第12話 それにしても、悪役令嬢転生ものは
それにしても、悪役令嬢転生ものは私と違ってずるいです。だって、未来がわかっているんですもの。しかも、知識と見識のある大人が15,6歳に転生するのですから。これって、別に異世界じゃなくても、大人たちの願望である若返ってもう一度人生をやり直すことが出来たとしたら、かなりのアドバンテージがありますよね。
私ってば、アンナ・ガレシアの時が、16歳と半年で断頭台の露と消え、美晴杏奈は、14歳と半年しか生きてないんだから、大した知識も経験もないんです。まあ、生きた年齢だけは30年ありますけど、30歳の大人の頭の中は、只の中学生のガキって、こっちの方がハンデでしょう。
ハンデと言えば、失顔症のこともありますし、今みたいな状態ですと、かえって助かったりしますが、彼氏や友達を作るのにも、コミュニケーションでかなり苦労しそうです。
そうだ、コミュニケーションって言えば、高橋さんを忘れていました。
唯一、私の葛西臨海公園の話に乗ってきた人。そうです、私には、都会に住んでいたというアドバンテージがあったのです。
情報っていうのは一方通行。情報は都会から田舎にしか流れない。くっくっ、田舎もんがどれだけ必死になって、田舎をアピールしたって、反応するのは田舎を食い物にしようとしているあざとい詐欺師紛いや、都会の生活に疲れて夢破れた負け犬だけ。
一般の人は、そんな情報に興味がないんです。だから、人物金が動くことがない。
情報を制するものだけが、場を支配し勝利を得るのです。
そして、その情報発信の仕方は、貴族の社交界で培った私の話法で、みんなの興味を引き付けるのです。都会の話をして、この高橋さんや隣の長田君を味方に引き入れます。
何と私は、こんなくだらないことを午前中いっぱいかけて考えていたようです。
気が付いたら、みんなはお弁当を広げて食べ始めています。
私もカバンからお弁当を出して、食べることに専念することにしました。だって、転校してからは、友達もいなくて、食べるぐらいしか楽しみが無いんですもの。当然、デザートも頂きますわ。
それにしても、私の前に座っている一つ前と二つ前の女子。仲良く向き合ってお弁当を食べています。それに、お弁当をネタに、左右の男子向かってアピールをしています。
けっ、弁当を自分で作ってきたことが自慢になるのかい? どうせ、本当はお母さんの作った総菜を弁当の中に盛り付けただけだろう? 何、中学生が私って家庭的でしょってアピールしているのよ。あざとすぎる!
まあ、いいか。それにしても、斜め後ろの長田君には話し掛けないんだ……。
まさか、長田君って本当にキモいの? まさかボッチ飯にいたたまれなくなって、教室を出て便所飯とか、まあ、それはないか……。でも、どこか人目のつかない場所に、パーソナルスペースとか持っていて、そこに食べに行かれてたまりません。
長田君の空いた席を、また女子に占領されると、私の唯一楽しみにしている食事でさえ、気が抜けなくなります。アンナの時は、パーティのたびにせっかく大好きなケルンにエスコートされていたのに、マリアが気になって、カクテルや料理も本当に楽しめませんでした。ああっ、思い出しても腹が立つ。
あっ、そうか、あの時は必死に、攻めることばかり考えているから、ケルンを守ることを忘れて、マリアに横取りされてしまったんだ。私がケルンに愛されるように、自分を磨いていれば……。
転生悪役令嬢話ばっかり読んでいたに、物語からは全然気付けなかった。現代知識や乙女ゲームの結末を知っていたから、悪役令嬢はゲームと違った結末を迎えることが出来たんじゃない。ゲームと違う結末を迎えることが出来たのは、周りには目もくれずに、自分を磨き続けたからなんだ……。
こんなことにも気が付かなかったなんて……、嫉妬ってホントに怖いわ。
まあ、この結論はとりあえず置いといて、長田君がボッチ飯に走らないように、長田君に話し掛けます。
「ねえ長田君って、東京について知りたいことってある?」
「うーん、どうだろう。大体、東京のことって知ってるもんな」
「でも、ほら実際には行ったことがないでしょ。実際はどうなっているのとか知りたくない?」
「別に知ったからって、行くわけじゃないからね……。それより美晴さんこそ、この越山町で行きたいところってある?」
「えーっ、あるわけないじゃん。どこに行ったって山と田んぼだけでしょ」
「そんなことないよ! 観光地は昴神社が在るし、買い物ならスーパーとかコンビニとかもちゃんと在るし……」
「昴神社? そんなのあったかしら? ああっ、でもコンビニは知ってる。一回行ったから。でも、店とか凄く少ないし、それに、電車も2時間に一本しかないから、隣の平野市に行くにも不便だし」
「美晴さんも、都会に住んでいる僕のいとこと同じことをいうんだね。この越山町に住んでるのに……」
「だって、つまんないでしょ。やっぱり都会が最高。東京のことを色々知ってるんでしょ。
だったらそのことをお話しようよ」
「美晴さんだって、越山町に住んでるのに……。おかしいよ、話題が東京のことなんて……。 都会の人は、誰もこんな田舎に興味なんかないんだ……」
なに、長田君落ち込んでるの。周りの女子たちも、和田君の言うことに同意するように私を睨みつけています。
えーっ、どういうこと? この人たち、都会に興味を持っていると思ったのに、都会が嫌いなの?
だって、情報は一方通行だよね。文化度の高いとこから文化度の低い所に一方通行に流れるのよ。この事実は歴史が証明しているんだから。だから田舎の人は都会に憧れている。でも、でも都会の人は嫌い。なんか矛盾しているなあ……?
長田君、最後になんて言ったんだっけ?
「誰もこんな田舎に興味なんてないんだ」だったわね。そっか、そうだったのね。
この人たちの持っているコンプレックスの根っこって、都会の人が興味を持つようなものが、田舎には何もないっていうことが問題なのよ!
あっ、そうか! 何もなければ作ればいい。
自分を磨きながら、前世貴族だった私が出来る事。田舎から強烈に、都会に向かって情報発信する方法。
わかったよ、神様! 何で、この世界に転生することになったのか!
そして、なんでこの田舎に転校することで、前世の記憶を思い出したのか!
長田君、私がこの越山町、いえ、越山中を、東京から……、違うわ、日本中から注目を集めて、その記憶に刻みつけてあげるわ!
自分探しの旅の終着駅にたどり着いた。長田君に向かって、仕置き人のナレーションのような声を掛ける。
「長田君、あなたの無念、私が晴らしてあげます」
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