第27話 どうして、そんなふうに考えるか

 どうして、そんなふうに考えるかというと、日々、放課後は長田君を連れて、ダンス部の部室に行き、前半は勉強の予習と復習をしているんです。

実際、長田君に勉強を教えていると、そのダメさ加減に頭が痛くなるのです。

数学で言うと、X+X=XX X+2X=XXXと答える。なに、あなたの頭の中は、物体Xが、うねうねしながら列を成しているのですか? いまだに、石ころを並べて計算している原始的な方法で計算しているの? 九九からやり直してみる? XXXなんて、トリプルXってXが三つ並んでいるだけでしょ。誰もXが3個あるなんて思わないよ。大体、四則記号が省略できるのは、×と÷だけですから。

英語は、もっと悲惨よ。MAKEをまけと読んだときには、机から転げ落ちそうになったわ。それってローマ字読みでしょ。アイ マケ ア カケ(CAKE)、 なに、ひとりで早口言葉を言っているのよ。

でも、ちょっと待って。今おかしなことに気が付いたわ。ケーキって切って分けることが出来るのに、なんで冠詞がAになるの? なぞが一つ増えたわ!


そして、散々長田君の学力に落胆した後、一段落つけば、社交ダンスの基本、ステップを長田君に教えている。もっとも、殆ど勉強に費やされて、ダンスの練習時間はほとんどありません。

それに、私、フットプレッシャー、レッグアクション、ボディアクション、なんて、もちろん、そんなものは知りません。

 だって、異世界で受けた、ダンスレッスンなんて、個々の先生が自分の言葉でああしろこうしろと言うだけなんです。

 まだ、この世界のように、ダンス団体が設立されて、教え方も洗練されて、共通の指導法が確立されていない訳なんです。


 だから、長田君に言うことは、専門用語なんて使いません。鳩尾に重心を置いて、体幹を意識する。そして、足の親指の付け根で床を押す。この床を押すというだけで、体は自然と伸び上がり、姿勢がよくなり背筋が伸びます。

 そして、足は、膝にゆとりを持って、弧を描くように、内またに絞るように、内に入って外に出すことを意識して、足を前に出す。

 さらに、みぞおちの背中側、ここが反れれば完ぺきよ。ってなんで、腹を出すのよ。そこで首を反るんじゃないわよ。

 どお、これだけで、美しい姿勢で優雅に歩くことができるでしょ。そこまで教えているのに、なぜ長田君は猫背になるよ! 顎が出るのよ! まるで、類人猿からホモサピエンスの進化の過程を見ているようです。

 長田君、頑張って! 人間になるのはもう少し精進が必要です。


 まあ、長田君には、とりあえず中間テストを頑張ってもらって、最悪、マネージャーでも構わないです。

 私は、長田君に歩行を反復練習させながら、何度も、人類の進化の過程を横目で見ている。

 そして、私はというと、アン、ドゥ、トロァ、アン、ドゥ、トロァ、と言いながら、ステップを踏んで踊っている。

 あれ、バレエって、社交ダンスが起源だったかしら? まあ、踊りのワルツが3拍子なんだから、リズムの取り方は同じですわね。それに何か振付も宮廷舞踏で踊るダンスに似ています。

 そう考えると、腕の振り方にバレエのアレンジを加えたくなる。少し前にテレビで見た、白鳥の湖のように、サイドステップ、サイドステップ、バックステップから両手を広げてターン、そして、曲線を強調するように反り返り、右足を蹴りあげた後、そのまま伸ばして、着地、ピタッと止まって、ピクチャーポーズ。

 あら、良いわね。両手を上げたニューヨークでピタリ決まるわ。

 不思議なものね。厳しいレッスンを受けていたアンナの時のように、からだが自由自在に動くわ。まるでからだに染み付いた習性のように、私の身体は覚えている。

 知識だけじゃなくてよかったわ。偉そうな御託を並べて、実技がさっぱりだったら、悲しすぎるものね。

 前世の容姿やスキルを今世に持って生まれている。そういった意味ではラッキーと言えるわ。だって、悪役令嬢は基本前世の知識だけ持っていて、容姿のスペックは生まれ変わった悪役令嬢の方が断然上みたいだもの。私は勇者がその能力を持って、現世に転生したパターンに近いわね。


 そこまで考えて、私はいいことを思い付いた。

「長田君、ちょっと、視聴覚室に行って、ビデオを借りて来てよ」

「ビデオを借りて来てどうするんだ?」

「私の踊るところを撮るに決まっているでしょ。ここは鏡張りになっていないんだから、私の踊る姿を客観的に見られないの!」

 なんて勘の悪い人でしょう。反省を促すために、私が長田君の進化の過程を撮って、恥かしいビデオを何度も再生して、辱めてやらないといけません。

 ああっ、なるほど、これは完全な黒歴史になりますね。これをユーチューブにアップするとか言って、脅すのもの一興です。

 私の顔は、かなり悪い顔になっていたようです。慌てて長田君は視聴覚室に飛んでいきました。


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