされた。

 でも、あなたたちが付き合い始めた鈴木くんたちって、所詮、私という花に寄って来たところを、あなた達に捕まっただけでしょ。

 あみとかなは、鈴木君たちにとっては代用品なんだから、代わりが現れれば、そっちに行っちゃう可能性が高いんじゃないかな? あなたたちは男にとって都合の良い弄(もてあそ)ばれ相なんだから。

 そういうふうに、心の中で上から目線で訴えてみる。でも、少しさびしくなるのはどうしてなの?

 どう繕(つくろ)おうが、モテない者は、モテる者には勝てないという事かしら?

 私が、そう結論を出したところで、あみとかなも満足したのでしょう。

「さあ、そろそろ行きましょうか?」

「「ええっ」」

 

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