第21話 それから、女子の方も新たな展開が在ったわ
それから、女子の方も新たな展開が在ったわ。
休み時間や、放課後、私に対する警戒レベルが、第一級警戒レベルから通常警戒レベルに変わったみたい。私や自分の彼氏に対する防御が、かなり緩くなっているもの。
でも、私のそばを通る女子が、みんな「キモ!」を連発していくようになったの。
これは、アレね、狙い通り私の女子の間のヒエラルギーが、底辺に落ちたということよね。キモい長田菌に感染して、私も長田菌キャリアになったみたい。
まあ、私ったらゾンビになったみたいね。大丈夫よ。あなた達を襲ったりしないから。
だから、私の事は死んだもの、居なかったものとして扱ってくださいね。
よし、大分、気楽に動けるようになって来たわ。この調子だと、明日には私と長田君が付き合っているといううわさは、学年中に広がるわね。
私は、うきうきしながらステップを踏んで、下校時の坂道を降りて行く。
こんな根も葉もない噂を立てられても、心が痛んだり学校に行くのが嫌になったりしないのは、私の壮大な目的のためもあるけど、相手の顔が良くわからない失顔症のおかげでもあるのよね。
私の中では、顔の良し悪しで人を判断したり、見下したり、下げずんだりする感情が湧いてこないんですもの。前世の私が面食いだったなんて信じられないくらい。
学校から家に帰ってくると、お母さんに挨拶してすぐに自分の部屋にいく。
そして、途中で寄ったコンビニで買った画用紙を広げて、ダンス部の部員募集のポスターの構図を考えている。
まあ、私の立場からいって無難な方がいいかな。でも、全国ダンス部選手権を目指すことは書いた方がいいよね。私の中では、前世の王都で行われた舞踏会の様子が浮かび上がる。
音楽に合わせ、男女の組が思い思いにステップを踏む。でも調和がとれた優雅な世界。
ここで、みんな同じ動きで合わせたら?
――うーん。すてき――
あれ、これだけの演出をしようとしたら、たった5人じゃ足らないよ。
最低でも10人、出来れば20人は欲しいわね。でも、20人もいたら、私、失顔症だから、パートナーチェンジやポジションチェンジが、上手く出来るかしら? 衣装を揃えたら……、自信がないわ……。
私は、いきなり上がったハードルの高さにうんざりする。
まあ、アレよね。要は私一人が目立てばいいのよ。アイドルグループの中で、ひとりだけが目立って、スターダムを昇り詰めるパターンって多いから。私が有名になれば、おまけで越山中だって有名になれるわよ。
うん。目的から外れていないわ。
そんなことを考えていると、お母さんに「ごはん、できたよ」と呼ばれて我に返った私。
その日の夕食は、お母さんと久しぶりにわいわいおしゃべりをした。
テンションの上がった私は、ダンス部を作るとお母さんに宣言して、呆れられてしまったんですが、ロシアに住むおばあさんに、今は着ていないドレスを送って貰うと約束してくれた。
えっ、おばあさんって社交ダンスを習っていたの? さすがロシア在住だ。
でも、おかあさんって、引っ越してきてから私がふさぎ込んでいたのを見て、かなり、気にしていたみたい。わたし、お母さんに結構心配かけていたのね。でも、大丈夫。私、精神的に結構打たれ強いのよ。だてに、ギロチンで首を飛ばされたわけじゃないんだから!
私には記憶がないんだけど、「アメリーナ王国の花嫁」では、飛ばされた首が、かっと目を見開き、「私の身体には手を出すな!」と大声で喚き散らしながら 身体まで舞い戻り、「もう一度マリアに報復せん! アメリーナ王国に天の鉄槌を!」と叫んで死んだらしい。
なに怖い。どこかの武将じゃないんだから止めてよね。でも、それだけケルンやマリアにとって、敵としては強大だってことよね。そうやって自分を納得させることにしょう。公衆の面前で晒し首にまでなったのに、しょぼい小物じゃ、自分がみじめすぎますからね。
さて、今日は家に帰ってからも、色々と頑張りました。
私は出来あがったポスターを見て満足して、布団に潜り込んだのでした。
さて、翌日、また下駄箱のところで、カバンから上履きを出し、履き替えた下履きをカバンに入れて、廊下を歩いていきます。
廊下をすれ違う女子に、「キモ!」と声を掛けられます。これは、大分噂が浸透していますね。
男子は遠巻きに私を見ている感じですね。私に直接話し掛けないのは、女子の目が怖いからでしょう。
教室に入ると、すぐに目に着くのが長田君を取り巻く男子たちです。長田君を冷やかすのではなく、批難しているよう見えます。聞こえてくる声も、「なんで、お前が?」とか「お前が相手なら、俺でも勝てる!」とか「俺が美晴さんの隣だったら……」とかです。
私が、自分の席にいくと、それまで、がやがやしていた男子たちが急に静かになります。
私は頃合いを見て長田君に声を掛けます。
「長田君、今日の放課後、覚えている?」
「ああっ、大丈夫、ちゃんと覚えている」
「よかった。じゃあよろしくね」
私はそれだけ言うと、自分の席に座り本を広げる。
舌打ちをする男子や、バカにしたような顔をする女子。確かに私の隣にいたことで、長田君を生贄に使った自覚はあるわ。だいたい私って、長田君だってその席を離れたらどこの誰だか分からなくなるんだから。そこの舌打ちをした君、別に隣は君でもよかったのよ。
それに、「俺でも勝てる」って言った君、だったら、告白してみればよかったのに。
わたしが、女子に囲まれて攻められている時は、声の一つも掛けられなかったくせに。女子の一睨みが怖いなんて、所詮、あなたもヒエラルギーの底辺ってことでしょ。
その点、長田君は私の南壁の城壁を任せた将軍なんだから、骨があるってことでは、長田君の評価の方が高いわよ。私の中ではね。
それに、さらに別の防波堤に任命予定なのよね。
まあ、色々理屈をこねていますけど、長田君の弁護ができるほど、心に余裕があるってことで、今日の攻撃は、昨日までに比べればまるでそよ風のような風当たりね。
そういう訳で、今日は大分楽できて、助かりました。
だから、神経が磨り減ることなく、無事に放課後を迎えることができたの。
「長田君、一緒に付いて来て」
私は、長田君の手を引っ張って、教室を出ていく。
「ち、ちょっと美晴さん、手……」
「急いでるのよ。別にかまわないでしょ」
この下校時の生徒が溢れる廊下で、もし手を離したら、私は二度と長田君を認識できないかも知れないのよ。心配しないで、これはラブコメじゃなく、やむにやまれぬことなの。
ほら、アニメでもやっていたでしょ。女子に向かって、男がその気になってしまうので意味なく行うことを止めてください三か条。
・男子に意味もなく、声を掛けない。
・男子に意味もなく、ボディタッチしない。
・男子に意味もなく、物を借りない。
私が、長田君の手を取るのは意味があることなの。
あの主人公と同じで、モテないことを自覚している長田君なら、その気にならないよね。
私は、長田君を下駄箱の所まで連れて行き、そこにある掲示板を示した。
「ほら、ここに、このポスターを張って」
「ポスター?」
「ほら、早く早く」
「ダンス部員募集? 連絡先、二年四組 長田ひろしまでってどういうことだよ?」
「ダンス部を作るの。その代表者が長田君。もちろん、私も部員よ」
「いや、僕なんてダンスなんてしたことないし、無理だよ」
「いまさら、断るかな。「長田君って、部活に入っていないんだ。だったら、今度、お願いすることもあるかも知れないから、その時は、よろしくね」って頼んだら、「うん、いいよ」って答えていたと思うんだけど」
「いや、あれは部活に入っていないから、暇だろうって、だから、用事があるときは付き合っての意味だと……」
「部活に入っていないんなら、今度、部活作るから、お願いっていう意味に取れない?」
「うーん」
「取れるよね。っていうかそれ以外に取りようがないよね!」
「……はい……」
勝った。足元をすくい合う異世界貴族育ちの私に、曖昧は返事をした方が悪いのよ。すでに長田君の性格は把握している。もうあなたは詰んでいるのよ。
以心伝心? 甘い甘い! そんなものは幻想よ。実際は言葉にしても正確に伝わらないものなのよ。常に交渉相手は、自分を貶めるつもりでいることを肝に銘じて、言葉の裏を読みとらないと、これからは精進しなさい。ねっ、長田君。
私はにっこり笑い、長田君にポスターを張るように促した。
そして、ポスターを張り終えた長田君に、今度は職員室に向かうことを告げたのです。
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