第13話 隣に座っている美晴さんが
――長田君サイド――
隣に座っている美晴さんが、突然「庄田君ってかっこいい」って言い出したんもんだから、僕は椅子から転げ落ちるぐらいのショックを受けた。しかも「外見だけじゃあわからないから、話しかけてみようかな」とか。どうやら、個人の感想という独り言を、言っただけみたいなんだけど、周りの女子にも聞こえたみたいで凄い騒ぎになった。
それで、立ち上がった美晴さんを、庄田君のところに行かさないように、前に座る森さんが、美晴さんの前に足を出した。それに美晴さんは躓いたんだけど、僕の横に立っていた高橋さんにぶつかった。
僕の近くで小競り合いって、やめてほしいなって思っていたら、高橋さんが座っている僕の膝の上に横座りするように、すっぽり落ちてきたんだ。
えっ、僕はびっくりした。しかも、僕の股間の上で、腰をくねらせて高橋さんは、立とうともがいている。女の子とこんなに密着したことがない僕は、体全体が固まってしまって、どうしたら良いのかわからなくなっていた。早く何とかしないと、体の一部が、特に固まっていることが、高橋さんにバレてしまう。
やっと、高橋さんは佐々木さんに引っ張られ、僕の膝から立ち上がったんだけど、その後、美晴さんには当たり散らすわ、僕のことをキモいと二回も繰り返すわ。大変だった。
でも、美晴さんは不可抗力、私も被害者と言って、足を引っかけた森さんの首元に、物差しを突き付けていた。
物差しが、一瞬バラの扇子に見えた気がするほど、華麗な動きは相変わらずだった。
そして、僕の方を見て、ウインクしてサムズアップしてきた。まったく、訳が分かりません。でも、その後の休み時間は僕と美晴さんの間の通路には、クラスの女子が立たなくなって、僕の窮屈だった休み時間は、唐突に終わりを告げたのだった。
そのことを予言してのウインクとサムズアップだったのか?
そういう訳で、静かに弁当を食べていたら、美晴さんが僕に話しかけてきた。それも、東京の話題をしようとして……。こんな田舎でも、東京の話題は意識しなくても勝手に耳に入ってくる。銀座、赤坂、六本木、それに、新宿、渋谷、原宿、青山、知っている地名だけでも、次から次へと出てくるんだ。
それが実際はどんなところかなんて、僕には全然興味が無い。美晴さんに聞こうとも思わない。だって、僕は越山町に住んでいるんだ。
美晴さんだって越山町に住んでいるのに、越山町のことなんてまるで興味が無いんだ!
都会の人が田舎に全く関心を持っていないことが、悔しい。無視するんじゃなくて、全く興味がない。でも、こちらからは都会に無理やり関心を押し付けられ、否応なく目を向けさせられ、無関心ではいられない。
このいら立ちを、思わず美晴さんにぶつけてしまった僕。
不味かったかな?
でも、美晴さんは、少し考えた後、僕に向かったこういったんだ。
「長田君、あなたの無念、私が晴らしてあげます」
いや、僕は、別に無念を感じて死んだわけじゃないですよね……。いや、あなたのその鬼気迫るセリフ、美晴さん自身が、非業の死を受けたことが在るんじゃないでしょうね?
そう言うと、美晴さんは生徒手帳をパラパラとめくりだした。
***************
私は、生徒手帳を熟読しています。どこを熟読しているかというと、第5章、部活動についてなんです。
越山中にある部活動、バレー部が無いのは三国さん情報でもう知っています。私が探しているのはダンス部。とは言え、今流行のヒップホップダンスやストリートダンスではなくて社交ダンス部です。
ケルン王子の婚約者であった私は、厳しく貴族の作法を躾けられました。特に厳しくレッスンを受けたのがダンスレッスン。王都の舞踏会では「ホールに咲く大輪のバラ」と言う二つ名を持っていました。
ほら、私って美しいから、舞踏会では悪目立ちするんですよね。
きっと、この世界のダンス大会でも、私の容姿と華麗なダンスは、みんなの注目を集めるに違いないわ。まあ、全国大会ではぶっちぎりの優勝。海外のダンス大会にも招待され、世界中の注目を集めるの、天才ダンス少女としてね。
それで、皇室や政府高官の前でも、ダンスを披露して、国民栄誉賞とか貰ったりして……。
ダンスは、日本ではそれほどでもないですけど、海外ではセレブたちのたしなみですものね。文化的にもそれから注目度だって高いはずです。
それで、マスコミにも千年に1人のダンス天才美少女って取り上げられて、テレビやCMに引っ張りダコになって……。
ついでに、越山町だって有名になるに違いないわ。マスコミだって殺到するでしょうし。
私は、妄想を膨らませるだけ膨らませ破裂寸前のところで、ダンス部が無いことに気が付き、冷静さを取り戻したのです。
危なかったです。もう少しで、立ち上がって「ここまで来られたのは、両親を始めとする皆さんが、私を支えてくれたおかげです」とか、妄想の中、優勝カップを抱きかかえ、差しだされたマイクに向かって、インタビューに答える所でした。
――よかった。恥を掻かなくって。
さて、冷静になって、生徒手帳を読み進めます。
無い部活は作ればいいんです。部を作るためには、部室を確保して、五人の部員を集め、先生に顧問になってもらう必要があります。
そうしてから、生徒会に申請して、許可されたら、部費の支給無しの同好会から始めるわけですか。そして、実績が認められたら部に昇格です。まあ、私が居れば全国大会優勝間違いなしだから、部に昇格することは問題ないでしょう。
それより、問題は部員を五人集めることと顧問になる先生を見つけることですよね。部室は過疎の町の中学校らしく、空き教室が結構あるみたいですからね。
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