第30話 予習、復習、ダンス、時々いじめ
予習、復習、ダンス、時々いじめ、そんな感じで、日々を過ごすうちに、ゴールデンウィークがやって来た。なんか、日々過ごす時間が早くなっているような気がします。この調子なら、次話あたりは中間テストが始まっていますね……。
えーっと、きっと、気のせいですよね。最初はたった一日を何話も費やしていたのは……。時間は誰に対しても平等に過ぎていくはずですから。
そして、ゴールデンウィークは、久しぶりに東京の家に家族で帰ってきているのです。
この家、おとうさんの転勤期間は、越山町の新工場の立ち上げのための2年ほどという事で、今は近所に住んでいる親戚に管理を任せているのです。
さっそく、東京に帰ってきた私は、ここに住んでいた時の中学校の友達に連絡を取って遊びに行くことにしたのです。
待ち合わせ場所は、「新小岩駅」。関西人がワザとに言い間違えそうな駅ですよね。「しん」を「ちん」とか……。あれ、私、何を言っているのかしら?
その駅で待つこと10分ぐらい。私の前を行く人たちの顔は、やっぱり、へのへのもへじで顔の見分けがつきません。環境が代わったら、失顔症が治るかもしてないという淡い期待は見事に裏切られました。
そして、一抹の不安が……、私、あみちゃんとかなちゃんを見つけることができるかしら?
そうして、不安になっている時に携帯が鳴った。慌てて出てみると、あみちゃんからの電話だった。
「もしもし、杏奈ちゃん? いまどこに居るの? 待ち合わせ場所に来たんだけど、どこにもあなたがいないのよ」
「あれ、おかしいな? ちゃんと中央口の改札の前に居るんだけど……」
そこまで、私が話すと、私の前で、携帯をしながら振り返ってきた女の子が二人。
「えーっと、杏奈ちゃん?」
私に携帯をしながら、話しかけてくる女の子。目の前にいるのに、お互いに携帯で話し合う私たち。懐かしい記憶にある声だ。
「あみちゃん! それに、かなちゃん」
私の顔は豆でっぽうを喰らった鳩のように、ぽかんと口が開いていたのだろう。知っている筈の人の顔が分からない。これは予想以上に大きな衝撃だ。
そんな気持ちも知らないあみちゃんやかなちゃんは、懐かしそうに話し掛けてくる。
「杏奈って、髪を切ったの? なにそのおかっぱ頭、前髪もパッツンだし、すぐには分からなかったわ」
「あみやかなも同じよ。しばらく見ないうちにすっかり変わっちゃって」
「なに、言ってるのよ。杏奈。私たち少しも変わってないわよ。だって、最後に会ったのって、2週間くらい前だよ」
「でも、なんか、雰囲気が変わったみたい。なにかいいことでも有ったの?」
私は言葉を濁しながら、二人の髪形と服装、特に、靴下と靴を記憶に叩き込む。
この靴や靴下は、失顔症で相手を見分けるときにはかなり有効な手段なのだ。
だって顔をじっと見れないから、視線は自然と足元にいくの……。
似たような、初夏のファッション、薄手のカーデガン、その下には薄い色合いのカットソー、そしてミニスカート。私も似たような服装で、周りの人も同じような服装でも、足の筋肉の付き方で、足元だけは個性が出る。そして意外と靴下と靴は目立つのだ。
君たち、面接の時、清潔感あふれる靴を履き、決してくるぶし丈のショートソックスは履かないように。思っている以上に目立つわよ。
あら、私ったら誰に話しかけているのかしら? 私がそんなことを考えていると、あみやかなは、私の質問に私の斜め上の答えを返してきた。
「いいことって。あのね、最近、鈴木君たちとディ〇ニーランドでデートしたのよ」
「あみ、デートと言ってもグループ交際でしょ。杏奈、貴方が居なくなってね、私たちに周りの男子が、色々、あなたの事を聞いてくるのよ。なんで転校したのかとか、戻ってくるのかとか? そんな話をしている内に仲良くなっちゃって、こないだの休みに遊びに行ったのよ」
なに、私をだしに、男と仲良くなったの。女の友情って脆すぎるわ。それになんで男って、相手が居なくなってから行動を起こすのかしら? そう言えば引っ越しが決まってから、私に何人か告ってきた人が居ましたけど……。私からすれば、なにを今更って感じなんですよね。
ひょっとして、後悔しないための思いで作りですか? 傷つくことを恐れているんですか? 相手が居なくなれば、都合の悪い部分はすべて忘れられると、そう考えているのですか?
悪いことは言いません。それは、最初の内こそ、やり切った感がある思い出なんですが、所詮は振られた経験、年数が経つにつれて、黒歴史になっていくのです。だって往生際が悪いでしょ。そのせこさ恥ずかしいでしょ。ソースはあえて言いません。
それにしても、デートでディ〇ニーランドって、お前らが誤った都会の情報を田舎に垂れ流しているのかい? 確か私たちの通っていた中学って、有名私立で偏差値高かったよね?
私が健全なグループ交際という言葉に、過剰に反応して、気を取られていると、あみに、私の件に話題が振られていた。もう少しその辺の話が聞きたかったのに。
「ねえ、ところで、杏奈の方はどうなの? 越山町ってド田舎に引っ越したんでしょ。そんなところにすてきな男っているの?」
「さあ、どうなんでしょうね? 私にはみんな同じ顔にしかみえないから……」
「あっ、わかるわかる。昔から閉塞的な地域では、近親結婚を繰り返しって遺伝子が濃くなっているのよね」
違うわよ。私の失顔症のせいなの。それに今は男よりもダンスなのよね。男はもうこりごり。前世の記憶が男に裏切られて首チョンパなんだもの。
「違うの。今のところ、男には興味が無いのよ。目に入らないが的確な言い方かな?」
「なんだ、そうなんだ? でも、杏奈の事だから、モテモテでしょ。可愛いし、頭もいいし、なにより話題が豊富な都会育ちだしね」
なんだ、その言い方。そのすべてがいじめの原因なんだよ。公立なのに小学校からの小中一環教育、どんぐりの集団の中に混じった丹波栗に明るい未来なんて来ないのよ。
人付き合いって、所詮、主観でしかないのよ。問題はどんぐりが丹波栗を見て、どう思うかなのよ。
まあ、いいです。私の話題はこのくらいにして貰いましょう。ここで愚痴ってもなんの解決にもならないし。
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